■真夜中ごはん■

 
 
 
 
 

トントントントン
リズミカルな音が響いている。
道路を走る車の音、近隣からの人々の喧噪、窓際や軒下の小動物の気配、そんな騒がしい昼間なら気にならないが、泥棒のアジトとはいえ、真夜中に聞くには似つかわしくない音だ。
ダイニングをヒョイと覗くと、予想通りの人物が予想通りの行動を起こしている。
鼻歌まで聞こえてきて五右エ門は少し呆れた。
「なにをやっておるのだ」
五右エ門の気配に気がついていたのだろう、背後から突然話しかけられても次元は驚くことなく、
「こうすると肉が軟らかくなるんだよ。大きいだけがとりえみたいな安い肉だからな」
いくら歯ごたえがある方が好みとはいえ何事も限度はある。ゴムみたいな肉はもうごめんだ。
そんなことを言いながらも、ご機嫌な様子で包丁の裏で肉を叩く姿は所帯じみている。
ルパンが陰で次元のことを「オカン」と呼んでいるのも頷ける姿だ。
だが。
「そんなことは聞いておらん。こんな夜中になにをやっておるのか、と聞いておるのだ」
「見てのとおりだ。肉を焼くんだよ」
ミルでガリガリとペッパーをけずり、指先で摘んだ塩をパラパラと振りかける。
「なぜ」
「食うからだ」
深夜一時は回っている。
食事をとる時間とは到底いえないが、昼間から酒を飲んでぐうたらとソファーに沈んでいた次元は、昼夜が逆転している。
ただのぐうたらなら小言のひとつも言ってやるところだが、昼夜同じく警戒待機という現状で、夜明かしは仕事の一部なのだから仕方がないといえば仕方がない。
五右エ門は次元と替わってこれから睡眠をとる。
ただ寝るだけなのだが、目の前で肉がフライパンに落とされて、ジューという音と共に漂ってくる匂いに、つい引きずられる。
「おまえも食うか?」
五右エ門は知らずに物欲しそうな顔をしていたのか、
ニヤリと笑いながら次元は問いかけ、フライ返しで肉をひっくり返す。
勢いよく焼ける音と共に火に炙られた脂が飛び散る。
否が応でもでも食欲をそそってくる匂いがいっそう強くなる。
「いや」
「遠慮すんな」
「いらん」
「お前だって腹減ったからこんな時間に台所に来たんだろ、遠慮するなって」
就寝前の食事がよくないことはわかっている。
しかし、交代で夜通し起きておく必要があるほど敵襲に備えている現状だ。
いつなんどきなにがあるかわからない。
そのときになって腹が減った、あのとき食っておれば、などと後悔はしたくない。
そんな言い訳を自分自身にしながら、五右エ門は冷蔵庫をあけた。
「?」
次元が不思議そうな顔をして五右エ門の動きをみている前で、ガサゴソとお目当てのものを取り出す。
フライパンの横の、もうひとつのコンロに網をおき、取り出したものを乗せて火をつける。
「結局、喰うのかよ」
「腹が減っては戦はできぬ」
あと寝るだけだが。
いつ戦が起こるかは不明だが。
刺激された食欲を満たさないと眠れそうにない。
なにがおかしいのか、次元はくくくと肩を震わせて笑いながらも、最後の仕上げとばかりに白ワインを投入した。
その横ではジリジリと焼けてきた魚が旨そうな匂いをあげはじめている。
真夜中に男ふたりが肩を並べてコンロに向かう姿はおかしいものだが、それを指摘するものはここには誰もいない。
「そういえば、バターが品薄だといってたが最近はそうでもねぇよなぁ」
肉を焼くために使ったバターの残りを持ち上げて次元が言う。
「拙者はばたーなどは使わぬから知らん」
「なにいってんだ、おまえ、アサリのバター焼き大好物じゃないか」
「む」
そんな他愛もない話をしつつ、男の真夜中料理は行われたのだった。

 
 
 
 
 

■MAYONAKA GOHAN■

 
 
 
■あとがき■
 

4月5日に行った次五チャットで
真夜中なのに旦那さんが肉を叩いて焼きだしたとか
最近バターは品薄じゃないよねと話しかけてきたとか
リアルタイムに発せられる内容を
次五変換して妄想会話を繰り広げたのですが
それをネタにして書いちゃいました(笑)
チャットでお話すると色々と妄想刺激されますネ。
 
むぎさん、ネタ提供ありがとうございましたvぷぷっ


  

 

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