髪の秘密(後)

 
翌朝、シンタローは昼過ぎまで起きて来なかった。
早く休んだキンタローと違って、カレーを食べたあとも動ききれずうだうだとしてなかなか休まなかったのが原因だろう。
久々にシンタローと会話を楽しもうと仕事を休んだグンマだったが、本人と会えたのは昼を大きく回ってからだった。
「シンちゃん、寝すぎ」
待ちつかれたグンマが唇を尖らせて文句を言う。
別に約束していたわけではなく勝手に待っていたのだが楽しみにしてた分、待つ時間は長く感じられて文句のひとつも言ってやりたくなったのだ。
「まだ、寝たりねぇぐらいだよ」
起きただけでもありがたく思えと言わんばかりの態度でシンタローはドカッとソファーに腰をおろした。
「シンタロー、いくら休みだからといっても何事にも限度というものがあるぞ。休みだからこそ規則正し」
「あー、わかった!わかったから二度言うな!」
キンタローの言葉を遮り、シンタローは鬱陶しそうに髪をかきあげる。
なんで俺が文句を言われなくちゃいけないんだ、とブツブツ呟くがその言葉は誰の耳にも届かなかった。
「シンちゃん、おはよ」
ヒョイと顔を出したマジックを、シンタローは親の敵みたいに睨みつける。
不機嫌丸出し、子供がみたら泣き出しそうな目つきだったが、マジックは堪えない。
「カレー残ってるけど食べるかい?」
起き抜けでカレーはないだろうと思ったキンタローと、昨夜あれだけ食べたのにと思ったグンマの予想に反して、シンタローは一瞬押し黙ったあと、不機嫌そうにだが「いる」と答えた。
呆れ返るふたりとは違いマジックは確信してたのだろう、「もう温めなおしてあるら、ちょっと待ってなさい」と言ってキッチンに消えていった。
ずっとマジックを睨みつけていたシンタローだったが、その姿がみえなくなってようやく表情を和らげ、ソファーに深く沈んだ。
動きと共にシンタローの髪がバサリと広がった。
「あ、シンちゃん。カレー食べるなら、また髪を縛る?」
テーブルの上に置きっぱなしだった昨夜使った髪ゴムを持ち上げ、グンマは差し出した。
「ああ・・・」
そう答え少し腰を浮かしたあとシンタローが、そのままの状態で固まる。
「シンちゃん?」
動きをとめたシンタローをグンマとキンタローが訝しげにみつめた。
その視線の中で、シンタローの顔色が赤くなり青くなりそしてまた赤くなった。
「やっぱいい!」
怒ったような声色で浮かした腰をドカッとソファーに戻すと、シンタローはふいと顔を背けた。
意味不明な態度だが、不穏なオーラが発せられはじめたような気がして、ふたりは理由を問いただせない。
「どうしたんだろう」と思いながらシンタローの長い髪を眺めているうちにグンマは「ん?」とあることに気がついた。

子供の頃や学生の頃、シンタローの髪は短かった。
不精で散髪に行かずにいるときも、少しでも伸びれば鬱陶しげにして髪を一本に縛っていた。
シンタローが本格的に髪を伸ばし始めたのはコタローが産まれてからだ。
それでもいつも髪は一本に縛られてほどかれることはなかった。
4年前、新総帥となるまでは。
赤い服を身にまとうようになってからシンタローは髪を縛らなくなった。
鬱陶しそうにしながらも黒髪を背中に流すようになった。
なにかの心境の変化かと思っていたが、この前までいた第2のパプワ島でもシンタローは髪を縛っていたことを思い出す。
だが、今のシンタローは髪を縛ってはいない。
つまりシンタローは総帥になってから、それもガンマ団にいるときにだけ髪をほどいているのだ。
どういうことだろう、とグンマは不思議な気分になった。

科学者というのは疑問に思ったことを解き明かそうとする衝動が強い。
グンマはその科学者で、そのうえ好奇心も強かった。
シンタローはいまだ少し不機嫌そうではあったが、話題の転化にもちょうどいいと思ったこともある。
だから、グンマは疑問に思ったことをそのままシンタローに尋ねた。

グンマの言葉を聞き終わった途端、シンタローの顔が真っ赤に染まり、その体がブルブルと小刻みに震えだした。
「シンちゃん?」
「どうした、シンタロー?」
滅多にみることのないシンタローの様子に驚いたグンマとキンタローが目を丸くした。
いったいどうしたというのか。
そんな怒ることも恥ずかしがることもない質問だったのに。
そう、シンタローの顔は怒りと羞恥が入り混じったものだったのだ。
「あ、それ、パパ知ってるよv」
カレーを乗せたお盆を持ったマジックが部屋に入りながら弾んだ声で言った。
「えっ、おとうさま、知ってるの?」
「勿論じゃないか、パパがシンちゃんのことで知らないことがあるはずないでしょう♪」
聞きようによってはストーカーなみの重大発言をサラリと言ってのけたマジックは今にもスキップを踏み出しそうである。
カタン、とシンタローが立ち上がる。
俯いたままマジックに近寄るとその手からお盆を受け取った。
「あ、いいのにシンちゃん。座って待っていてくれて」
そう言いながらマジックは機嫌よさげにニッコリと笑った。
「で、伯父上、その理由とはなんだ?」
「どんな理由なの?」
「そ・れ・は・ね」
ルンと片足をあげて息子達の質問に答えようとした瞬間。
「死ね!親父!!」
怒りのオーラを滾らせたシンタローが、叫びと共に溜めなし眼魔砲が撃ち出した。
もちろん、標的はマジック。

もうもうと埃舞う中、シンタローはお盆を片手に持ちドアの方へ歩いていく。
そして、廊下に足を踏み出しがらドア越しにグンマとキンタローを振り返った。
その眼差しにはすでに怒りはないが、なにか深い危険な色を浮かべている。
「好奇心猫を殺すって知ってか?」
唇の端をニイと引上げ笑いの形を作りながらシンタローはそういうと、そのままドアの向こうに消えた。
「・・・聞くなってこと?」
「聞くと・・・ああなるってことだな」
埃が収まりつつある部屋の片隅は、壊れた壁と床でピクピクと痙攣しているマジックの姿があった。

 
 
 
 

 
■あとがき■

デキちゃって所有印をつけたがる男がいるから
隠さないわけにはいかないんだよ!

というお話デシタ。
アホですみませんv

でも、マジックって痕をつけたがりそうだと思いませんか?<聞くな





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