■注意■

これはリレーSSになっています。
むぎさん→月子→月子→むぎさん(執筆中)

2014年に東北(平泉)を旅行しました。
そのとき立ち寄った『中 尊 寺』を舞台にして
旅行中の妄想トークをネタに書いています(^ー^)












  


   
■再会■
 
 BY むぎさん
  
  

「・・・まさかこれを登れってぇのか。」
目の前のとんでもない傾斜を見上げ、次元は盛大なため息をついた。
観光客たちがふうふう言いながら登っていくのを見つめ、汗をひと拭いしてから、仕方なく自分も歩き出す。
寺の入り口が坂だとは確かに言っていたが、こんな心臓破りの坂とは聞いてない。あの侍にとっては朝飯前なのだろうが。
ようやく登りきり、観光客達が向かう方向とは逆の方へ足を向けた。木立の間、人目を忍ぶようにして建つ東屋を見つける。
「・・・来たのか。」
気配を察したのだろう、扉を開けると驚いた顔が出迎えに立っていた。
「ご挨拶だな。平泉にいると言ったじゃねえか。」
「まさか来るとは思わなかった。お主は確かブラジルだと。」
「ちょっと興味が湧いてな、日本の墓参りとやらに。」
嘘をつけ、と五右エ門は笑った。奥へと振り返るその首っ玉に今すぐかじりつきたいところだが、足が言うことを聞かない。情けないことに、さっきの坂が思いのほか効いたらしい。
「どうした。」
振り返る侍に何でもねえと手を振ってみせ、おぼつかない足取りで次元は歩いた。よろよろと座る様子を黙って眺め、五右エ門が茶の支度をしに奥へ行く。心なしか笑っていたような気がする。
「・・・あの坂か。」
「馬鹿言うな、あんな坂、何でもねえさ。」
くつくつと笑いながら冷たい茶を差しだし、なぜか五右エ門は次元のすぐ隣にあぐらをかいた。
「どうした。」
「・・・。」
黙って茶を一口飲み、侍が湯呑みを置く。
「・・・来たのか」
「・・・ああ、来たぜ。」
少し笑って、二人は目を交わした。何も言わないが次元には分かる。
侍は喜んでいる。

 

 

■1■

 
 
 

   
■墓参り■
 
 BY 月子
  
  

「それにしても、こんな観光客だらけの寺で修行だの墓参りだのするとは思ってなかったぜ」
久々の再会に喜んでくれている五右エ門の様子に次元の気持ちは高揚するが、ここで思うままに行動を起こせば機嫌を損なわせる可能性は高い。
再会して数十分、そして日はまだ高い。
恋人としての接触を望む己の心と体を抑えこむために、次元は此処に来るまでに考えていたことを口にした。
「観光客が来るのは金色堂と能舞台までだからな。その先は鬱蒼とした山が広がるのだ、滅多なことでは人は来ぬ」
「そういうもんか」
「そうだ」
修行=人里離れた場所というイメージが強かったから、此処にいると聞いたとき意外に思ったが、よく考えると五右エ門は神社仏閣に知り合いが多い。
墓があるということからも、先祖代々関わりがある寺なのだろう。
「墓もここら辺にあるのか?」
体温が感じられそうな隣に座ってくれて嬉しいが、正面から顔を見ることが出来ないのは残念だ。
久々なのだから、その姿を隅から隅までしっかり鑑賞したい。まだ触れることが出来ないのならせめて目で姿を楽しみたい。
そんなことを考えつつ横顔を眺め問うと、五右エ門は湯呑みから口を離し次元を覗き込むように見ながらいたずら気に笑った。
「参道沿いにあったであろう?」
「ん?」
参道というと観光客がウロチョロしているあの参道のことか。
言われてみれば坂をあがりきって少し進んだ右手の小高い場所に墓らしき一群があった。
誰を葬っているかわからない、古びた墓石が幾つも幾つも建っていた。
最近のきれいに研磨された墓石とはまったく違う、切り出した石をそのまま長方形に掘ったようなそんな墓石だったような気がする。
参道沿いに墓があるなんて珍しいと思ったものの、墓場への登り口にはロープが張られ侵入できないように施されていた。
「あんな目につくところにか」
「意外でござろう」
「意外ってもんじゃねぇよ」
まさか誰もが知る石川五右衛門の墓があんな人目に晒された場所にあるなんて誰が思うものか。
「参拝者は月見坂をようやく登りきり平坦な参道をみて安堵する。あとは目的地に向かってまっしぐらだ。脇の小高い場所にある墓に気がつかぬものも多い。気がついても、あの通り登れないようになっているからな。いくら好奇心旺盛といえども古びた墓群など何かありそうで怖かろう?無理矢理侵入しようとはあまり思わないものだ」
なかなか面白い発想だ。
元々はなんの問題もない墓群だったのだろうが、時代とともに観光地化されてしまい、現在のようになってしまったのだろう。
近年も入り込んだ輩がいないとは思えないが、墓石に刻まれた薄れつつある文字をひとつひとつ確認することはしないだろうから、問題はなさそうだ。
「ん?・・・ってことは」
何かに気がついたらしい次元をみて五右エ門はクククと喉の奥で笑った。
「気が向いたらひとつひとつの墓碑を確認してみるとよい。意外な墓があるかもしれぬぞ」
石川五右衛門をはじめとする歴史に名を残す人物の墓があると暗に言われて興味が湧くがわざわざ確認にいくほどでもない。
「おまえが墓参りするときに確認してみるさ」
五右エ門の墓参りについていく。
恋人の実家の墓に共に参るという行動は深い意味が隠されているようにもとれ。
五右エ門はパッと正面を向き次元から顔を反らし「好きにすればよかろう」と感情の籠もらない声色で答えたが、目元が少し紅く染まっていることを見過ごす次元ではなかった。




■2■

 
 
 

   
■キノコ狩り■
 
 BY 月子
  
  

久々の再会にまったりした時間を過ごしたのはほんの僅か。
五右エ門は次元を客人扱いするつもりは更々ないらしく、ごろりと寝ころぼうとした次元に竹で編まれた籠を差し出した。
「なんだ?」
「籠だ」
「いや、それはわかるけどよ」
此処まで来るのに疲れはしたが、体力第一の泥棒、兼ガンマンである。体力はまだまだ残っている。
とはいえ。
「働かざるもの食うべからず」
五右エ門の言葉に手土産ひとつ持ってくればよかったと思うも後悔先に立たず。
「どーしろっていうんだよ。食えるもんなんてわかんねぇぜ」
「この辺はキノコが豊富でな。採ってきてくれ」
「だからわかんねーって」
「判別は拙者がするから適当でよい」
残った体力は夜のために残しておきたかったがそうは問屋がおろさないらしい。
じっと次元をみつめる目は真剣で、五右エ門の手には釣り竿がある。
魚釣りの方が楽そうだが、釣れなかった場合は晩飯にありつけなくなるという責任重大な役目だ。
「・・・わかったよ」
こうなることはわかっていた。こんな山の中、修行中の五右エ門に会いに行くのだ、つき合わされることは想定内だ。
肩をすくめてみせながら、次元が籠を受け取ると五右エ門の目がゆるりと優しく緩んだ。
これを見ただけで今は良しとするかと自分に言い聞かせ、次元は五右エ門と共に東屋を出た。


「これは違う」
ぽい、と毒々しい赤い斑点のあるキノコが投げ捨てられる。
見た目から怪しさ満載だが、仕事をした証拠として籠に放りいれたキノコだ。
「これも違う」
ぽい、と椎茸に似たキノコが投げ捨てられる。
これは自信があったのに食用ではないらしい。素人にキノコは本当に難しい。
籠の中の、次元の仕事の成果のはずのキノコは無情にも草むらに投げ捨てられ、どんどん減っていく。
「これは大丈夫だ」という言葉と共に、脇に置かれた小振りの籠に移されたキノコはほんの少しだ。
労力に見合わない食料の少なさに、五右エ門は特に不満はないらしい。
背後にみえる囲炉裏では串に刺さった川魚が何匹も焼かれている。五右エ門の方は大量だったようだ。
どんどん捨てられて少し切ない気分になりつつある次元の前で、五右エ門の手がピタリと止まった。
捨てるでもなく、籠に移すでもなく、ちょっと驚いた表情でキノコを見ている。
「どうした?」
「これをどこで採って来たのだ?」
差し出されたキノコは、特別な特徴を持たないものでまったく覚えがない。
だいたい山の中を歩きまわって視界に入ったキノコをすべて籠の中に放り込んだのだ。覚えているはずはない。
「覚えてねぇな」
「そうか」
かなり珍しいのか五右エ門は持ったキノコをあらゆる角度から観察している。
これは珍味か!?
と、次元の期待感が高まる。頑張ってキノコ採りしたかいがあったというものだ。
そんな次元の目の前で、そのキノコは他の多数のキノコ同様投げ捨てられた。
「おいっ」
「なんだ」
「珍しいもんじゃなかったのかよ」
「珍しいが食用ではない」
なんだと肩を落とした次元だが、続いた説明を聞いて顔をあげた。
「あれは幻覚作用を呼び起こす」
「幻覚作用?」
「幻覚作用を起こしたり躁状態になったりするのだ。昔の神事で巫女や生贄役の娘に使われたものだと聞いている。半日ほど効果は続くらしいが、体に悪いものではない」
すべての判別が終わったのか、五右エ門は少量のキノコが入った籠を持ち囲炉裏へと向かう。
その背中を見送りつつ、次元の脳内はさっきのキノコの話でいっぱいだった。
体に悪いものではないというなら常習性はないということだ。
幻覚作用があり躁状態になるというなら一時流行ったマジックマッシュルームのようなものか。
だが神事に使われたというのが気になる。
生贄ではなく生贄「役」ということは、命に危険はないそのとき限りの役目ということだ。
幻覚を起こし気分が高揚し躁状態になった女に使って行われる神事。
ごくりと次元の喉がなる。
もしかして、もしかしなくても、そういうことか?
キノコを眺める五右エ門と一緒にじっくり観察したので、キノコの色や形状はしっかり覚えている。
「次元、そろそろ魚が焼けるぞ」
「おう」
「・・・数が少なくとも味が良いキノコばかりだ、気にするな」
苦労して採ってきたキノコをほとんど捨てられて拗ねていると思われたのか、次元を呼ぶ五右エ門の声色が柔らかくなる。
そんな五右エ門の声を聞きながら、次元はすばやく視線を走らせ、目的のキノコを探し出す。
こっそりと懐に仕舞こみ次元は小さく微笑んだ。
さて、これをどうやって五右エ門に食べさせよう。
愉しく乱れた五右エ門との夜を想像しながら、自分を呼ぶ声に「今、行く」と返事して、次元は東屋の扉を閉めた。




■3■

 
 
 

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