■チラリズム■

 
 
 
 
 

もの凄い風が吹いている。
窓を叩く音が尋常ではない。
力を込めて窓を閉め、吹き飛んだ紙や地図やその他諸々を次元は拾い集めた。
「そういえば五右エ門はどこ行ったんだ?」
次の仕事の計画はたった今、ほぼ決まった。
ルパンの計画に次元のアイデアを加えていい感じに仕上がった。
だが、もうひとりの仲間の姿はない。
いつものことで気にしてなかったが、この山奥のアジト、そしてこの強風の中どこに行ったのか。
「ああ、修行だろ。この先にある岩場が気に入ってたみたいだからよ」
用意していた機器をいじくり回しながらルパンが答える。
「いつものことながらご苦労なこったな」
「ハハ、修行はあいつの生きがいだからな」
窓を叩く強風。
ヒューーという風の抜ける音と、木々のざわめきがアジトの中まで響いてくる。
天気はいい。晴天といっていいくらいだ。
だが、風の強さが尋常じゃない。
「・・・ちょっと出かけてくるわ」
「はぁ?」
既にドアのノブに手をかけた次元の背中を呆れ顔でルパンは眺めた。
「帽子飛ぶぜ?」
「飛ばすかよ」
「・・・おまえも好きだなぁ」
「なんだ、それはよ」
次元が振り向くと、既に顔を下ろしたルパンが手をヒラヒラと振っている。
勝手にしろ、と言わんばかりの態度である。
「じゃ、行ってくる」
バタンと閉じたドアを一瞥するとルパンは苦笑を浮かべて
「・・・助平おやじ」
と言った。


風に吹き飛ばされそうな帽子を片手で押さえながら、山道を歩く。
気を抜くと体まで持っていかれそうな強さだ。
それでも次元はしっかりとした足取りで目的地に辿り着いた。
鬱蒼とした樹木が突然切り取られたようになくなり、広がる石と岩肌。
まるで山水画のような風景である。
ぐるりと見渡して、一番高い岩山を見つける。
思った通り、その天辺に侍が居た。
こちらに背を向け胡坐をかいている。
座禅を組んで無の境地を習得しようとでもしているのだろう。
「おーい、五右エ門」
侍がなにしていようと構わず、次元は名前を呼んだ。
声が風に飛んで行きそうである。
こんな風の強い日に、あんな高いところによくいれるもんだ、と次元は変なところで感心した。
あんなところで立ち上がったら、本当に風に吹き飛ばされそうだ。
「だいたい決まったぞ。お前もそろそろ戻ってこーい」
言葉が風に飛ばされないように、片手を口の横に添えてもう一度叫ぶ。
聞こえたかな?と思いながら次元は帽子をぐいっと押さえ込んだ。
ピクリとも動かなかった五右エ門の体がゆらりと揺れてゆっくりと立ち上がる。
ヒューーーッと大きい音を立てて一段と強い風が吹いたが、その体は全然揺らがない。
「さすがだな」
あんな風を溜め込むような袖や袴を身につけていれば誰よりも風を受けるだろうに、まったくそんな様子はない。
何事もないように立ち上がり、岩上から下を見下ろしてくる。
「わざわざ迎えに来たのか」
「まあな」
次元はニヤリと唇を笑いの形に歪ませた。
風が吹く。
五右エ門の着物がバサリと音を立てて膨らむ。
袖が捲れて白い肘がみえた。
袴が流れてスラリとした足が露になる。
下からみあげている次元にはかなり際どい場所まで見えた。
ひらり、ひらり、とまるで飛ぶように五右エ門が岩山を降りてくる。
強風と降りるという動きによって、着物は捲れ白い肌がチラチラと見え隠れする。
ザッ、と次元の目の前に降り立った五右エ門は、自分を見つめる男をジロリと睨みつけた。
「男の足をみてなにが面白いのだ」
「男の足は面白くねぇが、お前の足ならかなり愉しい」
風が強いからもしかして、とは思っていたがここまで目の保養をさせてもらえるとは。
次元は満足気に目を細めた。
「変態か」
「なに言ってやがる、失礼な奴だな。愛じゃねぇか」
ニヤニヤ笑う次元に背を向け、五右エ門は歩き出す。
本当に男の足をみて何が愉しいのかわからない。
愛どうこうじゃない、少なくとも自分は次元の足なんかみたいなんて思わない。
それに足なんて・・・今更じゃないのか。
「チラリズムってのがいいんだよ」
五右エ門の心を読んだかのように次元が言った。
チラと視線を投げると、帽子の下の目が楽しそうに五右エ門をみていた。
この男はたまにバカみたいになる。ルパン以上じゃないかと思うこともしばしば。
今がそのときだが、そんなときにまともに答えるだけ無駄だ。
「では、今度は着衣のままでヤるか?」
一瞬何を言われたのかわからなかったのか、次元の目がぱちくりと見開かれた。
鳩が豆鉄砲くらった、という言葉がピッタリな顔だ。
「くくく」
してやったりという愉快な気持ちが湧き上がり、喉の奥で五右エ門が笑った。
まさか冗談でも五右エ門がそんなことを言うとは思っていなかった次元は驚きに足を止めていたが、
ビューと背中から吹き抜ける風に押されて体が揺らぎ、その刺激で我に返った。
「・・・まいったな」
次元は苦笑を浮かべると煙草を咥えて、先を行く五右エ門の背を追った。
とりあえず、「男に二言はないだろうな?」と言ってやろう。
そしてそれを「約束」に変えてしまおうと思いながら、次元は五右エ門の肩を組みニヤリと笑いかけたのだった。
 
 
 
 
 

■CHIRARIZUMU■

 
 
 
■あとがき■

モロ見えもいいですが、やっぱチラリズムもそそられますよネv
すごく風が強い日に妄想したジゲゴエ。

五右エ門の足を見てニヤニヤ喜ぶ、
まさに『スケベおやじ』の話でした(笑)



 

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