ただの悪戯心だった。
そしてわずかな好奇心、興味。
俺じゃない、見知らぬ男にキスされたらこいつはどうするのか、と。
だがら、殴られることは覚悟のうえだったのに。
引き寄せ抱き込んで抵抗する暇も与えず唇を奪う。
簡単にことが運んで少し驚いた。
散々修羅場を踏んできているくせにこの無防備さはどうなんだ。
呆れると共に少し心配になってくる。
「・・・やめっ」
顔を背け、俺の体を両手で押して身を捩り逃げようとするBJ。
発せられた言葉には明らかに嫌悪感が混ざっている。
暗闇の中、どんな顔をしているのか見えないが、嫌悪に歪んだ顔がみえたような気がした。
ゾクッとする。
屈服させたいという歪んだ欲望が湧きあがってくる。
顎を引き下げ、開いた唇を割り開いて舌を奥まで差し込む。
ビクビクッと腕の中の体が驚いたように震えて、硬直した。
突然の出来事に思考力が止まったといった感じか。
面白い、愉快だ。
遠慮なく舌を絡め、口内を嘗め回す。
その刺激に我に返ったのか、ふたたび強い抵抗が始まる。
だが、逃がすつもりはない。体格的には俺に利がある。
思いっきり抱きしめて、激しいディープキス。
暗闇とはいえ、ざわめきが周りに人がいることを伝えてくる。
そんな中でこいつを無理やり陵辱する快感。
すげぇ、興奮する。
こいつはどうするだろうか。
舌を噛み切るか?それとも懐に仕込んだメスで切りつけてくるだろうか?
スリルと捻れた欲望で全身を満たされていた俺は、次の瞬間信じられない気持で目を見張らせた。
BJが。
BJが応えてきたのだ。
体が抵抗をやめ、ゆっくりと弛緩した、と思った途端、逃げ回っていた舌が絡みついてきた。
積極的に俺の口内を動き回っている。
どういうことだ?
相手が男であることはわかっているはずだ。
女ならば『据え膳』だとばかりに応えてしまうかもしれない。
だが、相手は男だぞ?見知らぬ男にディープキスされて、こいつはそれを受け入れるのか?!
まさか、この後、ホテルにでも誘われれば簡単についていくんじゃないだろうな。
俺じゃない、俺以外の男なのに。
こいつは平気なのか、それを良しとするのか。
穏やかでない感情、怒りに似た気持ち、BJに対する猜疑心、そして大きなショック。
さっきまでの悪戯心や愉快な気持ちはふっとんで、ドロドロした暗く重い気持ちが体内を満たしていく。
パンッ!!
終了を告げるクラッカーの音に我に返り、BJの体を離すと数歩後ろに引いた。
パッと点いた照明の中、BJが俺をみつめ佇んでいる。
間違いなく、たった今まで俺のキスを積極的に受けていたのはBJだ。
仕掛けたのは自分とはいえ、なんでこんなことになるんだ。
「なんで抵抗しない」
一番聞きたい言葉を隠すことなく、低い声で責めるようにBJに投げつけ、睨みつけた。
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