「おぬし、煙草の本数が増えたのではないか?」
ぷかぷかとハイペースで煙草をふかしていた次元に五右エ門が言った。
元々ヘビースモーカーではあったが、最近は特にひどい。
次元自身、それを自覚していたしその原因にも覚えがあった。
「拙者も少々は嗜む故、やめろとは言わぬが何事も過ぎると毒だぞ?」
せっかくの助言だったが、次元はチラリと一瞬五右エ門をみたものの、すぐに視線を前へ戻し無視を決め込んだ。
放っておけと態度で示す。
予想していた反応だったのだろう、五右エ門は怒りはしなかった。
「おぬしの肺は真っ黒であろうな。・・・仕事中に呼吸困難などになってくれるなよ。足でまといだからな」
侍の精一杯の厭味に次元がふと笑った。
ムッとするかもとは思っていたがまさか笑われるとは考えていなかった五右エ門は少し驚いた。
「腹も黒いぜ」
「なに?」
「肺だけじゃねぇ。腹も真っ黒だ。俺は意外に腹黒いんだぜ?」
今度はちゃんと五右エ門の方を向いてニヤリと笑ってみせる。
「外見だけがと思っていたが中身も真っ黒なのか」
「ああ」
「救いようがないな」
「まあな」
呆れたのか、五右エ門は小さく溜息をついて、次元に背を向けた。
そうさ、俺の中はもう真っ黒すぎて自分ではどうにも出来ない。
お前を奪いたくて、自分のものにしたくて仕方がない。
そんなことばかり考えている俺はもう末期なんだろう。
愛しい想いも、焦がれる気持ちも、過ぎればドロドロな欲望の塊になる。
ホント、何事も過ぎれば毒になるとはよく言ったものだぜ。
遠ざかる背をみつめながら、次元は自嘲気な笑いを浮かべ心の中でそう呟いた。
|