■たなばた■
 
 
 
 

 
カチャリとノブが回る音。扉が開かれると同時に漂う甘い香り。
「はぁい♪」
現れたのは勿論、不二子である。
すこぶる上機嫌そうな声色に、五右エ門は瞑っていた目を開いた。
その目がちょっと驚きに見開かれる。
そんな五右エ門に気がついたのか、不二子は袖口を握りポーズをとると
「どう?」
と問いかけた。
「似合っているが・・・どうしたのだ?」
薄紫の生地に紫のグラデーション。全体的に大きな花弁の絵が描かれている。
華やかだが派手過ぎない浴衣を不二子は着ていたのだ。
「今日は七夕でしょう?だから雰囲気を出そうと思って」
にっこり笑う不二子は見事な日本美人ぶりである。
「ルパンと次元は買い物?」
リビングをぐるりと見回して不二子は言った。
「そうだ」
『なぜ知っているのだ?』と問おうと思って五右エ門はやめた。
『仕事』ではなく『買い物』と言ったことや七夕だからと浴衣を着て上機嫌にやって来た様子をみると、大方『一緒に七夕しましょう』とか誘いをかけて、浮かれたルパンにあれやこれやを用意させているのだろう。
次元も一緒に出かけているが、きっとそんなことは知らないはず。
知ってたらルパンの買出しとやらに付き合うはずはない。
不二子絡みだと知ったときに次元の怒りを予想して、五右エ門は小さく苦笑した。
「なんでいきなり七夕なのだ?」
「だってせっかく日本にいるのに。それにね」
言葉と共にテーブルの上に酒瓶が置かれる。
白い和紙に包まれたそれはどこから見ても日本酒。
「大吟醸ではないか」
「そう。知り合いの蔵元から頂いたの。せっかくだからたまには短冊飾って満天の星を見ながらお酒を飲むのもいいかしら、と思って」
嬉しそうな五右エ門をみて、不二子も笑う。
表情を綻ばせることの少ない侍だが、意外と単純なことに喜んだりする。
ルパンと違って日頃無表情な分、微笑ましいというかなんだか可愛らしくみえる。
「そういえば五右エ門、貴方、浴衣もってないの?」
「ん?持っているが?」
テーブルの上の大吟醸から目を離し、横に立つ不二子を見上げる。
「じゃあ、着てよ。私ひとりじゃ寂しいじゃない?どうせルパンも次元も持ってないでしょうし」
なんせ西洋風な男達である。ふたりとも浴衣なんか持っていないだろう。
日頃から和装の五右エ門は浴衣の一枚や二枚や五枚や十枚は持っていることはいるのだが。
「ここにはないでござる」
嬉々として身を乗り出す不二子に苦笑しつつ五右エ門は答えた。
「え?」
「持ってはいるが、このアジトには置いていない」
「そうなの?残念ね。ひとりで浴衣はちょっと寂しいわ」
言葉通りに少しがっかりした様子をみせた不二子だったが、すぐに何かを思いついたような表情を浮かべた。
「なら、五右エ門。袴を脱いでよ」
「・・・は?」
まさに『鳩が豆鉄砲をくらった』、そんな表現がぴったりの表情を五右エ門は浮かべた。
つまり、目をまん丸にして口をぽかんとあけたのである。
その顔を楽しげに見ながら「下は着流しなんでしょう?」と不二子が問う。
その言葉で五右エ門は不二子が言った意味をようやく理解した。
ああ、びっくりした。
そう思いながら「そうだが」と律儀に答える。
「この際、着物でもいいわ。着流しなら浴衣と並んでもそれなりに似合うでしょ?」
嬉々とした不二子を見て、五右エ門は苦笑した。
まるで不二子の添え物、引き立て役のようないいようである。
だがきっと深い意味はない。
そんなところが彼女の憎めないところなんだろう。
そう考えながらも「諾」と答えようとしたとき。
「よく考えるとルパンも次元も毛深いから浴衣はちょっと見苦しいかもね。でも、その点五右エ門なら問題ないし、いい感じよ、きっと♪」
不二子はふふふふ、と笑いながら言った。

五右エ門の体がピキリと固まる。
ルパンと次元は毛深いから見苦しい。
五右エ門なら問題ない。
つまり、五右エ門の体毛が薄い、という意味だ。
女性にとってムダ毛は敵。ないにこしたことはない。だが男の場合、ムダ毛は意外と必需品なのだ。
体毛が薄いことを気にする五右エ門に、不二子の言葉は深く突き刺さった。
「・・・断る」
「え?」
いきなり硬化した五右エ門の声色と態度に不二子は驚く。
ふい、と顔を向けた五右エ門はもう不二子を見ようともしていない。
なにか侍の気に障ることを言ったらしいことはわかるが、それを気にする不二子ではなかった。
「なによ、いいじゃない。脱ぎなさいよ」
「嫌だ」
「なに怒ってるのよ、急に」
「・・・怒ってなどおらん」
「じゃあ、脱いでよ。袴くらいいいでしょ?」
「嫌だ」
頑なな侍に業を煮やした不二子は「ならいいわよ!」と言い放った。
語気の強さが気になったが、五右エ門はだんまりを決め込んだ。
・・・はずだったのだが。
「なっ、なにをする!」
「貴方が脱ぐのが嫌なら私が脱がせてあげるわ」
「や、やめぬかっ!」
「嫌よ!!」
なんと不二子が五右エ門に圧し掛かり、腰紐を解き始めたのだ。
五右エ門は逃げようとするが上からどっかりと乗られていては逃げ出せない。
跳ね飛ばすことは簡単だが、相手は不二子とはいえ女は女。
命を狙ってくる、というのなら容赦しないところだが、今狙われてるのはただの袴。
命の危険がない状況で、女に暴力はふるえない。
そんな五右エ門のスタンスを熟知している不二子は遠慮なく、五右エ門の袴を引っぺがそうとする。
「やめろ、はしたないぞ、不二子!!」
「あら、五右エ門。私のことはしたなくない女だと思ってたの?」
勝ち誇ったように冷笑されて、五右エ門はぐっと言葉に詰まった。
その様子が不二子の何がに触れたのか。
というか、自分で『はしたない女』というのは良いが、それを肯定されるとそれはそれで少し腹立つのだろう。
不二子の攻撃が激しさを増す。
「諦めなさいな、五右エ門。私みたいな美女に脱がせて貰って何が不満なの?」
「そういう問題ではないっ」
「下は着流しなんでしょ?何を恥ずかしがってるの、男でしょ!」
確かに、下は着流しである。袴を脱いでもふんどし丸出しにはならない。
だが相手がどんな美女だろうが、袴を無理やり脱がされるのは男として問題ではないのだろうか。
それも相手は不二子なのだ。
「や、やめっ」
「諦めるのよ、五右エ門!」
腰紐はとうに解かれ、袴をぐいぐいと引き下げられるのを、五右エ門は必死に両手で押さえて防御する。
そんな攻防の中。

「たっだいま〜〜♪」
ノブの回す音とともにルパンの能天気な声がリビングに響いた。
と同時に。
バサバサと物が落ちる音。
五右エ門が恐る恐る顔をあげると、買い物袋を足元に落としたびっくり眼のルパン。
その後ろには竹を担いだ次元が口をポカンとあけ煙草を足元に落としていた。
「・・・なにしてる・・・の?」
ルパンのか細い問いかけに、今の自分たちの姿を再確認する侍と美女。
ソファーに押し倒された男は袴をずり下げていて。
その上にいる女は激しく動いたせいか、せっかくの浴衣も着崩れている。
どうみても。
男と女の・・・情事?(それもフジゴエ)

シーーーンとリビングは静まり返り。
その数秒後、ルパンのわきわめく声と次元が撃鉄をあげる音が響いた。





テーブルの上には大吟醸をはじめとして様々な酒が並び、豪華な、つまみとはいえないような料理が乗っている。
ようやく誤解がとけて庭で始まった七夕祭り。
「女に押し倒されるなよ」
「・・・面目ない」
満点の星空のもと、呆れたような次元の言葉に五右エ門は赤面して頭をがっくりと落としたのだった。
 
 
 
 
 

■TANABATA■
   


 
 
   
 ■あとがき■
去年の七夕時期にぷち連載したお話の再録。

ルパンで七夕ネタを考えたらこんな感じになりました。
・・・・・・フジゴエ?(え?)
今回のテーマは
『不二子にぐいぐいと袴を脱がされようとする五右エ門』
デシタv
 
 

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