■台風は侍をとめられるか■
 
 
 
 

雨も降ってないし、風も吹いていない。見る限り波も高くなく海は穏やかにみえる。
「おい、五右エ門。やっぱりフェーリーは欠航だってさ」
乗船券売り場から戻ってきた次元がそう言いながら車に乗込んできた。
五右エ門は次元の顔を見た後、窓から外を眺めた。
「まだ天気はいいぞ?海もそんなに荒れておらぬ」
「これから来る台風に備えたんだろ」
今回の台風は大型で強いとニュースがひっきりなく流れている。
もう半日もすれば到達するらしい。
外海は既に荒れているのか、フェリーの欠航は決定されていた。
だが。
「・・・拙者は行く」
侍は諦め切れないらしい。
まあ、それはそうだろう。現在の天気は晴天に近い。台風の接近を感じられる要素はまだなにもないのだ。
「無理だって。台風来てんだぞ?」
「温泉を楽しみにしてたのだ。今さら諦められるか」
以前から予定していた小旅行。
温泉好きの五右エ門はかなり楽しみにしていたのだ。
それは理解できるが、今の五右エ門はただ単に我侭を言っているだけにしかみえない。
「フェリーが出ないのにどうやっていくんだ。対岸に見えてるとはいえ海を渡らねぇといけねんだ」
だから諦めろ、と次元は言おうとしたが、先に五右エ門が言った。
「陸路があるだろう」
「陸路ぉ??」
「そうだ、高速道路を使っていけばよい」
確かにフェリーを使わずとも行ける場所ではあるのだが。
「なに言ってんだ。船で行けばここから2時間以内には宿に着くが、陸路で行くとなるとグルリと大回りしなくっちゃいけねぇんだぞ。何時間かかると思ってんだ。5時間はゆうに越えるぞ?」
「だが、いけぬ距離ではない」
五右エ門は譲らない。
行ける方法があるなら絶対行きたいのだ、なんせ久々の温泉だ。
だが、次元はすでに行く気は失せている。
なんせ台風だ。行くのも大変なのに、行っても無駄になる可能性ははるかに高い。
「明日にはアジトに戻らねぇといけねんだ。明日は台風直撃だぞ?そんな中戻ってこれるかよ。行きたいなら一人で行けっ!」
突き放す次元に動じずに五右エ門が答える。
「拙者は自動車は運転せぬ」
「はぁ?」
「それに『なび』とやらの使いかたもわからぬ」
「なら諦めろよ!」
ファリーは出ない、だが自分では車は運転しない、それならば諦めるのが筋というものである。
わざわざ嵐の中、運転手してやるほど次元はお人よしではない。
五右エ門がムッと口をつぐみ、視線を下に落とした。
少し可哀想な気がするが仕方がない。次元は五右エ門をあやそうと口調を優しく変えた。
「明日にはルパンが帰ってくるんだ。今回は残念だが諦めて・・・」
「・・・拙者は」
ぽつりと侍が呟く。
「ん?」
「おぬしと一緒に行くのを楽しみにしてたのでござる!」
キッと顔をあげ、次元を真正面から見据える。
我侭をいう子供のようなものだが、その表情とその台詞は恋人としての心を強く刺激した。
温泉をでなく、自分と行くのを楽しみにしていた、と言われて応えないわけにはいかないだろう、男として。
クッ、と次元は悔しそうに顔を歪め、そして諦めて怒鳴った。
「・・・・・・わかったよ!!仕方ねぇ。お前の我侭は今に始まったことじゃねぇしよ!」
「拙者は我侭ではござらん」
嬉しそうに表情を緩めた侍は、それでも可愛げのないことを口にする。
「我侭だよ!くっそー惚れた弱みにつけこみやがってよぉ!!」
なんでこんな奴に惚れたのか。
でも、こんなところも可愛いとか思ってしまう自分が一番どうしようもない。
そう思いながら、次元は温泉地に向けて車を発車させたのだった。


走行する車の助手席では五右エ門が満面の笑みを浮かべていた。
 
 
 
 
 

■TAIFU VS SAMURAI■
   

    
 
 
   
 ■あとがき■
止められませんでした(笑)
自然現象でも止められないんですから次元に止められるハズもなく。
我侭最強サムライです(^^)

 
 

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