■扇の日■
 
 

他愛もない話をしながらダラダラと街並みを歩いていると「お」と小さい声をあげてルパンが足を止めた。
その視線の先をヒョイと覗き込んでみると、小さいアンティークショップ。
小さい硝子窓の向こう側には骨董品が所狭しと置かれているが、次元の目から見てもたいした品はない。
目利きなルパンの興味を惹くようなものはなさそうなのに何に反応したのか。
そんな次元の疑問に気がついたのか、ルパンが笑いながら「これこれ」と指差した。
窓辺に幾つかの品物が飾られている。その端にひっそりと扇子が置かれていた。
日本から遠く離れたこんな所にあるのが不似合いなそれは、たったひとつだけだ。
他に日本の品は見当たらない。
店の主が偶然手にいれて珍しさから飾ったといったところか。
「あいつ元気にしてっかな」
ヨーロッパの片隅でひっそりと置かれているたったひとつの異端。
連想するのはただひとりだ。
「気になるなら、そろそろ呼び戻せばいいだろ」
大きな仕事が終わった直後に修行だと言って日本に戻って随分経つ。
五右エ門も気が済んだ頃だろう。
ふたりでもそれなりに仕事をしていたが、そろそろ五右エ門の力が必要になるほどの大きなヤマを踏みたいというのが本音だ。
難攻不落。命がけ。スリル。
それらの単語を一度体験すると、病み付きになる。
「ま、そろそろな」
ルパンはニヤリと笑って「そういえば」と言葉を続けた。
「五右エ門って扇子より扇って感じしねぇ?」
コンと窓ガラスを叩いたルパンの台詞は、前後で話題が繋がっていないが気にしてたらきりがない。
確かにこの古い品を見て、ふたり同時に五右エ門をイメージしたのは間違いない。
だが。
「扇子と扇ってどう違うんだ?」
日常品ではないし、自分が使ったことないからわからない。
「さあ?」
頭を悩ませて問うた返事がこれである。付き合っていられない。
口をへの字に曲げて無言で歩き出した次元の後を笑いならがルパンが追いかけていく。
この地でルパンファミリーが揃うまであと少し。

 
 
■5月1日■
 

 
 
 

   
■御用の日■
 
 

「今日は『御用の日』らしいぜ」
ルパンがTVを見ながら言った。
なんじゃそりゃ。と内容よりもそのネーミングに呆れる。
「はぁ?いまどき『御用』なんて言葉使う奴いるのか?」
反射的に問うてしまった次元に事も無げに答えが返ってくる。
「いるだろ、ひとり」
「いるでござるな、ひとり」
そうだった。
忘れていたわけではないが、犯罪者にとって忘れたい存在でもあるからつい。
「いたな、ひとり。それもルパンの身近に」
「俺の身近に、じゃねぇ!お前たちも同じ立場だろうが!」
次元と五右エ門、揃ってじとりとルパンに視線を送る。
「本気でそう思っておるのか?」
「ルパン以外は眼中に入ってねぇな。俺たちなんざ、ルパンへの道標くらいの認識だろう」
とっつあんはめざとい。ちょっとした計画や変装なら簡単に見破ったりする。
とっつあんはしつこい。世界の果てまで追ってくる。
とっつあんは頑丈だ。普通なら死んでる状況でもピンピンしてたりする。
それもこれも『ルパン逮捕』のため。
その執念は何にも負けない、その情熱の炎はたまに延焼して次元や五右エ門まで巻き込むことがある。
なかなか手強い男なのだ。
「そーいや、あのだみ声を久しく聞いてないなぁ」
懐かしげなルパンを見て、ふたりは呆れて顔を見合わせた。
TVから聞こえた久々のフレーズに銭形のことを思い出したのだろう。
いたらいたで邪魔でうざい男だが、いなければいないで物足りなさを感じるのだ。ルパンは。
「良き競争相手というところか」
「まあ、ほどほどに頼むぜ、ほどほどにな」
次の仕事はいつもより大変になりそうだと肩をすくめたふたりだが。
自分の顔が笑っていることは自覚していなかった。

 
 
■5月8日■
 

 
 
 

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