外に出ると鐘の音が良く聞こえる。
だがあまりの寒さに次元は回れ右をしそうになった。
実際に玄関に戻ろうとしたが、鍵を閉めた五右エ門が振り返ったので断念した。
「・・・神社ってどこだよ」
「車で1時間半の場所だ」
「1時間半!?」
往復3時間、参拝時間も入れたら帰って来るのは明け方だ。その時間帯が一番冷え込む。
五右エ門曰く、参拝客も出店も多くかなり賑わっていて初詣気分にぴったりだ。
だが、次元としてはもう人ごみは御免こうむりたい。
「・・・俺、酒飲んだから運転できねぇぞ」
「む?」
「最近日本は飲酒運転に厳しいんだろ?こんなつまらねぇことで足付くの嫌だからな」
五右エ門がウーンと唸る。
「お前も飲んだよな、だから初詣は」
今日は諦めようや。
そう言うよりも早く、五右エ門はポンと手をうった。
「この先にも小さな神社がある。初詣客は地元の者しかおらぬだろうが、由緒ある神社だ」
やはり初詣はどうしても今夜決行らしい。
「・・・神社ってどこだよ」
さっきと同じ質問だ。
「歩いて15分くらいの場所だ」
歩いて15分。この寒空の中、往復30分も歩くのか。
だが、小さな神社だそうだから、チャチャと参れば1時間強で帰って来れる。
どんなに体が冷えても、次元は帰ったら即ヤル気満々だから、そこは問題ない。すぐに温まれるはずだ。
次元の少しの沈黙をどう受け取ったのか、五右エ門が手を差し出して来た。
なんだ?と目で問うと、五右エ門はスルリと次元の手を取り、握った。
「!?」
「寒いのが嫌なのだろう?」
いつもの五右エ門なら絶対にしない行動だ。
「どうせ誰もおらぬ。たまにはよかろう」
グイと手を引かれ、次元は五右エ門と共に歩き出す。
いい大人が、それもいい男が、手を繋いで歩く。
傍目から見れば気持ち悪いの一言だろうが、当人達にはなにやら擽ったい気分だ。
「ま、たまにはならな」
次元は繋いだ手をスルリと引いてすぐに指と指とを絡めるように握りなおした。
俗にいう恋人繋ぎである。
ゴーン。とまた遠くで鐘の音が鳴った。
「明けましておめでとさん、五右エ門」
次元は腕時計を見せ、更に繋いだ手に力を込めながら言った。
時刻はちょうど零時。
「明けましておめでとう。今年もよろしくでござる」
「もちろん、喜んでよろしくされてやるぜ」
「・・・なんだそれは」
ぷっと五右エ門は小さく吹き出す。
そんな横顔を次元は目を細めて眺めて、クククと笑った。
外気は寒いのに、繋いだ手から体に温かいものが流れてくるみたいだ。
「たまにはこんな年明けもいいな」
そう次元が言うと、五右エ門は嬉しそうに笑った。
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