■エイプリルフール■
 
 

「ハーイ、ルパン」
甘い声を出しながらアジトに入って来た女に三人の男の視線が集まる。
「どうしたの、不二子ちゃん、俺に会いに来てくれの〜」
何度騙されても懲りない男は目をハートにしてイソイソと不二子に近づいた。
残りの二人はその様子を冷たい目で見るのが常であるのだが、今日は違った。
「今日は格別に綺麗じゃねぇか」
機嫌良さ気な笑みを浮かべた次元の発言に、不二子とルパンは我が耳を疑った。
「確かに。輝いているでござる」
ウンと大きく頷き、五右エ門も続く。
「ルパンが惚れるのも無理ねぇ」
「実は拙者も憎からずと思っておったのだ」
「そうか、お前もか。それじゃあ俺たちはライバルだな。不二子、俺はどうだ?」
「抜け駆けは良くないぞ、次元」
信じられない二人の会話。
驚きに目を見開いて硬直していた不二子だったが、二人から向けられた視線に我に返る。
ニヤニヤと楽しむようなその視線、表情。
「アンタたちなんか及びじゃないわよ!」
不二子は冷たく言い放ち肩を怒らせながら、入ってきたばかりの扉から出て行く。
バタン、と壊れそうなほどの音を立てる扉に向かい、ルパンが慌てて一歩踏み出した。
「あ、不二子ちゃん!お前ら!!」
肩越しに相棒ふたりを睨みつけるが、気にした風もなく、さっきと同じ笑顔で次元は言った。
「お前もいい男だぜ、ルパン」
「ああ、心が広く、おおらかで優しい、イイ男でござる」
「不二子とお似合いだぜ、美男美女ってやつだな。羨ましいこった」
「お互いを慈しみ合い、裏切らず、信じ続ける姿は感動ですらあるな」
嘯く相棒達にルパンはウムムと眉間に皺を寄せたが、今は不二子を追うことが先決だ。
「覚えてろよ!」
お約束の捨て台詞を吐いて、ルパンはアジトから飛び出して行った。
不二子ちゃーん、という情けなくも甘く呼ぶ声が遠ざかっていく。
「さてと。邪魔者もいなくなったし行こうぜ」
ヨイショッと勢いをつけて起き上がった次元は、五右エ門の前に立つ。
「どこへだ」
「ベッドに決まってるだろ」
ニヤリと笑うそれは、さっきまでの人の悪い表情と同じだ。
次元の悪ふざけに乗った五右エ門だったが、今度は自分の番かと眉を寄せた。
「・・・エイプリルフールか?」
「ベッドに行くまではホント。その先は嘘ついていいぜ」
「?」
スイと手をとり立ちあがらせると、エスコートするように腰に手を回し引き寄せた。
「今日くらいは思う存分声を出して、イイって喘いでくれよ」
どんなに体が善がり快楽に意識が朦朧としようとも、男としての矜持故か五右エ門はあまり声を出さない。
「悦いか」という問いにも首を横に振る。決して快楽を快楽として甘受しない。
そんな姿も堪らないが、やはりたまには素直な姿が見たい。
年に一度くらい、今日くらい、嘘を嘘で塗りつぶしてもいいだろう。
次元は耳元で甘く囁いて、嘘に塗れた夜へ五右エ門を誘った。

 
 
■4月1日■
  

 
 
 

   
■参考書の日■
 
 

恋人と初めて体を繋いだ翌朝。
ベッドの端に腰をかけた次元は頭を抱えていた。
その心を占めるのは悦びと満足感。そして燃え滾るような嫉妬心。
男同士だ。
心が通じ合うまでそれなりの時間がかかった。
男同士だ。
体を欲する衝動はあれど、行動を起こすまでにもそれなりに時間がかかった。
どっちが抱く側か抱かれる側かに始まり、男同士のノウハウの習得。
次元は抱く気満々だった。ポジションは譲る気はまったくなかった。
だから地道にゆっくりと、でも確実に五右エ門を丸め込んでいった。
相当の苦労を要したが努力の甲斐はあった。
五右エ門を丸め込む同時進行でネットで男同士の方法も調べた。
ネットとは本当に便利であるが諸刃の剣でもある。
見たくない野郎どもも結合画像を目にしてはゲンナリし、それでも五右エ門を抱くために必死に耐えた。
他の男なら吐くほど気持ち悪いことも、相手が五右エ門になると反応が逆転した。
とにかく欲しくて抱きたくて、そして昨夜ようやく念願叶って結合を果たしたのだ。
全裸の五右エ門を組み敷いたときの感動。
滑らかな肌と匂い立つ体臭。
愛撫に敏感に反応する身体。
甘い吐息と泣き声に近い喘ぎ。
一緒に扱いた気持ちよさと体液で濡れた下肢。
そして熱く狭い胎内。
どれを思い出しても身体が昂ぶる。
慣れない行為の疲労故かベッドの上で眠り続ける五右エ門に、また襲い掛かりたい衝動が湧きがる。
だけど同時に焼け付くような焦燥感、嫉妬心。
男は初めてだと思っていた。
少なくとも次元にとって男を相手にするのは初めてだった。
もちろん五右エ門も同じだと信じていた。
・・・愚かだ。
そう。意外にも五右エ門は慣れていたのだ。
自ら所持していた軟膏で自らを解した。
体位にも詳しく、次元がリードされてしまう瞬間もあった。
五右エ門はどこでそれらの知識を手に入れたのか。
次元と違って情報収集に疎い侍だ。
・・・実践しか在り得ない。
五右エ門だって男だ。過去のひとつやふたつあるのは当然だ。
閉鎖された昔の日本さながらの環境で育ったのだから、師匠だの兄弟子だのに手を出されていたとしても不思議はない。
処女性など求めていない。
だが過去に五右エ門を抱いた男がいると思うと、その相手を殺したくなる。
「どうしたのだ?」
いつの間に目覚めたのか、五右エ門が問いかけてきた。
喘いで喉が潰れたのだろう、掠れた声は妙にセクシーだ。
好きだと思う。愛していると感じる。
だからこそ自分の狭量が許せなく、糾弾して欲しい衝動に襲われた次元はポツポツと今の心境を語った。
「おぬし」
呆れたように五右エ門は言った。
「・・・すまねぇ」
こんなことでショックを受けて馬鹿馬鹿しいと思うものの、感情は正直でどうしようもない。
「おぬしだって詳しかったではないか」
「俺はインターネットで調べたからな」
「拙者も同じだ」
「・・・は?」
侍にインターネットなど似合わない。
それどころか扱い方も知らないことは、長い付き合いで知っている。
「学習する手段はいんたーねっとだけではあるまい」
ベッドから起き上がり、部屋の片隅をゴソゴソした五右エ門が放って寄越したのは、数々の古書。
「昔の日本は衆道が盛んだったからな。こういうのは沢山あるのだ」
パラリと開くと、書体も図解されている絵も古臭いが、間違いなく書かれているのは男同士のアレやコレや。
「拙者の参考書だ」
ポカンと口をあけて書籍を見つめていた次元だが、ある考えに辿りついた途端血が滾ったような気がした。
五右エ門が。
この五右エ門が。
男同士の方法を調べていたのだ。
次元と交わるために、次元に抱かれるために。
こんな本を手に入れて、慣れていると次元が錯覚してしまうほど勉強したのだ。
欲しがっていたのは自分だけじゃない。
「五右エ門!!」
そう気がついた途端、堪らなくなった次元は五右エ門に襲い掛かった。
「・・・じ、次元ッ?!」
白い体を組み敷き撫でまわし、ようやく落ち着きを取り戻していた身体にふたたび欲情の火を灯す。
枕元に置いた本をパラパラめくる。
「この体位を試そうぜ」
一気に浮上した次元のイヤらしい誘いに「ばかもの!」と応えた声は次第に小さくなっていった。

 
 
■4月8日■
 

 
 
 

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