■たまには甘さを求めても許されるはずだ■
 
 

驚きで言葉を失った五右エ門に次元は「かてぇなぁ」と文句を言った。
「かてぇ、かてぇ」と呟きながらズリズリと動く頭は今は帽子を被っていない。
隠れずに晒されている目に愉しげな色が浮かんでいるのが見える。
硬いのは当たり前だ。
男の自分に何を求めているのだ。
というより、なんで拙者がこんなことをされねばならん。
頭の中でグルグルと回る苦情の言葉が口から出る前に、次元の動きが止まった。
そして「ふー」という気持ち良さそうな溜息を吐いた。
筋肉に覆われた硬い足だ。寝心地がいいはずはない。
それなのに次元は満足気な表情を浮かべて目を閉じた。
この位置に決めたらしい。
足を引いて落としてやろうかとも思ったが、次元の安らいだ顔を見て気が削がれる。
「まったく」
五右エ門は呆れた声で呟くと、膝の上にある次元の頭を軽くはたいた。

 
 
■お題【膝】■

 

 
 
 

   
■呆れた男■
 
 

キリキリキリと引きあがっていく眉。
こんなときなのに、怒気を高める五右エ門から目が離せない。
こいつは怒ってもやっぱ美形だよなぁ。
いや感情を昂ぶらせれば昂ぶらせるほど壮絶に色気が増すような気がする。
女に見えるわけでもないし、女っぽいわけでもないが、美人という言葉がピッタリと合う。
MAXまで引きあがった眉は、しばらくすると少しつづ元の位置まで戻ってきた。
はぁぁと大きな溜息を吐くと、五右エ門は無言で立ち去ってしまった。
あんなに怒ってたのに。
いつ斬鉄剣を抜いてもおかしくない状況だったのに。
いったいどうしたんだ?
はぁぁと小さな溜息が聞こえた方に顔を向けると、ハラハラと俺たちのやりとりを見守っていたルパンが呆れた顔をしていた。
「おまえさぁ」
「なんだよ」
「一回、五右エ門をみてるときの自分の顔を鏡で見てみろよ」
何を言いたいのかわからない。
訝しげに眉をひそめて見せると、ルパンはもう一度溜息をついた。
「五右エ門の怒りも殺がれる、その色ボケした顔を、だよ!」
ま、おかげで今回は血を見ずに済んだんだけどな、という呟きを聞きながら、いったいどんな顔をしてたんだ俺?と顔をツルリとひと撫でしてみたが、さっぱりわからなかった。

 
 
■お題【眉】■
  

 
 
 

   
■微かな違いにも気がつかぬはずはない■
 
 

呼び鈴を鳴らすとドアがあいて、黒い男が出てきた。
「久しぶりだな」
咥えた煙草を指で挟んで、次元は口角をあげてそう言った。
「五右エ門」
呼ぶ声は低くて甘い。
いつもの黒いスーツに黒い帽子。
嗅ぎなれた煙草とかすかな硝煙の匂い。
次元は佇む五右エ門にゆっくりとした足取りで近づくと、その肩を抱こうと腕を回した。
その瞬間。
無言で次元を見つめていた五右エ門がスルリと腕をかいくぐって、その胸元に鼻先を寄せた。
くん。
まるで動物だ。
次元の眼下で何度か五右エ門が鼻を鳴らす。
「おい?」
いったいなんなんだ、と驚いて声をかけると五右エ門が屈めた腰を伸ばして真正面から次元を見つめた。
「どういうつもりだ?」
「なにがだよ?」
わけがわからないという表情を浮かべた次元に冷ややかな視線を送り、もう一度聞いた。
「だから、どういうつもりだと聞いている。・・・・ルパン」
少しの沈黙のあと。
「なんでわかっちゃった?」
声色がガラリと変わり聞きなれたもうひとりの声になった。
そして、同時にマスクが剥がされ下から現れたのは見慣れたモンキー面。
「カンと・・・匂いだ」
そういい捨てると五右エ門はルパンの横をスルリと抜けてアジトの中に消えた。
「匂い?」
風呂でじっくり体を洗って自分の匂いを最小限まで消したあと、次元の服着て次元の煙草を吸って次元のマグナムを撃って硝煙の匂いをつけて出迎えたというのに、匂い?
次元とふたりきりのときに五右エ門がどんな態度でどんな表情を浮かべるのか。
前々から興味があって次元に変装してみたのだが、失敗だったということか。
「・・・・・・ま、いつものごとく人間離れしてるってことか」
小さくため息を吐きながら、ルパンは残念そうに肩を竦めた。

 
 
■お題【鼻】■

動物的だということで♪
というか、鼻を突っ込んでフンフンしている五右エ門を書きたかっただけです(^^)
   

 
 
 

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