■ハッピー・クリスマス■

 
 
 
 
 

ルパンの運転で連れて来られたのは山間のロッジ。
避暑ならまだしも、こんな季節にロッジなんて何考えてるんだ。
道中仕事の説明を受けながら次元はそんなことを考えていたが、件のロッジというのを見て納得した。
避暑だの夏の別荘だのペンションだのというレベルを遥かに超えた堂々たる佇まいのそれはロッジという言葉で片付けていいのか迷うほどである。
その周りにぐるりと停められた車も高級車ばかりで、金持ちの集まりであることは一目瞭然だ。
「ここで今夜、クリスマスパーティーが行われるんだけどさ」
いくら金持ちの酔狂とはいえ、こんな雪深い山奥でこれだけの人数が集まるなんてただのクリスマスパーティーのはずはない。
盗品の宝石を加工しなおした装飾品で身を固めた女性が複数、パーティー会場に紛れ込む。客はその彼女らに接触し身に着けた宝石を間近で品定めしたあとに、ある方法でオークションが始まるのだ。
つまり、宝石類の盗品売買会場なのである。
それを横からすべて頂戴しようというのが今回のルパンの計画だ。
白いスーツに蝶ネクタイ。そして変装用のマスクを被ったルパンが運転席のドアをあけた。
「じゃあ、後から連絡するからよ。退路の確保ヨロシクな」
そう車内に声をかけると意気揚々と遠くに見えるロッジへと向かって歩いていく。
「おい、ここでいいのかよ」
泥棒、小汚い車、とくればロッジ前の高級車駐車スペースに近づくことはできないとはいえ。
かなり離れた場所だというのにルパンはこの雪の中歩いていくつもりなのか。
そう思っての次元の言葉だったが、後部座席からヌッと突き出された斬鉄剣が指し示す方向を見て、すぐさまチッと舌打ちした。
通り過ぎていった真っ赤なスポーツカーに乗っていたのは嫌な程見覚えのある女だったのだ。
出来れば仕事の前に、いや仕事中にも仕事後にも・・・とにかくいつでも会いたくない女が乗ったスポーツカーはルパンの横に止まった。
ニヤケタ笑いを浮かべた男は当たり前のようにそれに乗り込む。
乗り込む寸前のチラリとこちらに寄越した視線で、初めからこの計画に不二子が絡んでいたことを次元も五右エ門も悟った。
「結局、ただ働きかよ!」
遠ざかっていくエンジン音を聞きながら、次元は忌々しそうにそう吐き捨てて助手席の背に乱暴に凭れかかった。その勢いでギシッと車が軋む。
ルパンにしてみれば不二子と一緒に高級クリスマスパーティーに参加して、盗みのスリルを味わったあと、盗んだ宝石を不二子にすべてくれてやれば、楽しい男女の夜の始まり始まり。
そんなところなのだろう。
「やってられねぇぜ」
愚痴愚痴と呟き煙草を吸いながらも、帰る素振りを見せない次元に五右エ門は後部座席で苦笑した。
なんだかんだ言って次元はルパンに甘いのだ。それに万が一ということもある状況でルパンを置き捨てていくような男ではない。次元は優しく義理堅い男なのである。
五右エ門はそう思っていたが、実は次元的には別の理由もあった。
前の仕事を終えたとき修行に出ると言った五右エ門を、今回の仕事があるからと引き止めたのはルパンなのだ。ある意味借りがある。
クリスマスを恋人と蕩けるように甘く過ごしたいなどと青臭いことは考えていないが、クリスマスにひとりきりなのは、周りが賑やかで愉しげであればあるほど寂しいものがある。
どんな理由にせよ、今此処に五右エ門がいて一緒にいられるというのはやはり嬉しいものだ。

カチリと鳴った音に次元がふと振り向くと、後座席の五右エ門が携帯コンロに小さいやかんをかける所だった。青い小さい炎がぼんやりと車内を照らす。
「コーヒでもいれるのか?」
「いや、飯だ」
「飯?」
五右エ門は袖口に手を突っ込みゴソゴソとしたあと、カップ麺を取り出した。
右と左からそれぞれひとつずつ。
「おぬしも喰うだろう?蕎麦と饂飩、どちらがいい?」
お前、そんな所になに入れてんだ。つうか、ずっとそこにカップ麺が入ってたのか?
驚きのあまり突っ込むタイミングを逃し、あんぐりと口をあける次元に向かって五右エ門はもう一度問うた。
「どっちがいいのだ?それともいらぬのか?」
「・・・いや、いる」
相手は五右エ門だ。なんでもありなのだ、今更驚いてどうする。
そう自分に言い聞かせながら、次元はようやく答えた。
「こってりした奴がいいんだけどよ。ラーメンはないのか?」
「ない。拙者はラーメンは好かぬからな」
「じゃあ、蕎麦でいいや」
差し出されたカップ麺を受け取り蓋をあけると、五右エ門がお湯を注いでくれる。
五右エ門も同じく自分の分にお湯を注いだところで、次元は言った。
「おい、前に来いよ」
「ん?」
「飯くらい並んで喰おうぜ。せっかく一緒にいるんだからよ」
ふたりしかいない車内で、助手席と後部座席に座って食べるのはなんか素っ気ないというか面白みがない。それに世間一般的な恋人の部類から大きく外れているとはいえ、一応は想いあった者同士だ。
顔をみて、その存在を傍に感じていたいと思うのは当然のこと。
「・・・そうだな」
五右エ門はそう答えるとカップ麺を手に運転席へと移った。
「今、連絡が入っても拙者は運転できぬぞ」
熱々のカップ麺片手に運転は無理。そのうえこんな雪道は五右エ門には荷が重過ぎる。
「まあ、パーティーは始まったばかりだから大丈夫だろ。それにもし連絡があっても飯喰う間くらい待たせてやればいいさ」
次元は小さく笑いながら、ペリっと蓋をあける。
「まだ3分経ってないぞ」
「俺は少し固めが好きなんだよ」
ズズズと麺を吸い上げ頬張る次元を少し呆れた表情でみつめながら、五右エ門はきちんと三分間待った。

蓋をあけると温かい湯気が立ち上がり、車内は少し温度をあげた。
ルパンは今頃暖かく豪華な部屋で旨い食事と酒を楽しんでいるに違いない。
だが、豪華な食事よりもふたりで食べるカップ麺の方が旨く感じると思うのは、恋する男の錯覚であっても構わないのだ。
饂飩をすする五右エ門を横目で見ながら次元はひっそりと満足気に笑う。
「次元」
突然名前を呼ばれた次元は、ニヤケたのがバレたのかと誤魔化すように蕎麦を一気にすすり上げ、モゴモゴさせながら五右エ門の方へ顔を向けた。
五右エ門は考え込むように目を瞑っており、饂飩を掴んだ箸が止まっている。
「はむだ?」
なんだと問いかけるがモゴモゴとくぐもった言葉は違う発音になった。
「・・・おぬし、この仕事のあとはどうするのだ?」
ゴクンと蕎麦を呑み込んだ次元は首を傾げた。
「特に用事は入ってねぇな。いつも通りどっかのアジトで酒でもかっくらってるんじゃねぇか?」
「正月は?」
「正月?」
「用事は・・・」
「入ってねぇな」
仕事も私用も入っていない。最近連続で仕事を片付けて来たから、ルパンもそろそろ充電期間に入るつもりなのだろう、次の話は今のところない。
それに私用が入ってないのはひとえに五右エ門のせいなのだが、それは言わないでおく。
「拙者はこの仕事が終わったら日本に帰るのだが」
「そうか」
この仕事で取りやめた修行を今度こそ始めるのだろう。もう少しふたりで一緒にいたかったが、五右エ門の修行を止めることは次元には出来ないし、するつもりもない。
「だから久々に日本らしい正月を過ごすつもりなのだが・・・おぬし一緒に来ぬか?」
「・・・え?」
まさかの五右エ門からの誘い。滅多にない出来事に一瞬次元は都合の良い幻聴ではないかと思ったが。よく見てみれば、無表情を決め込んでいる五右エ門の耳が微かに赤い。
「いや、無理にとは言わぬが用事がないのな」
「行くぜ」
五右エ門の言葉を遮って次元はニヤリと笑った。
「もちろんルパンは抜きな。この仕事が終わったら速効で日本に行く。あいつに嗅ぎつかれないようにしろ」
ノリノリの次元を見て五右エ門は一瞬驚いて、すぐに笑って「諾」と答えた。
純和風な正月はアメリカンナイズされた次元の趣味ではなく嫌がるのではないかと思っていたが、嬉しそうな様子に五右エ門も嬉しくなる。
ルパン抜きという言葉から、久々にふたりでまったりと過ごしたいという隠れた気持ちも汲み取ってくれたらしい。
「日本の正月といったらよ」
次元が食べ終わったカップ麺のカラと箸を後部座席に放りつつ五右エ門に流し目を送った。
色と欲のついたその目に五右エ門が疑問に思う暇もなく。
「秘め始め、だよな♪」
ぶぶーと饂飩を噴出した五右エ門を見て、次元は楽しげに声をあげて笑った。

クリスマスだけでなく、正月までふたりで過ごせるなんて。
それも五右エ門からのお誘いだ。浮かれずにいられるか。
サンタもなかなか粋なプレゼントをしてくれる。

怒りか羞恥か顔を真っ赤にした五右エ門に睨みつけられても、次元の笑いは止まらない。
世間一般とは大きく違うとはいえ、それなりに甘い空気が車内を満たしたのだった。
 
 
 
 
 

■HAPPY CHRISTMAS■

 
 
 
■あとがき■

色気もなにもないけど、こんなクリスマスもありかな、と(^^)

ちなみにこれは携帯公式の
『車の中でカップ麺を食べている次元と五右エ門』
待受けを見て書いたものです。

あれはいったいどんな状況なんだ!?
と思ったら、こんな感じの妄想になりましたv 
創作意欲ありがとう、公式、これからもヨロシク!
って感じデス(笑)



 

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