大きな扉の前に立つふたりの男をパプワは後ろからみつめていた。
ひとりは黒髪黒目の男。
顔の造作は置いてきた親友とそっくりなはずなのだが、パプワは全然似てないないと思っていた。
もうひとりは金髪碧眼の男。
自分たちと対立し、島を破壊しようとしていたやつらの仲間だが、いまはどうしてかここにいる。
いろいろとあったしいが、赤の番人の交代が行なわれるらしい。
その儀式を執り行うからと、赤の一族であるパプワも呼ばれたのだ。

「この扉の向こうにパプワ島の過去がある。それを見届けてくることが赤の番人になる条件だ」
ジャンがそう言うとリキッドはゴクリと喉を鳴らし真剣な表情で頷いた。
扉の向こうになにがあるのかパプワは知らない。
だが、今この場所にいる面々の表情をみるとただならぬなにかがあったのだろうということは伝わってくる。
リキッドが扉の真ん前に進んだ。
ジャンの手が扉をゆっくりと押し始める。
「待て」
緊張した雰囲気の中、静止の声が響いた。
皆の視線が、声の主、霊魂のままふわふわ浮いているカムイに集る。
「どうした、カムイ」
ヨッパライダーの問いには答えず、カムイはパプワを見下ろした。
「パプワ」
「なんだ、じいちゃ」
「おまえも行きなさい」
パプワの目をしっかりと見つめながらカムイはゆっくりとした口調で言った。
「な、なにを言う!」
ヨッパライダーと同じく、ジャンも慌てた様子をみせた。
「パプワ、わしがおまえとあの青年に『自分たちの正体を知れ』と言ったのを覚えておるか?」
「うん」
「あの青年はわしさえ知らなかった自分自身の正体を知ったが、おまえはなにか知ったかの?」
問われてパプワは頭を横に軽く振る。
自分が赤の一族の生き残りである、ということは知ったが、別にそれは『正体を知る』というほど重要なことではなかった。
ただ、そうなんだ、ふーん、と思った程度だ。
「この扉の向こうに、今度こそおまえの正体がある。見ておいで、パプワ。すべてを知って、」
「まだ、早い!!!」
カムイの言葉をヨッパライダーが遮った。
汗を浮かべてカムイに鋭い眼差しを向けている。
「なにが早いのかの?」
「パプワはすべてを知るにはまだ幼すぎる!もう少し大人になってからでないといかん!」
ジャンもその言葉に同意するように小さく頷く。
「ボクは大丈夫だぞ」
パプワの声に、カムイからパプワに皆の視線が移る。
「駄目だ、パプワ。まだお前さんにあの過去は辛すぎる。わしさえも思い出すと辛く胸が痛むのだ。もう少し、」
「もう少しっていつだ?」
「パプワ」
「ボクは本当に大丈夫だ」
揺るぎない言葉にカムイの表情が優しく緩む。
だが、ヨッパライダーもジャンもそれでは納得しなかった。
「パプワ様、ヨッパライダーの言う通りです。あの過去を、そして自分の正体を知るのはあなたは幼すぎる。受けるショックは大きいはずです」
ジャンの言葉にヨッパライダーは大きく頷いた。
「大丈夫だ」
「パプワ!」
「パプワ様!」
止めるふたりを真正面からみあげて、パプワは強く言い放った。
「シンタローが大丈夫だということを教えてくれた。だからボクも大丈夫なんだ」
「・・・シンタロー?」
自分のコピーだと信じていたあの青年をジャンは思い出す。
パプワと共に笑い、怒り、泣き、日々を過ごしていた彼は、普通の青年にみえた。
だが、二転三転したその正体は意外なものだった。
「シンタローは、死んでも、赤の番人のコピーだと言われても、本当は青の番人の影だったと言われても」
結局、彼は『青の一族』ではないどころか人間ですらなかった。
自らの体を持たぬ影の存在。
青の一族の子供の体に送られた、青の番人の影だったのだ。
「泣いて喚いて悔しいって怒ってたけど・・・それでもシンタローはシンタローのままだった。ナニも変わらなかったぞ」
パプワの脳裏に大好きな親友の、優しく強い笑顔が浮かぶ。
「自分の正体がなんであってもなにも変わらない。自分は自分なんだってシンタローが教えてくれた。だからボクは大丈夫だ」

深い絆を知った。
たった一年だけ一緒に暮らしていただけだった。
大人と子供、親子と言っていいほど年の離れたふたりだったが、その間の絆はすべてを超えたところにあった。
お互いの運命に干渉し合い、だが悪い方にではなく良い方に導いていく不思議な絆。

『行きなさい、パプワ。行って自分の正体を知ってきなさい』
赤い秘石がそうパプワに語りかけた。
「うん」
大きく頷くパプワを、もう誰も止めなかった。
しっかりとした足取りで扉の前まで進むと、意外な展開を息を呑んで見つめていたリキッドを見上げた。
過去を見てくればいいだけだと思っていた。どんなに悲惨な過去でも過去は過去。
それを見届ければいいのだと、緊張しながらもどこか心の奥では簡単に考えていた自分にリキッドは気がついた。
一連の流れをみる限り、きっと扉の向こうにはあるのは見ておけばいいという程度の簡単なことではないのだ。
赤の番人になるのなら、この「大丈夫だ」と言い切った強い瞳を持つ子供を命をかけて守り通さなければいけない。
この子供と強い絆で結ばれた、ここにはいないシンタローの代わりにも。
「いくぞ、リキッド」
「ああ、パプワ」
伸ばされた小さい手をとり、リキッドはパプワと並んで扉の前に立つ。
なにがあっても赤の番人として、この子供とこの島にすむ仲間たちを守るのだと決心をあらたにする。
そして、ふたりは開け放たれた扉の向こうに、手を繋いで一緒に進んだのだった。
 
 
 
 

 
■あとがき■
リキッドは(忘れてしまってたけど)一度は過去を見たことがあるということと
南国とPAPUWAの間でパプワがすべてを知ったらしいということから
妄想した話。
パプワが過去を知ったのは
思いだしたというより見て来た方がありえるかなーと。

南国の二転三転したシンタローの正体は驚きの連続でした。
でも、泣き喚いてもヘコたれないシンタローはすごいと思った(笑)
側でみていたパプワも同じなんじゃないかなーと思ったのでした。






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