紅い花

 
「パプワくーん」
足音と高い少年の声。
洗濯物を干す手をとめてリキッドが振り向くと、息を切らせてコタローがパプワに走り寄って来た所だった。
「なんだ、その花?」
パプワの指摘がなくともリキッドの視線もコタローの髪にあった。
太陽の光を受けて金色にキラキラ輝く髪に真っ赤な花が挿してある。
「似合う?」
「似合うぞ、ロタロー」
「わう」
コタローは稀に見る美少年だから、確かに似合ってはいる。
だがコタローは美少年であって美少女ではない。
髪に花を挿して喜んでいる少年、というのはどうかと思わないでもないが、そこは言わないでおく。
「真っ赤な花って太陽の光をいっぱい浴びてるって感じしない?」
リキッドは、楽しげなちみっこから視線を外して洗濯物を干す作業を始める。
「うん、するな」
「でしょう!」
視界の片隅でコタローが髪に挿した花をとり、パプワの髪に挿すのがみえた。
「やっぱり!パプワくん似合うよ!」
「そうか?」
「うん、だって黒髪って太陽のイメージがあるじゃない!だからパプワくんにも似合うと思ってたんだよ、僕」
嬉しげなコタローの声についリキッドが反応する。
「黒髪が太陽のイメージ?」
「そーだよ、するでしょ?」
質問系のリキッドの言葉に、なに言ってんのといった調子でコタローは答える。
「そっかな?太陽のイメージなら金髪って感じがするけどなぁ」
「なに、それ?自分が太陽のイメージだとでも言いたいの?」
リキッドの金髪を睨みながら、小さい女王様が不機嫌そうに顔を歪めた。
「違うって!!でも、ロタローみたいにキラキラした髪の方が黒髪より太陽のイメージかなぁと思ったんだよ、俺は」
両手を突き出してブンブン頭を振りながらリキッドは言い訳した。
目の前には黒髪と金髪のふたりの子供。
どう見比べても太陽を連想するのは金色の髪だ。
だが。
「ボクも黒髪は太陽のイメージがあるぞ」
険悪なムード漂う中、パプワの声が響く。
パッとコタローの顔が明るくなり、リキッドからパプワへとその顔を向けた。
「そうだよね!」
「うん、黒髪でも長い黒髪だともっと太陽な感じがするぞ」
「え?!すごいパプワくん!僕も同じだよ!」
キャッキャとはしゃぐちみっこを眺めながら自分にはわからない感覚だ、とリキッドは小さくため息をついた。
 
 
 
 
「おい、ヤンキー!!なにボーっとしてやがるんだ!」
俺様お姑に怒鳴りつけられてリキッドはハッと我に返った。
「とっとと行くぞ。メシが遅くなるとパプワの奴になに言われるかわかったもんじゃねぇからな」
昼食はオムレツがいいと我侭を言う子供のためにクボタくんから卵をかすめとって来た帰り道。
頭上に輝く太陽の光を浴びて、前を歩く男の長い黒髪が艶々と光を放つ。
それをみてリキッドは、あの日のひとこまを思い出したのだ。
あのときコタローには記憶がなかった。
それでもコタローが持ち続けていた黒髪=太陽のイメージ。
あのときパプワの言葉の意味をリキッドは理解していなかった。
パプワの言っていた長い黒髪=太陽のイメージ。
今ならわかる。
俺様で乱暴で口が悪く、元殺し屋軍団の現お仕置き軍団の総帥。
その強烈なまでのカリスマ性をリキッドは他にみたことがない。
もちろん元上司にも元総帥にも強力なカリスマ性はある。
だが、種類が違うのだ。
この黒髪の男の放つカリスマは、例えていうのならまさに『太陽』。

子供っていうのはちゃんと本質までみているもんだな、と今更ながらに感心しながら
いつの間にかリキッドの中の太陽のイメージも金髪から黒髪にとって変わられていたのだった。
 
 
 
 







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