■うどんの日■
 
 

世界をまたかける大泥棒ルパン三世。
そんな枕詞を持つ男の相棒ないし仲間をやっているのだから、活躍の場は広い。
つまり日本に戻れることは少ない。
日本を心から愛し、古き良き日本を体現しているような五右エ門にとってそれは良い事でもあるが悪い事でもある。
狭く閉ざされた世界から飛び出して見た、本当の世界は広く雑然として理解できないものに満ちていた。
だが、それが楽しい。苛立つことや戸惑ったり不満に思うことも多々あるが、ひとりではきっと見ることは出来なかった世界だ。
だから日本に留まらず、広い世の中に在ることは新鮮で、楽しい。
そんな中に身を置いて、発生する多々の不具合をひとつひとつ解消し代替していった結果、唯一我慢できなかったのは食生活だった。
贅沢を言うつもりはない。食があるだけ有り難い。
そう思い込もうとしても、日本を長く離れるとどうしても和食が食べたくなる。
懐石だの寿司だの刺身だの。そこまでは望まない。
白い飯、味噌汁、漬け物。ちょっと欲を出してもせいぜい蕎麦やうどん。
そんなものでいいのだ。
だが。アジア圏から出てしまえば、米より小麦。飯よりパンだ。
日持ちする味噌や漬け物、カップ麺などを持ちだしてみても、長期滞在ともなればいつかは底をつく。
残るのは現地の食材。肉、パン、スープに野菜。
野菜や魚は名称は同じでも日本で手に入るものとずいぶん違う。
そんな食材を使ってもやぱり和食にはほど遠い。
贅沢は言っていないのだ。
白い飯に味噌汁、漬け物。ちょっと欲を出して蕎麦やうどん。
日本では贅沢でないものも、国外に出れば手に入りにくい、ある意味贅沢なものになってしまう。
和食に飢えて、不機嫌になって、ふてくされて仕事を放棄して、あげくに不二子に使いを頼むような、そんな日々を経て。
五右エ門はようやく辿りついた。
ないなら作れ。
米はなくとも小麦粉はある。

こねて寝かせて手間暇かけて作ったうどんを嬉しそうに食べる五右エ門を、生暖かい目で見つめる仲間の姿があった。

 
 
■7月2日■
 

 
 
 

   
■ソフトクリームの日■
 
 

夏は暑い。
暑いと冷たいものが食べたくなる。
そんな心境を知ってか知らずか最近次元は五右エ門に冷菓子を買い与える。
ソフトクリーム、なければアイスキャンディ。
買い出しや、仕事の合間の息抜きの散策、待ち合わせ場所への道すがら。
売っているのを見かけると当たり前のようにひとつ買い、自分は食べずに五右エ門に差し出す。
女子供のように好物だと思われているのか、勘違いさせるような態度や発言をした覚えはないが、甘いものは好きだから礼を言って受け取る。
舌に乗せたバニラの甘味は冷たさと一緒に体に染みる。暑い日には堪らない美味さだ。
一度かじったらなぜか注意をされた。
せっかくなんだからもっと味わえ、一気に体を冷やすな、ゆっくり食べろと。
どこの母親だと思いはしたが、体まで気をつかってくれているのなら、出資者の意志に沿ってもまあいいだろうと、反論はしなかった。
暑さでどんどん溶けていくのを舐めとるのは面倒だが、アイス1本、食べ終わるのにそんなに時間をとるものではない。
有り難く頂戴して、一時の冷たさを遠慮なく楽しませてもらった。

「舐めるのは馴れてるだろ?」
にやりと笑った男に腕をとられて引き寄せられた。
「いつものように上手に舐めて、しゃぶってくれよ」
くすくす笑いながら髪を撫でていた手がぐいと後頭部を押す。
一瞬喉を突かれてえずきそうになるが、喉の奥を犯すより舌での愛撫を所望らしく、頭を引き寄せた力はすぐゆるむ。
甘くもなく冷たくもなく溶けて無くなるわけでもない。
まずくて熱くて堅くそそり立つソレを五右エ門はゆっくり唇と舌で愛撫する。
確かに馴れてる、馴れさせられた。
まさかこれが目的でソフトクリームだのアイスキャンディーだのを与えられていたのか。こやつは馬鹿か。
次に与えられたら、目の前で歯を見せて最初から最後まで乱暴にかじってやろうと決心する。
だが今のところはとりあえず、馬鹿で阿呆で愚かな恋人の望みを叶えてやることにした。

 
 
■7月3日■
  

 
 
 

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