【 God's hand 】
 
 
 
 

右手を掴んだ。


そして思い出した。
これは神の手だ。
この手に、この指先に、尋常ならぬ力が宿っているのだ。
普通の男の手。
傷だらけの決してお世辞にも綺麗とはいえないこの手。
それが奇跡を生み、普通なら失くすしかないはずの命を引き止める。

利き手をとられた男は眉を寄せこちらを睨み付けている。
だがなぜが振りほどこうとはしない。
今、俺が渾身の力を込めたら、捻ってやったら、いとも簡単に折れるかもしれない。
神の手だが、人間の手なのだ。
俺の意思ひとつで神の手は人間以下のものになるかもしれないのに。
男は手を振りほどかない。
手首を強く握っても、眼光が鋭くなるだけでピクリと動かさない。
俺が欲しくとも手に入らなかった、他の医者共が求めても手に入らない、奇跡の手。
それを俺なんぞに完全に委ねてしまって、なにを考えているのだろう。
折られると、傷つけられると、考えないのだろうか。

今が神の手を奪うチャンスだ。
これさえなければこの男から罵られることもなくなる。
この手さえなくなれば。

だが。
この手は神の手。
命を願う患者のための手だ。
俺のための手でも、こいつ自身のための手でもない。
命を繋ぐための、ただそれだけの神の手。


睨み付けていた紅い瞳が、
横に細く開かれていた瞼が、
大きく見開かれた。
反対に瞳孔は驚きに狭まっている。
目は口ほどにものを言う。
本当にその通りだと実感できる。

くくっと小さく笑って手首を開放してやる。
我に返った男が手を急いで引き罵り出すのを聞きながら、背中を向けた。
追いかけてはこない。
口汚く罵っているだけだ。

だが、あの瞬間のあの男のあの顔。
はじめてみる表情。
すごく面白かった。


唇に残る神の手の感触を反芻する。


やはり、あの男の手はただの人間の手。
だけどやはり、神の手なのだ

 
 
 
 
 

    
 
 
   
 ■あとがき■
まあ、こんな感じで。
かなりジレンマがあるだとうなぁと。



 
 

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