五右エ門は元々、筆を使う。
硯で磨った墨に筆先を浸し文字を書く。
道具を揃えるところから書き上げるまでの一連の流れは好きだ。
急いでいるときは面倒だと思うこともある。
時間がないときは墨汁で済ませてしまうこともある。
それでも筆を使うことは幼いころから当然のことだったのだ。
「五右エ門、遠慮するな」
耳元で次元が囁く。
今、五右エ門の手に握られているのは筆ではなく、ペン。
硯もいらず、墨もいらず、墨汁もいらない。
最初からインクが仕込まれているペンは簡単に文字が書けてとても便利だ。
「今がチャンスだ」
戸惑う五右エ門に次元がまた囁く。
衣服などにつけば落ちにくいのは墨もペンも同じである。
しかし、皮膚についた場合、墨の方が落ちやすい。
手にしているのがペンというより極太マジックなのだから、戸惑って当然である。
「こいつのせいで酷い目にあったんだ、鬱憤を晴らせ」
確かに。
何度も何度も次元と五右エ門はルパンに忠告した。
勿論不二子のことだ。
ルパンはふたりの意に添ったように見せかけて、不二子の意のままに動き、結果。
三人は散々な目にあった。
「このくらいで済ませてやるんだから俺達も優しいもんさ」
ハッと次元は鼻で笑って、握っていたペンを走らせる。
キュキュと音を立て、不二子に盛られた薬でグースカ眠っているルパンの顔に文字や絵が書かれていく。
「そうでござるな」
蘇った苛々や怒りが戸惑いを遠くに追いやった。
額に『馬鹿』と書いたら次元は「達筆すぎるだろう!」と笑ったので、五右エ門も可笑しくなってつい声を立てて笑ってしまった。
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