最初はいつも戸惑い気味だ。
嫌がっている訳でも無理をしている訳でもない。
だが自ら進んでくる訳でも積極的な訳でもない。
分かりやすく例えるなら「切り替わってない」「スイッチが入ってない」というところか。
何かというと『修行が足りない』が口癖の侍は、基本的に質素で禁欲的だ。
そのくせ、芸術品や美術品に目が利いたりするから、それが日本の物に限られていたとしても、幼い頃から本物を見続けることが出来る環境にいたということである。
お宝に見向きもしないときもあれば、馬鹿みたいに喜んで一緒にはしゃぐこともある。
言動の方向性が一定しない。両極端だったり、偏っていたり。
出会った当初は扱いにくいと思っていたが、長くつき合ってきてだいたいわかってきた。
五右エ門は素直なのだ。
どんな悪意に晒されようと絶望を感じようと心底哀しもうと。
どんな目にあっても、酷いものを見続けても、根本の性質は歪まない変わらない。
だから、そのときそのときの状況や他人の言動に影響されやすい。
貧乏と紙一重な質素な生活でも平気だし、贅沢三昧でも楽しめる。
禁欲的でもあるが、欲につき動かされることもある。
そんな正反対の行動はスイッチのように切り替わるのだ。
いつもは自らを抑える方に入っているスイッチを、解放する方に切り替えるのは、本人にも他人にも難しい。
いつ何がどんな切欠がスイッチになるかわかりづらい。
だがルパンはある程度は五右エ門の扱いに慣れて方向性を誘導することができるし、次元はルパンの域まで達してはいないが、あるひとつの事柄においては誰にも負けない自信がある。
そして今がそのときだ。
突然誘っても行動を起こしても拒絶される可能性の方が遙かに高い。
だから少しずつ軽い接触を繰り返し、表情で視線で言葉で誘いかけ、じりじりじわじわとコチラ側へ引き寄せる。
時間をかけて根気よく。
すでに五右エ門の意識は次元に引きずられ影響を受け、拒絶する意志はない。
その証拠に今、ふたりとも半裸で、時刻は真夜中、場所はベッドの上だ。
性別をとやかく考えなければすることはただひとつ。
「五右エ門」
名前を呼びながら手を伸ばせば、一瞬戸惑った表情を浮かべるものの逃げはしない。
次元より7キロ近く体重が少ないとはいえ、女とは違う男の体だ。
飾りではない実践的な、薄いが鞣し革のような筋肉に包まれた体だが、次元にとっては何にも代えがたい。
片手で腰を抱き引き寄せると身を堅くはしたが素直に抱き込まれる。
膨らみも柔らかさもない胸が合わさって擦れる。
お互いの体温を分けあって奪いあってすぐに熱くなるだろうが、今はまだ外気で冷えたままの肌の感触が気持ちいい。
五右エ門の顎をつかみ、顔を上げさせると少し困ったような表情を浮かべていて、次元はおかしくなる。
回数を数えるのも無駄なくらい、何度も何度も繰り返してきた行為なのに、まるで処女みたいな反応だ。
それはそれで楽しいが、一方的ではなくお互い獣のように求めあう方が何倍も愉しい。
「口をあけろよ」
唇が触れ合う寸前で甘く囁いてやると、五右エ門は頬を微かに染めながらも素直に口をあけた。
同時に眉間に皺がよるほどギュッと目を瞑る様は、人間凶器と呼ばれる男とは思えないほど可愛らしい。
次元は目を閉じず、じっと五右エ門をみつめながら、自分を受け入れるために開いて待つ唇に遠慮なくかぶりついた。
五右エ門から禁欲という枷を取り払うためのスイッチを入れるために。
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