■パンツの日■
 
 

「パンツを履きなさい」
アジトに帰って来た次元を迎えたのは、そんなルパンの声だった。
廊下の奥、少し開いた扉の向こうから聞こえたそれは、勿論次元に向かって言われたものではない。
ファミリードラマでなら稀ではあるが裸族になった小さい子供に母親が投げかける言葉だったりするが、
ここは泥棒、ルパンファミリーのアジトである。小さい子供などいるはずはなく。
「いいからパンツを履けって!」
声の主がルパンだということは、相手は五右エ門しか在りえない。
現在このアジトに潜伏しているのは次元を含め三人だけなのだから。
「お前のスタイルに合わせたフィットするタイプの服なんだって!褌だとモコモコしてみっとねぇだろうが!」
そっとドアの隙間から部屋の中を覗き込む。
正面には腕を組み顔をそむけ拒絶の意を示す五右エ門。
その手前には、キーキー喚きながらピラピラしたものを突き付けているルパンの後姿。
成程。
様子を伺ってようやく次元は納得する。
和装一辺倒だった五右エ門は馴れぬ洋装にてんやわんやしていたが、最近は仕事と割り切って変装だと言えば文句なく洋服を着るようになった。
それでも体を締め付けると苦手な様子を残しているというのに、最後の砦である褌までも替えさせる必要があるらしい。
「パンツを履きなさい!!」
何ともいえないルパンの言葉を聞きながら、
トランクスやブリーフをすっとばし、いきなりTバックとは侍にはハードルが高すぎるだろうなぁ、と次元は肩を竦めた。

 
 
■8月2日■
 

 
 
 

   
■ハードコアの日■
 
 

つまんなさそうに次元が見ているTVからは情事特有のぬちゃにちゃという湿った音と喘ぎ声が聞こえている。
次元も男だ。
その手の映画やビデオを観たとしても別段おかしくはない。
おかしいのはTVから聞こえてくる声だ。
煽るように責めたてる声と隠語を言わされながら喘ぐ声が、共に男のものなのだ。
五右エ門と関係を持つようになったものの、次元の性癖は基本的にノーマルだ。
ポルノやアダルトを観るなら普通の男女モノを選ぶだろう。
その証拠に次元は興奮する様子もなく、ちょっと嫌そうな表情すら浮かべている。
五右エ門は眉を潜めた。
なんでわざわざ好みに合わないものを観るのか、その気がしれない。
五右エ門の視線に気が付いた次元がニヤリと厭らしく笑った。
「なあ、こいつお前に似てねぇ?」
観るつもりはなかったが、そう言われてついTVに視線をやった。
画面の中央にいるのは細身の東洋人。若い男だ。
どこが似てるんだと言いたかったが、強制的に飛び込んできた映像に息を飲む。
若い男は大柄な男ふたりに挟まれて、前から後ろから攻め立てられてる。
嬌声は咥えさせられているモノに阻まれ細い悲鳴のような声色になり、
背後から突き上げられている尻は淫らに揺れ動き、逃げるようにも強請るようにもみえる。
と、アングルが変わり無修正の結合部分が映った。
大きく広がった場所に極太のモノが激しく出入りしている。嬌声が更に大きくなる。
「こんな風によ。理性がぶっとぶくらい激しくされたくねぇか?」
他人の情事、それも創られた映像に煽られる程、落ちぶれてはいない。
だが、掴まれた手首を引かれ耳元で情欲が籠った声で囁かれ、五右エ門の背筋にゾクゾクとした興奮が走った。
その変化を次元が見逃すはずはなく。
満足げに微笑みながら五右エ門をソファーに押し倒した。

 
 
■8月5日■
  

 
 
 

   
■バナナの日■
 
 

夏は暑い。
冷房の効きが悪いアジトだと最悪だ。
喉が渇く。ビールがすすむ。
昼間っからアル中の態は良くないとわかっていても進むんだから仕方がない。
毎日酔っているようじゃいざというときにマズイということで、ビールの本数は減った。
かわりにアイスがブームになった。
男所帯でアイスブームなんてなんだそりゃという感じだが、流行ったものは仕方がない。
氷の棒アイスをカジカジ噛むと口内も冷えるし、飲み込めば体内も冷える。
お徳用とか書かれたデカイ箱を買ってもあっという間になくなる。
そしてあっという間になくなるアイスはあっという間に身になった。
つまり体重が増えたのだ。
いい年した男がアイスで体重増加。
あげくに腹を冷やしすぎてトイレに篭ることも多々。
泥棒としても男としてもどうよと反省しているところに、冷凍バナナが登場した。
バナナの皮を剥いて、割り箸を縦に突っ込み、そのまま冷凍庫に入れる。簡単な作業である。
冷凍バナナはアイスと違ってなかなか溶けない。
持続する冷たさを楽しめるとなって、今度は冷凍バナナが流行った。
男所帯である。
天下に名を轟かす泥棒ファミリーである。
でも夏は暑く、冷房の効きが悪いアジトだと、そんなことは言っていられない。
今日も今日とて男3人、冷凍バナナにかぶりついている。
「ま、こんな夏もたまにはいいかもな」
冷たさを味わうようにチロチロ舐めたり先端を咥えたり、ゆっくり冷凍バナナを楽しむ五右エ門を眺めながら、
アイスの代わりに冷凍バナナをアジトに持ち込んだ男は愉しそうに言った。
「・・・このむっつりが」
呆れたルパンの呟きは、ご満悦な次元の耳には届かなかった。

 
 
■8月7日■
 

 
 
 

   
■ひげの日■
 
 

顎鬚はある意味次元のアイデンティティーである。
どんなときでも手入れはかかさないし『髭ナルシスト』と揶揄されても気にしない。
ルパンは身奇麗にして髭剃りはかかさないが、稀ではあるがひとつのことに集中しすぎると完全放置となり、イエティのごとく髭面になる。
五右エ門はというとあまり手入れをしている様子はないというのにいつもつるりとしている。
手足をみてもわかるように体毛が薄いタイプのようなので髭も生えにくい体質なのか、あるいは愛刀で剃っているのか。
大事な大事な斬鉄剣を髭剃りに使うような性格には見えないから、やはり体質なのだろうか。
それにしても生えなさすぎではないだろうか。まるでオンナだ。
と、常々こっそり思っていたものの、命は惜しいので直接問う勇気はなかったのだが。
珍しく深酒をしてご機嫌な様子なうえに、話題は次元の髭ナルシストになり、その流れで何気なさを装って聞いてみた。
「ああ、これは理由があるのでござる」
やっぱり男として体毛が薄いことを気にしていたのか、五右エ門はガクリと肩を落として話し出した。
曰く。
以前、殺し屋として駆け出しの頃、あることに巻き込まれた。
曰く。
梟頭の集団に拉致され拘束され女装を強いられたときに何やら怪しげな処置を施されたらしい。
以来、髭はもとより体毛も産毛程度しか生えてこなくなったのだ、と。
ルパンと次元は話を聞くうちに、驚きに目を見開きお互い顔を見合わせた。
梟頭。拉致。女装。
すごく覚えがあり過ぎる。
次元に至ってはあのとき勝負した男の正体が明かされたのである。
髭の謎も、謎の男の正体もわかったところで新たな疑問が湧きあがる。
体毛ってどこまで?
もしかしてパイパンだったりする?
石川五右エ門。謎が尽きない男である。

 
 
■8月8日■
 

 
 
 

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