「ハーイ、ルパン」
甘い声を出しながらアジトに入って来た女に三人の男の視線が集まる。
「どうしたの、不二子ちゃん、俺に会いに来てくれの〜」
何度騙されても懲りない男は目をハートにしてイソイソと不二子に近づいた。
残りの二人はその様子を冷たい目で見るのが常であるのだが、今日は違った。
「今日は格別に綺麗じゃねぇか」
機嫌良さ気な笑みを浮かべた次元の発言に、不二子とルパンは我が耳を疑った。
「確かに。輝いているでござる」
ウンと大きく頷き、五右エ門も続く。
「ルパンが惚れるのも無理ねぇ」
「実は拙者も憎からずと思っておったのだ」
「そうか、お前もか。それじゃあ俺たちはライバルだな。不二子、俺はどうだ?」
「抜け駆けは良くないぞ、次元」
信じられない二人の会話。
驚きに目を見開いて硬直していた不二子だったが、二人から向けられた視線に我に返る。
ニヤニヤと楽しむようなその視線、表情。
「アンタたちなんか及びじゃないわよ!」
不二子は冷たく言い放ち肩を怒らせながら、入ってきたばかりの扉から出て行く。
バタン、と壊れそうなほどの音を立てる扉に向かい、ルパンが慌てて一歩踏み出した。
「あ、不二子ちゃん!お前ら!!」
肩越しに相棒ふたりを睨みつけるが、気にした風もなく、さっきと同じ笑顔で次元は言った。
「お前もいい男だぜ、ルパン」
「ああ、心が広く、おおらかで優しい、イイ男でござる」
「不二子とお似合いだぜ、美男美女ってやつだな。羨ましいこった」
「お互いを慈しみ合い、裏切らず、信じ続ける姿は感動ですらあるな」
嘯く相棒達にルパンはウムムと眉間に皺を寄せたが、今は不二子を追うことが先決だ。
「覚えてろよ!」
お約束の捨て台詞を吐いて、ルパンはアジトから飛び出して行った。
不二子ちゃーん、という情けなくも甘く呼ぶ声が遠ざかっていく。
「さてと。邪魔者もいなくなったし行こうぜ」
ヨイショッと勢いをつけて起き上がった次元は、五右エ門の前に立つ。
「どこへだ」
「ベッドに決まってるだろ」
ニヤリと笑うそれは、さっきまでの人の悪い表情と同じだ。
次元の悪ふざけに乗った五右エ門だったが、今度は自分の番かと眉を寄せた。
「・・・エイプリルフールか?」
「ベッドに行くまではホント。その先は嘘ついていいぜ」
「?」
スイと手をとり立ちあがらせると、エスコートするように腰に手を回し引き寄せた。
「今日くらいは思う存分声を出して、イイって喘いでくれよ」
どんなに体が善がり快楽に意識が朦朧としようとも、男としての矜持故か五右エ門はあまり声を出さない。
「悦いか」という問いにも首を横に振る。決して快楽を快楽として甘受しない。
そんな姿も堪らないが、やはりたまには素直な姿が見たい。
年に一度くらい、今日くらい、嘘を嘘で塗りつぶしてもいいだろう。
次元は耳元で甘く囁いて、嘘に塗れた夜へ五右エ門を誘った。
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