■愛と希望と勇気の日■
 
 

怖いもの知らずの若い頃は山のように無茶な事をしたし、恋だの愛だの友情だのも身近にあった。
だが年齢を重ねて『おっさん』などと呼ばれる年齢になると、それらはこっ恥ずかしいモノとなる。
おっさんでも無茶はするが昔ほどの後先考えない馬鹿なことをすることは少ないし、
友情ならまだしも恋だの愛だのになると二の足を踏む。
いい女だなやりてぇ、よし守ってやる、なんて思っても、愛しいとか恋しいとかまでは発展しない。
この年になれば守りに入るし、そこまでの情熱もわかず、ある意味俗物的にもなる。
はずだったのに。
「どうしてこうなった」
次元は頭を抱える。
会えなくて物足りなくなったり、冷静沈着を目指してたまに失敗している幼気さについ口元が緩んだり、笑顔を向けられて抱きしめたくなったりして、自分の正気さを疑っていたりしたものなのだが。
久々に顔を見て、それらが恋しいとか可愛いとか愛しいとか、そんな感情から発するものだと唐突に気がついてしまったのだ。
相手が女ならまだ何とかなる。
相手が少女でも老女でもここまでショックは受けなかったと思う。
相手が男でよりにもよって堅物のサムライともなれば、ショックと絶望ははかり知れない。
なぜ友情を乗り越えて、別の情を持ってしまったのかと、懇々と己を問い詰めたい。
「どうしたのだ、おぬし」
いつの間に近づいたのか、すぐ横から五右エ門の声がした。
パッと顔をあげると、気遣わし気な表情を浮かべ次元を覗き込んでいる。
次元を惑わし絶望に陥れた当の本人であるというのに(五右エ門からすれば何を勝手な事をと言うだろうが)、自覚に伴う衝撃で少々パニックに陥りかけていた次元にはその優しさが身に染みた。
だからつい。
「五右エ門っ」
だからつい次元は、縋るようにその手を掴んでしまった、握ってしまった。
一瞬目を丸くした五右エ門は包み込まれるように手を握られていることに気がつくと、さっと手を引き抜いた。
随分とつれない態度である。
「ほら、行くぞ。ルパンが待っているでござる」
慌てて背を向ける五右エ門の、赤く染まった顔を見て、今度は次元が目を丸くした。
普通男が男に手を握られて頬を染めるか?
嫌悪ならまだしも照れるとはどういうことだ。
もしかしてもしかして。
絶望に染まっていた次元の心の中に一筋の希望の光が差し込んだ。
もしかしてもしかして?

あと必要なのは勇気。
ただそれだけだ。

 
 
■1月14日■
 

 
 
 

   
■アダルトの日■
 
 

煌煌と明かりがともった部屋で次元はだらしなくソファーに寝そべっていた。
視線の先にあるのはTV。
映し出される映像をなんの感情もない目でただ見つめている。
絞られたボリュームでもあからさまな女の喘ぎはしっかりと耳に届く。
たまにあがるわざとらしい嬌声。
ぐちゅぐちゅという湿った水音はずっと鳴り続けている。
画面では柔らかそうな肌の女が浅黒い肌の男に組み敷かれ、突き上げられる度に白い体をくねらせている。
どこからどうみてもポルノ。無修正のアダルトだ。
それなのにそれを見る男は興奮するでもなく鬱々としている。
五右エ門相手の感情を自覚したものの、伝える勇気はまだないことに対し言い訳するように、己の性癖を確認中なのであるが、どうにもその気にならない。
股間の息子はシンと静まり返ったままだし、息ひとつ乱れない。
男相手に勃たない自信はあるのでゲイアダルトを試すつもりはないから普通のアダルトにしたのだが、こちらもサッパリだ。
いくらなんでも打ち止めになる年ではない。
ただ乗り気じゃないだけ、それだけだ。
ガチャリと背後でドアが開いた。
アジトのリビングなのだから誰が入って来てもおかしくはない。
だが、その人物は数歩入った時点で足を止め、微動だにしなくなった。
あまりの静けさに訝しく思った次元が振り返ると、そこには真っ赤な顔をした男がひとり。
顔を背けてはいるものの、しっかりアダルト映像を見たのだろう、日頃は白い肌が首まで朱に染まっている。
それを見た途端、おとなしかった息子がむくりと反応した。
白い女が五右エ門に、浅黒い肌の男が自分にすりかわり、さっきまで見ていた映像が頭の中で再生される。
息が少しづつ荒くなっていく。
「五右エ門」
次元は体を起こすと、立ち尽す男に向かって手を伸ばした。

 
 
■1月15日■
  

 
 
 

   
■禁酒の日■
 
 

夕方近くになって帰って来たルパンは何かがいつもと違うと感じた。
だが何が違うのか良くわからず、こてりと首を傾げる。
我が物顔に足を伸ばして、長ソファーに次元が寝そべっているのはいつものこと。
室内の煙草臭さを証明するように灰皿に吸殻がこんもりとしていて、その横には半分飲みかけのコーヒー。
ひとり掛けのソファーには五右エ門が胡坐をかいて瞑想中。
ラジオからクラシックな音楽が流れる以外は物音ひとつしていないが、それは別に珍しいことではない。
では何が?
次元がむっくりと起き上がると同時に五右エ門の気配がピリリと尖った。
「ん?」
喧嘩でもしたのだろうか?
次元は小さく溜息をつきながら部屋の隅にあるコーヒーメーカーへ向かった。
「ん??」
そこでようやくルパンは違和感の元に気がついた。
この時間帯なら既に次元はコーヒーから酒に移っているはずなのだ。
それなのに酒もグラスもテーブルにはなく、手にしているのはコーヒー。
「ルパン、お前も飲むか?」
「お前、酒は?」
何気ない問いかけだったのだが。
「次元は禁酒でござる」
答えが返って来たのは別方向、いつもより低い声には有無を言わせない何かがある。
「ふーん」
今ここで理由を問うても答えがないのはわかりすぎるほどわかっているので、ルパンはその一言で会話を終わらせた。

リビングでアダルトを堂々と観ていた次元の言動を飲みすぎによるものだと判断した五右エ門による処置だったと、後から簡潔に説明されたが、聡いルパンはそれだけではないことに勿論気がついた。
だが巻き込まれると色々面倒そうなので、何も言わないでいてやることにしたのだった。

 
 
■1月16日■
 

 
 
 

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