【 Star Festival 】
 
 
 
 

「七夕って結局なんなんだ?」
隣にいる男が突然聞いてきた。
外はざんざか雨が降っているとはいえ、アーケード内には大きな竹が何本も飾られているし、
このバーの入り口にもささやかながら小さい竹が短冊を垂らしていた。
「彦星と乙姫が年に一度会える日とやらだろう」
「だから、なぜ年に一回なんだ?そうなるには色々と何かあったんだろう?」
小首を傾げてこちらに碧眼が向けられる。
日本人にとって馴染みの深い行事でも、外人のこいつにはそうじゃない。
そういう点でも由来のようなものが気になるのだろう。
「うーん、確か・・・」
幼い頃、母から聞かされていたロマンティックだという男女の物語を思い出す。
年に一度しか会えないのが可愛そう、と子供ながらに思ったものだったが、大人になってその物語を改めて聞けば結構そうでもないことに気がつく。
男と女が出会って・・・から話すか?
でも男ふたりで酒を飲みながら七夕物語を長々と語るものでもないだろうし。
仕方がない、ここは要約して。
「簡単に言えば、彦星と織姫が恋愛に溺れて全く仕事をしなくなったから天帝とやらが怒って引き離したんだ」
「・・・そうなのか?」
「そうだ」
目をパチクリとしている。
本筋だけ辿ると結構、自業自得というか、ロマンティックに程遠いような話だと、俺は思っているのだが。
「お前さんの話を聞くと、全然ロマンを感じないなぁ」
クスクス笑い出した男の言葉を聞いて、別に俺の解釈のせいでロマンがなくなった訳ではないと思うが、大人げないので反論はしない。
別にロマンティックなんて柄じゃないし、こいつにどう思われようが平気だからだ。
「愛に溺れて仕事も手付かずか」
「何事もほどほどに、ということだな」
そう答えると、男はじっと俺をみつめてきた。
「愛に溺れれば俺も仕事をしなくなるかもよ?」
意味深な目つきだ。
なんだかいやらしさを醸し出している。
と思うのは俺の気のせいではないはず。
「お前さんがそんなタマか」
そう切って捨てると、クククククッと肩を揺らして笑い出した。
ひとしきり笑った後、体を摺り寄せてきた男は耳元で囁いた。
「お前さんにロマンを求める気がないが・・・とりあえず一晩くらいは俺も仕事のことを忘れるかもしれないぜ?」
「・・・忘れるのが一晩じゃ割りにあわない」
そう言ってやると、
「どれだけ忘れられるかはお前次第だろう?」
男はそう言い返して、いやらしくニヤリと笑った。
こいつはなんでこう・・・その気になると変なフェロモンを振りまきはじめるのか。
俺はなんでこう・・・そのフェロモンに最後まで抵抗できないのか。
人生最大の謎だ。
俺が無言でグラスの酒を一気に煽ると、男は席を立ちふたり分の勘定を支払った。
まだ行くとは言ってない。
少し意地になって席に座ったままだったが、カランというドアが開く音にチラリと視線を向けると、やつの流し目が俺を直撃した。
なにを言うでもなく、男はドアの向こうに消える。
「・・・くそっ」
忌々しげに呟いて席を立ちあがった。


バーのドアから出た瞬間、もの凄い力で引き寄せられた。
あっと思ったときには既にやつの腕の中で、そのうえ唇もふさがれていた。
「なっ、」
なにをする、と怒鳴ろうとしてすぐにそれが失敗だったと気がつく。
開いた唇の隙間から男の舌が差し込まれ、遠慮のない動きで舌に絡みついてきた。
たしかにこのバーは地下にあり、ひとけはあまりない。客が来れば階段をおりる足音でわかるだろう。
だが、いつ客がバーから出てくるともわからないのだ。
いくら物陰に引き込まれているとはいえ、こんな場所でこんなことを仕掛けてくるとは正気の沙汰ではない。
そう思うものの、俺の弱い所をとことん突いてくる巧みな舌の動きに体の力が抜けてくる。
「んっ」
鼻から抜けた自分の声に色を感じて俺は焦った。
頭を振り唇から逃れようとするが、反対に後頭をガシリと大きな掌で固定され、ますます奥まで舌が入り込んでくる。
歯列を舐められ、唾液を啜りあげられる。
舌が蠢く度、絡まる度、くちゅくちゅとしたいやらしい水音が響く。
舌で口内を、音で耳を犯されて、体が快感で痺れてくる。
男の荒々しい口付けに翻弄されて、抵抗もできず、ついすがってしまったとき。
足の間を割り入っていた男の足が、太腿をつかって股間をすりあげてきた。
同時にいつの間に回されていたのか、ズボンの尻の縫い目を指が辿り、すぐにある一点で思いっきり捻じ込んでくる。
まるで布ごと突きこもうとするかのように。
ハッと我に返った俺は、渾身の力を込めて男を突き飛ばした。
「・・・なにをする」
「それはこっちの台詞だ!」
薄笑いを浮かべながら抗議してくる男に怒鳴り返してやるが、声はすっかりと掠れている。
「わめくと人が来るぜ?」
そう言われて、今いる場所がどこかを思い出す。
「くそっ」
一発殴ってやりたい気分だが、足に力が入らない。
俺の弱点を知り尽くしてるにしたって、いったいどういうテクニックだ。
と、色々と悔しくなる。
「そんな顔して誘うなよ」
「!?」
「怒るなって、ホラ」
男は悪びれなく近づいてくると俺の手を取って自らの股間に押し当てた。
「なっ!?」
驚いて手を引こうとしたが、手首をがっしりと掴まれて動かない。
男のモノがスラックスの下で硬くなりはじめているのがしっかりと掌に伝わってくる。
「おまえは俺にキスされてそうなったが、俺はおまえにキスしただけでこの有様だ」
顔を近づけ笑う男のひとつだけしかない目にはもう欲情の色しかない。
「さ、行こうぜ。溺れさせてすべてを忘れさせてくれよ」
そう言って男は軽く唇を合わせたあと、スッと体を離して階段へ向った。
好き放題に翻弄されるのは腹立たしいが、男の言動に俺もすっかりと欲情してしまっている。
今更、なにもせず別れるなんてできやしない。
カツン、カツンと階段を昇る足音が小さくなっていく。
それが聞こえなくなってから俺は足早にその場を離れ、男のあとを追った。
 
 
 
 
 

    
 
 
   
 ■あとがき■
七夕ちっくなキリジャ。
それにしても私の書くCPはロマンティックにはなりませんな。
BJの七夕の解釈は私が人に説明するのと同じものです(笑)
書いてる本人にロマンがないんだから、やつらにロマンがなくっても仕方ないですネ。
ちなみに、この話の前半は去年の七夕に日記に載せたSSですが、
再録するにあたって後半のべろちゅーを書き加えました♪

 
 

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