【 カルテ 5 】
 
 
 
 

ブロロロロというエンジン音が後ろから近づき、横についた。
見なくても誰だかわかっている。
だが、BJは前をみつめたまま歩みをとめない。
「あの患者、完治したようですね。さすがです」
嫌味か。
と、BJは眉間に皺を寄せた。
確かに手術を行なったのは自分だ。
たぶん、自分でなかったら見逃していただろうとも思う。
だが。
BJがどうしても思い出せなかった症状を調べて教えてくれたのはキリコ自身だった。
あのときキリコが教えてくれなくとも、いつかは自力で原因に辿りついたとは思う。
だがその場合、患者を救えたかどうか。
手遅れになっていた可能性は否定できないのだ。
「なにが欲しい?」
借りを借りたままなのは色々と気分が悪い。
きっぱりさっぱりと返しておきたい。
「なにも欲しくはないですよ」
「情報料だ。借りはいらん。なにが欲しい?」
前を向いたまま、ハーレーに乗って横を併走する男に再度問う。
「なんでもいいのですか?」
「報酬は20万ドルだ。半分でいいか」
「お金なんていりませんよ」
「じゃあ、なにが欲しい」
BJは足を止め、身体ごとキリコに向き直った。
ハーレーをとめたキリコはそんなBJの目をひとつしかない目で覗き込む。
「わからないのか?」
ガラリと言葉使いと声色が変わる。
探るように、試すように、楽しむように、BJを見つめている。
「わからんね」
勝負を挑むように眼に力を込めて睨みつける。
しばらく睨みあっていたが、キリコがクスリと小さく笑った。
「わからないなら、わからせてやるよ」
キリコがハーレーのエンジンを大きくふかす。
爆音に混じってキリコがなにかを言った。それはしっかりとBJの耳に届いた。
「じゃ、待ってるぜ。言っておくが代金はおまえ持ちだ」
BJは無表情のままだが、逸らさない目には小さな動揺が浮かんでいる。
唇を噛んで佇むBJを上から下まで眺めたあと、キリコは前を向いてハーレーを発進させた。
「楽しい夜にしようぜ」
風に乗って耳に届いた言葉に、BJは悔しそうな表情を浮かべた。
だが、本人が気がついていないが目元がほんの少し上気している。
「くそっ」
BJは小さく呟き軽く頭を振った後、深呼吸を何度か繰返した。
そして、数分後。
キリコが指定したホテルに向かって、BJはゆっくりと歩きだした。

 
 
 
 
 

    
 
 
   
 ■あとがき■
『カルテ5:拒食、ふたりの黒い医者』
のその後をキリジャで妄想♪
報酬は勿論!(ムフフ)



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