バディのボディをじっくり観察してみた


ヒーロー専用トレーニングセンターのシャワールームはなかなか備品が充実している。
ボディーソープからシャンプー、リンス、コンディショナー、バスタオル、いつでも手ぶらでトレーニングに来られるようになっている。
今日は何も準備してないからトレーニングに行けないなどというマヌケなことになることはない。
品質もなかなか良い。安っぽい品やゴワゴワに硬いタオルなどはなく、割と有名どころの商品やいつもふんわりと軟らかく吸い込みがいいバスタオルが準備されている。
他にもシェイバー、ムース、メンズコスメ、ネイル製品、虎徹などに言わせれば「男が使うかコレ?」というものもあるが、男の中の女、ネイサンがいるから不要なものではないはずだ。
それらのすべてはスポンサーからの厚意なのだが、自社の推すヒーローにだけでなくトレーニングセンター用にと提供してくれるのは、やはりヒーローといえども人間。スポンサーへの好感度はあがる。
一社が提供すれば、他のヒーローのスポンサーも負けじと提供してくるから、シャワールームだけでなく休憩室にもカロリーバーや飲料水など色々な物が常時豊富に取り揃えられている。
とはいえバーナビーの場合、ブランド、髪質、その他諸々の拘りから、自分で使うものは自分で持ち込むようにしている。
慣れない匂いを身に纏わりつかせるのはなんか嫌だし、髪に至っては使用後の感触、手触りが違う。
こまめに補充することさえ忘れなければ、ロッカーの中に置いておけばいいのだ、不自由はない。
虎徹はといえば、メーカー、ブランド、その他諸々、まったく気にならないらしく、提供されているものを有り難く使っている。
いつもつけている香水さえ持ち込んでいないから、朝からお洒落に香水の匂いを漂わせていても、トレーニング後はボディーソープやシャンプーの清潔な香りを身に纏うことになる。
コロコロ変る自分の香りに虎徹は違和感を感じないらしい。
バーナビーとはとことん正反対な男である。そして、正反対なのは性質だけでない。

*

「バニーちゃんって本当に真っ白だなぁ」

偶然にもほぼ同時にシャワーブースから出てきた虎徹が、髪をタオルで乱暴にガシガシ拭きながらしみじみといった声色で言った。
振り向くと、腰にタオルを巻きバスタオルを頭から被った虎徹が感心したような目でバーナビーを見ていた。

「なんですか、いきなり」
「いやぁ、バニーの裸みてなんかしみじみと思っちゃったんだよね」

バーナビーも虎徹と同じく腰にタオルを巻いているだけの状態だから、ほぼ全裸に近い。
それを見て、他意はなく単純に思ったことをそのまま言葉にしたのだろう。
虎徹らしいといえば虎徹らしいが、そんなことを言われてもなんと返していいのかわからないから困る。
人種の坩堝のシュテルンビルトには様々な人種がいる。
バーナビーのような白い肌はもとより、褐色の肌、黒い肌、多種多様だ。
そういえば虎徹の肌の色はなんという色なのだろう、とふとバーナビーは思った。
白人は白、黒人は黒、ならば黄色人種と呼ばれる東洋人である彼の肌は黄色と考えるのが普通だが、どうみても黄色には見えない。
改めて考えてみると、なんか不思議な気分になった。

「触ってみてもいい?」

ちょっと思考と飛ばしていたバーナビーのすぐ前にいつの間にか虎徹が立っていて、興味津々といった顔で見上げていた。
美貌を絶賛され、ハンサムというあだ名までつけられているバーナビーには不埒な下心を持って近づいてくる人間は、女も男も性別に関係なく後を絶たない。
不快なことに男からさえも性的な目で見られることも少なくはない。
だが、虎徹の眼の中にはそんな見慣れた色のついたものは一切なく、まるで子供のような好奇心が浮かんでいるだけだ。
バーナビーの何にそんなに好奇心を刺激されたのかさっぱりわからないが、わからないからこそここで断ればわからないままになってしまいそうで、つい「どうぞ」と答えてしまっていた。

「じゃ、遠慮なくー」

満面の笑みを浮かべて虎徹がわくわくした表情で手を伸ばす。
最初に両方の二の腕をガシリと掴まれた。そして弾力を確かめるようにぐいぐいと揉まれる。
次に掌で肌質をチェックするように何度が撫でられたあと、手首までスススと輪郭をなぞられた。
次に虎徹の手は腹筋に移った。指先でつつき、拳を押し込み、腹筋の反発を確かめる。
そのあとは胸板、最後には背後に回られ肩甲骨や背中を両掌でぐいぐいと押された。
つんのめりそうになるのを足と腹筋に力を入れて堪える。そのくらい遠慮ない力加減だった。
上半身だけとはいえ全体を弄られはしたが、まったく性的な動きではない。
無粋だが乱暴ではなく、許可があるためか遠慮を一切しない手が強く時には優しく、肌の上をなぞっていく。
たぶん時間にすれば、ほんの数分。いや、もしかしたら1分にも満たなかったかもしれない。
だが、体を這い回る手をなぜか意識し過ぎて長い間撫で回されていたような妙な気分になった。

「で、なんだったんですか」

ぐるりと一周して正面に戻り、ようやくバーナビーの体から手を放して2歩ほど引いた虎徹に問いかける。
理由もわからず撫で回されるのは性的な意味がなくとも気分は良くない。

「いやぁ・・・やっぱ、かてぇなぁ」
「・・・は?」

思わず、まぬけな声が出た。

「こんなに真っ白ならわりとふんわり柔らかいんじゃないかなーと思ってたんだけど、やっぱヒーローだわ。かてぇかてぇ」

何を言われたのか理解したバーナビーは心底呆れた。そしてそれを隠すことなく表情に乗せる。
白いものは柔らかい。
そのイメージはなんとなくわかる。だがそれを自分にも当てはめる意味がわからない。
白いから柔らかい。
そう勝手に思って、確認したい衝動にかられた挙句抑えることなく触るだけ触って、当たり前の結論にいきついた結果、かてぇなぁと当たり前のことを呟く虎徹はどこからみても大人気なく、子供そのものだ。
ヒーローじゃなくとも一目瞭然な、脂肪ではなく筋肉に覆われているこの体を見て、柔らかいかもと考える思考回路がよくわからない。
馬鹿じゃないですか。
そう言ってやろうと口を開いたのと同じタイミングで離れていた虎徹が再び1歩踏み込んで来た。
触れ合わんばかりまで近づいた虎徹の眼がバーナビーの眼を覗き込んでくる。
身長は5センチほどバーナビーが高い。自然と虎徹は下から見上げることになる。所謂上目使いだ。
5センチはキスをするのにちょうどいい身長差。という言葉がふいに頭の中に浮かんだ。
そのくらいの距離で、そう錯覚しそうなほどの顔の近さだ。しかし、やはり覗き込んでくる虎徹の瞳の中には性的なものは一切ない。
反対にそんな風に一瞬でも意識し、虎徹の感情を探ろうとしてしまう自分自身に辟易としてしまう。

「・・・今度はなんですか」

逸らしたら負けるような気がして、真正面から虎徹の眼を見つめて問いかける。
茶色く大きな、そして優しく力強い色と、またもやはち切れそうな程の好奇心を覗かせた眼に、嫌な予感がする。

「やっぱもの凄く綺麗なグリーンだよな」
「・・・は?」
「ちゃんと普通に見えてんのか?お前の世界って薄いグリーンで覆われてたりしない?」

呆れて声も出ない。
この質問をしているのが幼稚園児なら微笑ましいのだろうが、もう三十路も三十路、40にもうすぐ手が届く男の台詞じゃない。
こんな子供っぽい馬鹿な疑問のために、ぐるぐると色々考えて感情的にふりまわされたのかと思うと少々腹立たしい。

「馬鹿ですか、貴方は」

さっき言えなかった言葉を今度は遠慮なく吐き出す。

「なんだよ、それ。素朴な疑問じゃないか」

ぶーと唇を突き出す顔をみて、今まで無意識に押さえ込んでいた感情がムクリと頭を擡げる。
それは大の男に、それも中年男性に似合うはずもない『可愛い』という感情だった。
突き出された唇を摘んでひっぱりたい衝動。
ピクリと指先が動いたが、すぐにそれに気が付き衝動を押さえ込むことにどうにか成功した。
自分よりも一回りも年上の男。表情豊かでお節介でコミカルな動きは一見三枚目にしかみえないのに、自身のヒーローとしてのポリシーだけは頑固なまでに曲げない、そんなときは成熟した大人の男と化す。
アンバランスな不思議さがあり、時には腹立たしく、時には尊敬の念を密かに感じる。
そんな男を『可愛い』と思うとは自分も末期だと絶望的な気分になる。
だがふと、以前誰かが言っていた『馬鹿な子ほど可愛い』という言葉を思い出す。
この数分間だけで自分は虎徹を何回馬鹿だと思い、何回呆れたことか。
そうか虎徹が馬鹿だから、本当に心底馬鹿だと思ったばっかりだから、それに比例して可愛いと感じたのかもしれないと無理矢理自分を納得させた。

「その法則だと、浅黒い貴方の肌は硬く、貴方が見ている世界は茶色に染まっていることになりますね」

そう言うと、「そんなはずないでしょ、バニーちゃん馬鹿だねぇ」という返事が来た。
なんだ、それ。虎徹が言ったことをそのまま返しただけなのに。なんだ、その返答は。
ホントにこの人は馬鹿だ、馬鹿馬鹿馬鹿。
馬鹿という言葉で頭をいっぱいにしながら、バーナビーはにっこりと笑ってみせた。

「じゃあ、僕も確認させてもらいます」

許可ではなく、決定事項だ。虎徹の返事も待たずに無遠慮に手を伸ばす。
肩にかけられているバスタオルを払うと、「おい」と虎徹が抗議しながら既に床にあるタオルに視線を落とす。

「はい、顔はこっち」

両手で頬を挟んで顔をあげさせ、指をするりと耳の後ろから首筋に沿わせた。
くすぐったかったのかちょっと驚いた顔をして小さく肩を竦めた虎徹をみて、少し心がすく思いがする。
こっちばかり振り回されてたまるか。最初はそんな気持ちだったが、虎徹の肌に触れその肌質に驚きを感じたとき、そんなものは吹き飛んだ。
褐色でも黄色でもない、だがバーナビーよりも濃い色をした健康的な肌は、とても触り心地がいい。
まるで鞣革のようだ。弾力もあり肌理が細かい。
柔らかく優しい女の肌と全然違うのに、感触はそこらの女よりも気持ちいい。
掌で肌の感触を楽しんだあと、虎徹がバーナビーを触ったときと同じ動きで、その筋肉や筋や形を確かめる。
パンチを得意とするだけあって、腕、肩にはしっかりとした筋肉がついている。
見るからに筋肉!という隆々としたものではなく、すっきり綺麗についているのだ。
人種の違いは骨格や筋肉のつき方にも表れる。東洋人は西洋人とくらべて筋肉の付き方が華奢だ。
どんなに鍛えても太腿ほどありそうな腕、とかにはならない。そうなりたくてもなれないのが実情だ。
だが、筋肉をつければなんでもいいわけではない。下手すれば体が重くなり俊敏性を失うことにもなる。
虎徹の体は人種としては最高にバランスが良く、鍛えられた体をしているのだと思う。
腹筋も軽く割れていて、触れると硬く、押すと筋力が押し返してくる。柔らかい無駄な脂肪はいっさいついていない。
30代後半で同世代の男なら脂肪がつきはじめている年齢だろうに、年齢を感じさせない若々しさだ。
10年、体を酷使するヒーローをやってきただけはある。
ハンドレットパワーは他のヒーローのように常時使える能力ではない。
いくら能力が100倍になるとはいえ、時間制限がある力だ。1時間毎に5分間だけ。
つまり残りの能力を使えない時間は自らの肉体だけで戦わなくてはならない。
その大変さは同じ能力を持つバーナビーが一番良く知っている。
能力を発動していない時間は斉藤作のヒーロースーツが守ってくれるし、それなりの力を与えてくれし、補助もしてくれる。
だが虎徹の場合、それは最近の話で、バーナビーと組むまでの10年は斉藤曰く、クソスーツを身にまとっていただけなのだ。
もちろんそれなりの仕様にはなっていただろうが、耐熱、耐水、衝撃などに対する防御力など今のスーツに比べるとないに等しいといっていい。
そんな状況でヒーローを続けるのなら、自らの肉体を鍛えなければ話にならない。
実際、トップマグのスーツでヒーローをやれとバーナビーが言われたら、あの見た目のダサさは考えないとして、これから先10年も無事にヒーローをやっていけるかはっきり言って自信はない。
そんなことを考えながらも、手は虎徹の体を遠慮なく触りまくっていた。
あまりにも執拗だったのか、虎徹が少し困ったような顔でみじろぎをした。

「じゃ、最後は後ろです」

自分は背後に回らない。かわりに虎徹の腕をとり、くるりと後ろを向かせた。

「バニーちゃん、無精!」

突然ひっくり返された虎徹が抗議の声をあげた。
まあ、確かに虎徹がバーナビーを触っていたときは自ら後ろに回り込んでいたが、だからといってバーナビーも同じようにしなければならないということはないはずだ。
だいたい先に仕掛けてきたのは虎徹なのだから、文句言う資格はない。
向けられた背中は肩甲骨や背骨が綺麗に浮かび上がり、鞣革のように瑞々しく張った筋肉に覆われている。
なぜか、ヒーローの背中だ、とバーナビーは思った。
広くって安心感を与える、すべてから守ってくれそうな背中だ。
広さからいえばロックバイソンやファイヤーエンブレムの方があるだろう。
だが、そういう実質的なものではなく、なんだかイメージというか、説明するのが難しい、感覚的ななにかだ。
胸板や腕と同じく、パンチ系の虎徹の背中は鍛えられている。しかし、体の線を下へ下れば、驚くほどの細腰だ。
キュッという擬音が合いそうなほどの細さ。女性の嫉妬を買いそうなほどである。
その先へ続く足はすらりと長く、やはり細い。
バーナビーの方が身長は高いはずなのに、こうして並んで意識してみると腰位置は同じような気がする。
ということは、一回り年上のおじさんの方がスタイリッシュで美形で超絶な人気を誇るバーナビーよりも足が長いということになる。
なんだか悔しい。プライドが傷つく。それをいえば、腰回りだって虎徹の方が絶対細い。
ふたり一緒のグラビア撮影があるときは立ち位置やポーズに気をつけようと考えながら、悔しさ半分、確認半分で引き締まった腰を両手で掴んだ。

「ひゃっ!!」

文字通り虎徹は飛び上がって、バーナビーの手から逃げた。
2、3歩走って離れてからくるりと振り向く。

「バニー、触るの長げぇ!」

腰を手で押さえながら赤い顔で叫ぶ虎徹を見て、バーナビーはにっこりと微笑んでみせた。
長いというのはただの言い訳だ。まあ、虎徹がバーナビーを触っていた時間に比べれば確かに長かったことは否定しないが。
だが、この顔、この反応、この仕草をみればなぜ虎徹が突然逃げたのか、その理由は簡単にわかる。

「虎徹さん、脇腹が弱いんですね」

わざと悪戯気な表情を浮かべて問いかけると、ぐっと虎徹は言葉を詰まらせたあと、「セクハラ反対!」と悔しそうに叫んでロッカールームへ走り去って行った。
弱点を知られて悔しかったのか、つい反応して逃げてしまった自分が情けなかったのか。
よくわからないが、一連の態度はまるで子供だ。
背中だけでヒーローの存在感を示すことが出来る男の態度とは思えないが、それが虎徹だ。

「やっぱ虎徹さんは馬鹿なんだなぁ」

体に触れる前に頭に浮かんだ『馬鹿な子ほど可愛い』という言葉を思い出しながら、バーナビーはクスクスと声を立てて笑った。
 
 
 
  

 

 




■あとがき

初兎虎です。
ロムオンリーのつもりだったのに我慢できなかった(笑) 
セクシャル的な意味はなく、ただ相棒の体をさわさわしているだけの話です(^^)





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