■ブラジャーの日■
 
 

変装は別にいい、変装は。
ルパンと仕事をするようになって、変装の必要性は理解しているつもりだ。
警官だったり、老人だったり、冴えないサラリーマンだったり。
洋装が中心だが、一般市民に埋没したり、警備に紛れ込んだりするには都合がいい。
女の格好をしろと言われれば、必要ならば拒否するつもりはない。
だけれど。
「・・・くっ」
何が嫌かって女性用下着を身に着けるのが嫌なのだ。
パンツはまだいい。
褌愛好の五右エ門にとって男用のボクサーやビキニタイプも女性用もあまり変らない。
だが、乳あて、つまりブラジャーだけはいただけない。
男は乳を隠す必要はない。
つまりブラジャーとは女性専用の下着なのだ、それを男である自分が身に着けるというのは。
「屈辱だ・・・」
用意された変装衣装は、緑のドレスとアクセサリー、そしてブラジャー。
ゴツン
うううと呻く五右エ門の後頭部に真っ赤な林檎がぶつけられた。
「うるさい、さっさとつけろ。胸に林檎入れるの忘れんなよ」
非情なルパンの声と共に後頭部にまた一撃。
コロンと足元に転がる林檎に視線をやって、五右エ門は諦めたように溜息をついた。

 
 
■2月12日■
 

 
 
 

   
■銀行強盗の日■
 
 

「○○銀行●●支店、銀行強盗2名逮捕しました!」
「▲▲銀行△△支店、銀行強盗3名捕獲!」
「□□銀行■■支店、銀行強盗1名逮捕!」
「▼▼銀行・・・」
捜査本部にジリリと鳴り続ける電話。
電話を受けた警官が声をあげて報告する。
「ああ、もういい!!雑魚に用はない、ルパンだ、ルパンはどうした!」
報告を遮り、安楽椅子から立ち上がって銭形が叫んだ。
「ルパン逮捕の報告はまだありません!」
「くそー、ルパンめ、何をやっとるんだ!」
まるで銀行強盗を奨励するような銭形の言葉に周囲の警官は苦笑を浮かべた。
ルパン捜査第一人者、銭形警部。
名は知られてはいても、いつもルパンを取り逃がすイメージが付きまとい一般的な評価はあまり高くないのだが、実は超切れ者なのだ。ただルパンがそのうえをいくというだけで。
2月13日は『銀行強盗の日』。なんとふざけた日だ。
それを知っている犯罪者は、2月13日になると我先にと銀行を襲う。
警察も警備を厳重にするものの、どこが襲われるかわからない状態では、犯罪発生数に負けて毎年何件もの銀行強盗が成功する。
だが今年は違う。
ルパンが銀行強盗を計画しているという情報を掴んだ銭形が、対ルパンの警備網を全銀行にひいたのだ。
その結果。
捕まる捕まる、銭形曰く雑魚の銀行強盗が面白いほど捕まる。
「※※銀行**支店、銀行強盗4名逮捕しました!」
また新しい報告が捜査本部に響き渡る。
そんな中。
せっかく有能さが発揮されているというのに、銭形警部は相変わらず、ルパンが現れないことに対して歯軋りしているのだった。

 
 
■2月13日■
  

 
 
 

   
■煮干しの日■
 
 

女性が意中の男性にチョコレートを贈る。
これは日本独自の習慣だ。根本を探れば、ただのお菓子会社の策略だ。
そんなことわかっているが、買出しに寄ったちいさいスーパーでさえバレンタインコーナーがあるのだから、意識せずにはいられない。
色とりどりの値段も様々なチョコレートが所狭しと並べられていて、女性が楽しそうに選んでいる。
最近は友チョコだの自分チョコだのというものが、義理や本命へのチョコより多いらしい。
ということを、昨夜テレビで流れていたのを見た。
「ま、俺には関係ねぇな」
世情に疎い恋人がくれるとは思えないし、自分だって用意する気はない。
だいたい男同士だ、バレンタインデーなど関係ない。
次元は頼まれた食材をカゴに入れ、チョココーナーを素通りし乾物コーナーに向かった。

「ほらよ」
目の前に差し出された袋を受け取った五右エ門は、不思議そうな表情を浮かべた。
「今日は煮干の日だってさ」
次元が笑いながら言うのを聞いてガザガザと覗く。
ちょっとお高そうな出汁にするより直接食べた方が美味しそうな煮干が入っている。
日本食をこよなく愛する五右エ門には嬉しいプレゼントだ。
「かたじけない」
嬉しそうに礼を言う五右エ門を見て、俺達にはこんな感じがピッタリだ。
と、ひとり満足した次元だったのだが。
夜になって「礼だ」とぶっきらぼうに小さな包みを渡された次元は、驚きに瞠目したあと速攻で恋人を押し倒した。

バレンタインデーには甘い夜を。

翌朝、開いた包みから出てきたのは白い褌。
五右エ門曰く。
「2月14日は褌の日でござる」

 
 
■2月14日■
 

 
 
 

   
■禁煙運動の日■
 
 

規則正しい日々を過ごす侍は健康優良で体調を崩すことはほとんどない。
不健康な日々を過ごす次元はよく風邪を引いたりするが、五右エ門にはそれがないのだ。
自分の存在を示すためや照れ隠しで「コホン」と咳払いするくらいで、病的な咳をするのを見たことはない。
はずだったのだが。
今日に限って五右エ門の咳が止まらない。
コホン、コホコホ。
風邪というより喉がいがらっぽい、風邪の引き始めという感じだが珍しいことには変らない。
「風邪か?」
という次元の問いに
「いや」
と答えながらも続くのは軽い咳。
次元は自分の左手でくゆる煙草をみる。次にテーブルのうえ、吸殻がこんもり山になった灰皿を。
たぶんこれも咳き込みの原因のひとつなんだろうなぁと思う。
喉の調子が悪いときの煙は最悪だ。
だから少し気をつかって、咳き込む男から離れて、距離を置く。
だが気がつくと、いつの間にか近くに座った五右エ門が咳き込んでいる。
それを朝から繰り返し繰り返えし。
とうとう次元は耐えられなくなって叫んだ。
「だからなんで近づくんだ!煙いのなら離れろよ!」
五右エ門の咳がとまる。
少し固まって、そしてチラリと含みある視線を次元に送った。
「せっかくルパンがいないのにか」
グッ、とキた。
グッと来ないでいられようか、これが。
昼真っからの情事は決して許されないことは知っているから、衝動のままに襲うことはできない。
だが、近くにいたいと、滅多にそんな態度をみせない恋人を前に次元は陥落した。
煙草を灰皿に押し付け火を消すと、灰皿ごと台所の奥に持って行く。
「今日だけだからな」
ほんの僅かな禁煙タイムだ。
近くにいたいと咳き込む恋人には敵わない。
「そうか」
満足そうな五右エ門を見ながら、次元はテーブルの上に置いてあったガムを口の中に放り込んだ。

咳ひとつなく元気な五右エ門に「俺のお陰だな」と言った次元が、「禁煙運動だったでござる」と答えられて唖然とするのは翌日の話。

 
 
■2月18日■
 

 
 
 

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