■こどものひ■
 
 
 
 

 
アジトへと向かう道すがら、信号で止まると窓が叩かれた。
一瞬身構えたルパンだったが、覗き込んでいるのは若い女性。
「なんですか、お嬢さん」
ルパンはウキウキとしながら窓をあけた。
「交通安全キャンペーンです。これをどうぞ」
渡されたのは小さな鯉のぼり。
割り箸の先に折り紙で折った鯉のぼりが糊でくっつけられている。
「園児達が作ったんです。お子様にどうぞ」
にっこり笑って女性は車から離れ、後ろの車へと移っていく。
たしかに沿道では子供たちが同じように道行く人に同じものを配っている。
たぶん彼女は保母さんか何かなのだろう。
「お子さんって・・・俺は独身貴族ですよ」
子持ちに見られたことに少々ショックを受けながら、ルパンは小さい声で呟いた。



アジトへ向かう道すがら、煙草を買おうと次元はバイクを路肩にとめた。
その目の前にさっと差し出されたもの。
割り箸の先に赤い紙が貼り付けられている。
どうみてもこれは。
「鯉のぼりをどうぞ。今日は交通安全キャンペーンなのです」
次元が顔を向けると、人の良さそうな恰幅のいい老人が立っていた。
「いや、俺は」
断ろうと手を翳したとき、老人の足元に小さな塊がしがみつくのがみえた。
視線をおろすと小さい男の子がこっちを見上げている。
「えんちょーせんせー。それぼくがつくったこいのぼりー」
指差した先には老人が差し出すちいさい鯉のぼり。
「さ、どうぞ」
いたいけな子供が作った作品、それもそれを作った子供の目の前で受け取り拒否することは、いくら次元とて出来ない。
「ああ、どうも。坊主、サンキューな」
くしゃりと頭を撫でてやると子供はとても嬉しそうな顔をした。



アジトへ向かう道すがら、五右エ門の向かう先にわらわらと子供が動きまわっていた。
何のキャンペーンなのか、なにか小さいものを道行く人に配っている。
子供にぶつからぬようにと大きく迂回した五右エ門の後をパタパタと軽い足音が響いた。
なにげなく振り返るのと同時に足元に小さい衝撃。
驚いて視線をおろすと、可愛らしい幼女が見上げていた。
「はい、これ。こーつーるーるまもってね」
差し出された彼女の手には棒についた小さい鯉のぼりが握られている。
いかにも手作り、そしてヘタだが、なかなか味わいがあるものだ。
交通ルールを守る。
日常では守っているが、いったん仕事につくと破りまくりな五右エ門たちである。
だが、小さい子供が差し出すそれを拒否する理由はなにもない。
「忝い」
そう言って受け取ると、幼女はキョトンとした表情を浮かべた。
それをみて五右エ門は苦笑しながら「ありがとう」と言い直すと、嬉しそうににっこりと笑って「どういたまして!」と答えた。



手にした鯉のぼりを眺めながら、ルパンはさてどうしたものかと考えた。
明日が子供の日だからこれを配っていたのだろう。
子供にやってくれと言われたが残念ながら子はない。
捨てるには忍びないが自分で持っているのにも抵抗がある。
「子供ねぇ」
そう呟きながらルパンはウーンと唸った。
「あ、そうだ!」
しばらく後にルパンは閃いた。
「よし、五右エ門にやろう!」
このアジトにいるのはルパン、次元、五右エ門の三人。
誰かにやるとなると次元と五右エ門しかいない。
そして五右エ門はルパンにとって仲間だが、放っておけない弟みたいな気持ちを湧き上がらせる男なのだ。
単純で騙されやすく純粋で真っ直ぐだ。
腕は立つのに、そういう性質はまるで子供のようである。
「ま、あいつは子供みたいなとこもあるからな」
そう言うとルパンはニヒヒと笑って、鯉のぼりを飾るべく五右エ門の部屋へと向かった。



バイクを運転しながら、次元はさてどうしたものかと考えた。
懐にはさっき貰った鯉のぼり。
こんなのを貰っても困るが、かといって捨てるのには抵抗がある。
「どうしたもんかなぁ」
胸元で折り紙の鯉のぼりがカサカサと鳴っている。
「そうか・・・明日は子供の日だから鯉のぼりなのか」
だが、アジトには大人の男三人。
こんなものは似合わないし、飾った日には大笑いされるだろう。
特にルパン。
『なんだ、お前、こんなもの飾るなんてどーしちゃったの!』とゲラゲラ笑う姿が思い浮かぶ。
IQ200で頭がいいはずなのだが、日頃はまるでガキのような反応をすることがままある。
「ガキ・・・か」
子供っぽい、とは違う。悪ガキ、ガキ大将って感じだ。
「よし」
ニヤリと笑うと次元はこの鯉のぼりをルパンにやることに決めた。
直接渡すのはなんだから、アジトに帰ったらルパンの部屋に忍び込んでこっそり置いておくのだ。



手にした鯉のぼりを眺めながら、五右エ門はさてどうしたものかと考えた。
子供がくれたものを捨てるつもりは更々ないが、処置に困ることは確かだ。
嬉しそうに笑った子供の笑顔が焼きついている。
あの小さな手できっと一生懸命作ったんだろう。
そう考えると、思わず顔が綻んでくる。
「仕方がない。部屋に飾っておくか」
苦笑しながら五右エ門は鯉のぼりを懐にしまった。
ほかほかとする気持ちはあの小さな子供がもたらしてくれたもの。
ならばその感謝の意を込めて自分で持っておくのもいいだろう。
そう思ったのだが。
次元大介。
ちょっと世話焼きで、義理堅くクールなガンマン。
だがその反面、妙に子供っぽい反応をするときがある。
そのギャップが面白くって、たまに気持ちが今のようにほかほかすることがある。
「まあ、子供の日だしな」
稀ではあるが、ガキっぽいと可愛いと思うことがある、自分より少し年上の男。
こっそり部屋に置いておいてやろう、きっと妙な顔をするだろうが。
そう思いながら、五右エ門はクスクス笑ってアジトへの道を歩き続けた。



翌朝。
朝日の差す部屋の中、相棒の部屋に置いてきたはずの鯉のぼりを発見した。
それはいつの間にか部屋の片隅に飾られていた。
こっそり部屋に置いたことがばれて、夜中に返しに来たということだろうか。
ということは、自分が置いたことがばれているということだろう。
どういう意味で置いたのかまで察して戻してきたとするならば。
子供扱いしたことを怒っているはずだ。
叩き起してつき返すのではなく、夜中に黙って置いていくところに深い怒りを感じる。
「ま、まずい」
そう呟きながら、じっとりと吹き出た汗を拭いつつ、さてどう言い訳したものかと考え込む。


子供の日の朝。
それそれの部屋で同じく悩む、そんな三人の姿があった。
 
 
 
 
 

■KODOMO NO HI■
   

    
 
 
   
 ■あとがき■
5月5日は子供の日。
ということで、『ルパン三世』で子供の日ネタでした。

五右エ門は直情的で子供っぽいときがままある。
ルパンは我侭で悪ガキって感じ。
次元も意外と子供っぽいな〜vと思わせるときがある。

と私は思うので、それをネタにしてみました。
みんな、それそれが兄さん感情なんですよ、きっと。
でも、五十歩百歩の似たもの同志なのです(笑)
みんな、ワルガキ。


 
 

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