■七夕の雨■

 
 
 
 
 

叩きつけるように降り続く雨は夜になっても止むことはなかった。
窓辺に立ち、ガラスの側面を滝のように流れ落ちる雨を眺めながら、五右エ門は小さく溜息をついた。
晴れようが、雨が降ろうが、雪が降ろうが、天気に気分を左右される様子を見せたことのない五右エ門の珍しい姿に、次元は興味津々といった表情を浮かべ声をかけた。
「どうしたんだ、珍しい」
「なにがだ」
「雨を見て憂鬱そうにしてるのが、さ」
「・・・別に憂鬱なわけではない」
そう答えるわりにあまり浮かない顔をしている。
「じゃ。なんなんだよ」
外の雨を見て溜息をついていた理由を問う。
強制的ではなくちょっと笑ってグラスを傾け答えを求める次元に、五右エ門は頑なになってまで隠す気はないらしい。
カーテンを閉めると、次元の対面のソファーに腰掛けた。
「今日は7月7日だが、なんの日か知っておるか?」
「7月7日?・・・・・・・・・七夕かな」
少し考えて次元は答えた。それ以外他に思いつかない。
だがそれが五右エ門に溜息をつかせる原因とは思えない。
「そうだ、七夕だ」
間違っていなかったらしい。
で?と視線で先を促す。
「なぜか毎年、七夕の夜は雨が降ったり曇ったりして星空を見ることができない」
「・・・へ?」
「去年も一昨年もその前も。七夕の夜が晴れたためしがないのだ。だからまた今年もか、と思っただけだ」
毎年同じ日に雨が降る。
そんなことは普通いちいち覚えていないものだが、なにか特別な日であるならそうとも言えないだろう。
「おまえさん、七夕に空を見上げるようなロマンチストだったか?」
次元のからかうような声色に、五右エ門は一瞬ムッとした表情を浮かべた。
「別にそういうわけではござらん」
年一回だけの男女の逢瀬を思い浮かべながら天の川を見上げ星を探すようなことをするはずない。
だが、七夕だと気がつけばやはり晴れれば良いと思うし、夜空の星が綺麗なら少し見ていようという気になる。
そして毎年、「ああ、今日も雨か」と思うのだ。
「まぁ、いいんじゃねぇか」
「・・・なにがだ?」
「年に一回の逢瀬を大勢に覗き見られるのは嫌なもんだろ?」
「なに?」
「人目も気にせず気が済むまで、しっぽり楽しんでるさ」
まるで知り合いのように語る次元に五右エ門は少し呆れた。
どちらがロマンチストだ。
「それに大雨だとよ」
そう言いながら次元は立ち上がり、五右エ門の手を取った。
「どんな声も雨音に掻き消されるから色々と遠慮しなくっていいだろ?」
ぐい、と引き寄せられ次元の腕の中に抱き込まれる。
慌てて身を放そうとしたが、益々力強く抱きしめられてしまった。
「さあ、ベッドルームに行こうぜ」
欲情の篭った声が耳元で甘く囁く。
ゾクリと体を震わせた五右エ門に次元は満足気な表情を浮かべた。
「今夜はルパンもいねぇからな。七夕なんかより、俺のことを気にしてくれ」
久々の逢瀬なのは自分たちも一緒。
せっかくのふたりきりの夜に何もせず過ごす理由はなにもない。
次元の言葉に一瞬目を丸くした五右エ門だったが、すぐに表情を緩め「そうであったな」と甘く誘うように笑った。




雨はまだやまない。


七夕の夜に雨が降り続けることを望んだのは初めてのことだ。
五右エ門は次元に組み敷かれ快感に囚われながら、そう思った。
 
 
 
 
 
 

■TANABATA NO AME■

 
 
 
■あとがき■

ある七夕の夜の出来事。
きっとこのあとは、雨にもマケズ風にもマケズ、一晩中喘ぐことでしょう♪


ちなみに「七夕の夜は星が見えない」というのは私が毎年思っていることです。
いや、本当なんですヨ。
雨が降らなくっても曇ってて星が見えた例がほとんどない。
梅雨時期だからかな?残念です。




 

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