■月蝕■
 
 
 
 

 
キシリ、と床を踏む音がした。
慣れた気配に、五右エ門は振り向きもせずそのまま杯を唇に当てた。
「やってるな」
隣に黒い男がドカリと座り込む。
「どうだ?」
「半分くらい隠れたところだ」
五右エ門の視線の先に顔を向けた次元の目に半月が映った。
見た目は普通の半月だが、よく目を凝らしてみると、月はきちんと円を描いている。
影に隠れた残りの部分はぼんやりとではあるが存在を主張している。
「面白いか?」
「ああ。おぬしも鑑賞するために来たのではないのか?」
「まあな」
次元は五右エ門の手から杯をとると、ぐいと突き出した。
「洋酒ではないぞ?」
「たまには日本酒もいいさ」
トクトクと小さい音をたて、徳利から透明な液体が注がれる。
くいと飲み干すと、喉に小さく焼けるような刺激が広がり、胃の中がカッと火照った。
「うまい」
「あたりまえだ」
この日のために準備しておいた酒だ。もちろん上等なものを用意している。
「アレは置いてないのかよ」
杯を返し、酒を注ぎながら次元が周囲を見渡して尋ねた。
「なんのことだ?」
「ホラ、ピラミッド型に積んだ団子とか、ススキとかだよ」
「・・・おぬし」
冷やりとした気配が五右エ門から放出される。
「だって月見だろ?」
「それは中秋の名月だ。今日は月蝕であろうがっ」
「同じようなもんじゃないか」
不穏な気配に圧されることなく、ケロリと答える次元をみて、五右エ門は大きく溜息をついた。
「・・・おぬし、それでも日本人か」
「さあな。でも、ま、ここに来るためのパスポートには『日本』って書いてあったぜ?」
ふたたび五右エ門から奪った杯で酒を飲む次元から、杯を取り上げる。
「偽造であろうが。エセ日本人にこの酒は勿体無いでござる」
「なんだよ、ケチだな」
次元はブツブツ言いながらゴロリと寝転んだ。
半分だった月はいつの間にか更に欠け、三日月のようになっている。
ちょっと見ただけではただの月だが、こうやって鑑賞してると欠けていくのが目に見えて確かに面白い。
「影に犯される白い月、か」
次元は月をみながら、ニヤと笑って呟いた。
聞こえたであろう五右エ門は、ぴくりとしたが完全に無視を決め込む。
反応したら次元が嬉々として、何を言い出すか何をはじめるかわからないからだ。
だが、予想に反して、反応せずとも次元は行動に移った。
ぽふっ。
重みが加わった太腿に視線を下ろして、五右衛門は眉間に皺を寄せる。
「・・・なにをやっている」
「膝枕」
ズリズリと近づいてきていた次元の頭は、今は胡坐をかく五右衛門の太腿に乗せられている。
「それはみればわかる。男の堅い膝枕の何が楽しいのだ」
「男の膝枕は楽しくねぇけどよ、おまえの膝枕なら楽しいぜ?」
膝のあたりをサワサワと撫でてながら次元は答えた。
チラリと見上げた視線は意味ありげで、口元には笑みが浮いている。
五右エ門がぐっと息を呑んだ。
闇に侵されていく月のように、次元の発する秋波に呑みこまれそうになるのを自覚する。
だが、そう簡単に呑みこまれるつもりも支配されるつもりもない。
「膝くらいは貸してやる・・・・悪さをせんならなっ」
袴をたくしあげはじめた悪戯な手をバチンと叩いて、五右エ門は手にした酒をぐいっと飲み干した。
身体が火照るのも顔が熱く感じるのも、すべて酒のせい。
こんな不埒な男のせいなどでは決してない。
そう自分に言い聞かせつつ、五右エ門は視線を月蝕に向け酒を呑み続ける。
そんな五右エ門の様子を見て次元はクスリと喉の奥で笑った。
とりあえず今は月蝕と膝の感触を楽しんで。
大人の愉しみは月が大きく傾いてからの方がよさそうだ。
そう思いながら、次元も夜空で消えていく月に視線を移したのだった。
 
 
 
 
 

■GESSHOKU■
   

    
 
 
   
 ■あとがき■
8月27日に6年ぶりという天体ショー『月蝕』を見ました。
あんなにしっかり見たのは初めてかも。
すごく感動というか、面白かったですv

で、それをネタにしてジゲゴエ妄想。
淡々とした日常的なうえ、
ただのちょっと甘々風味になりました。(笑)



いやぁ、膝枕って萌えませんかv


 
 

戻る


 

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル