■男の悩み■
 
 
 
 

 
脱衣所の棚の奥に隠すように置かれていたものを目聡いルパンは見つけてしまった。
「こ、これはっ」
次元だ。
妙な確信がルパンにはあった。
「だからいつも忠告してやってたのに・・・とうとうか」
ふっ、とルパンの瞳に憐れみの色が浮かぶ。
次元はいつも帽子をかぶっている。それこそ、いつでもどこでもどんなときでも。
脱ぐのはベッドで眠るときだけではないだろうか、と思う。
普通は風呂では脱ぐものだが、以前一緒に温泉に入ったときは帽子を被っていた。
これは一種の病気だと最初は呆れ忠告したものだが、今ではもうすっかり慣れた。
慣れとは怖ろしいものである。
慣れなければ忠告は今でも行なわれ、こんなことにならなかったのに。
「あいつ、男性ホルモン多そうだからなぁ」
あの濃い、しっかりと伸びた髭がそれを証明している。
男ならいつか来る試練かもしれない。
だが、こんな棚の奥にこっそりと隠しているところが、情けないというかリアルというか。
「あーあ、気持ちはわからんでもないんだけどねぇ」
ふう、とルパンは溜息をついた。



脱衣所の棚の奥に隠すように置かれていたもの偶然次元は見つけてしまった。
「こ、こいつはっ」
ルパンだ。
妙な確信が次元にはあった。
というか、このアジトには男三人。
自分のではないのだから、ルパンか五右エ門の所有物ということになる。
冷静に客観的にふたりをみて、怪しいのはどう考えてもルパンなのだ。
「あの短髪・・・元々気にしてたんだろうなぁ」
ふっ、と次元の瞳に憐れみの色が浮かぶ。
以前の知り合いの男達がそうだった。彼らは次元の長髪を羨ましがったものだ。
ただのモノグサだと言っても、そうできることが幸せなのだと自覚しろと諭された。
長い方が短い方より、症状が進むと彼らは言った。
そして、その症状が隠しようのないところまで行くと、彼らは男らしくすっぱりと坊主にしたものだった。
「最後まで諦めないが、あいつの信条だからなぁ」
男ならいつか来る試練かもしれない。
だが、こんな棚の奥にこっそりと隠しているところが、情けないというかリアルというか。
「あーあ、気持ちはわからんでもないんだがなぁ」
ふう、と次元は溜息をついた。



少なからずもショックを受けていたルパンだったが、落ち着いてくるとなんだか面白くなってきた。
あの次元がどんな顔してあれを使っているのか。
隠すように置いてあったところをみると、きっと知られたくないのに違いない。
「むふふふふ」
もし、現場を押さえたならば、次元はどんなに慌てふためくだろう。
それを見てみたい。
そう考えてルパンはニヤリと笑った。
実はこのアジトの脱衣所、風呂場には覗き穴がついている。
横にちょうどいい感じの小さい物置部屋があったので、ルパンは密かに穴をあけたのだ。
それは不二子の入浴シーンを覗くためだったりするのだが、こんなときに役立つとは思わなかった。
次元がそれを使用している様子を写真にとって、それを動かぬ証拠として突きつけてやろう。
面白くなりそうだ。
さっそくルパンはそれを実行するために風呂を沸かしに行った。



少なからずもショックを受けていた次元だったが、落ち着いてくるとなんだかおかしくなってきた。
あのルパンがどんな顔してあれを使っているのか。
隠すように置いてあったところをみると、きっと知られたくないのに違いない。
「くくくくっ」
もし、現場を押さえたならば、ルパンはどんなに慌てふためくのだろう。
それを見てみたい。
そう考えて次元はニヤリと笑った。
実はこのアジトの脱衣所、風呂場には覗き穴がついていることを次元は知っていた。
ルパンが横の小さい物置部屋から穴をあけたのだ。
目的は不二子がらみのつまんない理由だろう、と呆れつつも黙認した。
スケベ心を原動力にしたときのルパンに何を言っても無駄だからだ。
だが、こんなときに役立つとは思わなかった。
ルパンがそれを使用している様子を写真にとって、それを動かぬ証拠として突きつけてやろう。
面白くなりそうだ。
さっそく次元はそれを実行するためにカメラを探しに行った。



さて、カメラを覗き穴に取り付けてやろう、と次元は物置のドアをそっと開いた。
電気はつけない。覗き穴から明かりが風呂側に洩れるかもしれないからだ。
だが、既に先客がいた。
真っ暗闇の中で誰かがハッと振り向いたのだ。
「次元!?」
ドアから入った次元の姿は廊下の明かりでしっかり確認できたのだろう。
驚きの色を乗せたルパンの声だ。
「ルパンッ!?」
同じく驚いた次元はそのまま無意識にドアを閉め、物置の中に入った。
「なにやってんだ?」
「お前こそなにしにここに来たんだ?」
廊下や風呂場から入る光のせいで、物置は暗闇でなく薄暗いといった程度だ。
自分のしようとしている行為は相手をひっかけるためのもの。
相手がなぜここにいるのかという疑問よりも、自分の行動に対する気まずさがふたりを沈黙させた。
顔を正視できなくって、ふと視線をさげると、その手の中には見覚えのあるものが。
というか、自分と同じものを持っている。
「次元、お前それ・・・?」
「ルパン、お前こそそれは・・・?」
ほんの僅かな沈黙のあと、ふたりは同じ結論を導き出した。
「え?じゃ、あれは次元のじゃないのか?」
「へ?お前のじゃないってのか!?」
はもった内容に視線を合わせたあと、ふたりは信じられないもうひとつの結論を弾き出した。
「「てーことは、あれは五右エ門のだってことか!?」」
あの、体毛少なくて髭さえも薄っすらとしか生えない、男性ホルモンが少なそうな五右エ門が?
呆然と見詰め合うふたりの耳に、廊下を歩く足音と鼻歌が聞こえてきた。
五右エ門である。
反射的にふたりは気配を消す。
脱衣所のドアが開く音。これから侍はご入浴のようだ。
アレを手に取るかが確認できる。
ふたりはそう考えて脱衣所にあけられた覗き穴を頭をつきあわせて覗いた。
五右エ門はいつになくご機嫌だ。フンフン鼻歌を歌いながら服を脱いでいく。
そして裸になると、おもむろに棚をあけ奥に隠されていたものを取り出した。
「これで拙者も・・・」
ニヤリと微笑みながら、五右エ門はそれを手に風呂場へと入った。
「・・・・・」
「・・・・・」
持ち主は五右エ門だったのだ。
全然疑いもしなかった分、衝撃は大きかった。
長い沈黙のあと、最初に立ち直ったのはルパンだった。
どんなに驚いたとしても事実は事実だ。
全然そんな風に見えないが、意外と前髪の下、生え際がキているのかもしれない。
よく考えてみろ。生え際が後退しきったらチョンマゲを結えば完全に侍になれるぞ。
そう五右エ門には言ってやろう。
チャンスがあれば本当にチョンマゲを結ってやろう。きっとそれはそれで楽しいかもしれない。
一緒に仕事をするのは御免こうむりたいが。
そう思いながら、最終確認だ、とばかりに今度は風呂場の覗き穴を覗きに行く。
ルパンが動いた気配で止まっていた次元の思考も動きだす。
陰でこっそりと努力する姿が健気だ。ここは自分も一緒に努力してやろう。
それで効果がなかったとしても、五右エ門がどんな姿になったとしても、お前はお前だ。気にすんな。
お前に惚れている俺の気持ちはそんな些細なことじゃ変わんねぇ。
そう五右エ門には言ってやろう。
次元はそう決心して、現実の再確認のために風呂場を覗こうとルパンに続く。
そしてふたりは再び頭を突き合せて覗き穴を覗いた。




バタン!
ドタドタドタ。
バタン、バタン!!
「「五右エ門!!なにしてるんだ!!」」
騒がしい物音が響いたあとに、風呂場にルパンと次元の声が響いた。
突然の乱入に、五右エ門が目を丸くしている。
「な?おぬしたち・・・なにを?」
「それを聞いてるのは俺達だ!」
ルパンはずかずかと風呂場に踏み込むと、五右エ門の手の中のものを奪い取った。
「あ?!なにをする!」
「お前こそ、なにしてるんだ!」
次元もずかずかと風呂場に踏み込んで、湯船から洗面器で湯をすくい、ザバザバと五右エ門の体にかけ始めた。
「やめろ、せっかく塗ったのに流れてしまうっ」
「流しちまえ、そんなもん!」
五右エ門の抵抗もなんのその、ルパンと次元はふたりがかりでその体をゴシゴシと洗った。
「これは没収!」
「もう変なこと考えんなっ」
五右エ門の体をしっかりと洗ったあと、ふたりはびしょ濡れのまま、捨て台詞を残し風呂場を去っていった。
ポツンとひとり残された五右エ門は自分の身に起こったことがすぐには理解できず呆然としていたが、暫くしてようやく我に返った。
「良いではないか!!おぬしたちに拙者の気持ちはわからん!!」
悔しそうに怒鳴ったが、すでに手元にはあの「効果抜群」を高らかに謳っているものはない。
「くそーーっ!!」
五右エ門の怒りの声が風呂場に木霊した。



遠くで響く怒声を聞きながら、ルパンは育毛剤をすべて流しに捨てた。
「なーに、考えてるんだろうねぇ」
「わからないでもないけどな」
「男三人で充分むさ苦しいのに、これ以上むさ苦しくなるのは俺はごめんだぜ」
男とはいえ、色白で体毛の薄い五右エ門はそれなりにむさ苦しさを軽減してくれている。
だが彼は常々、ふたりの体毛を男らしいと羨ましがっている感があった。
まあ、一種のコンプレックスなのだろう。だからといって。
「育毛剤を体中に塗るなんてなぁ」
その必死さは可愛いような気がするが、やっぱり滑稽としか思えない。
「とりあえず、どう説得しようかねぇ」
「その前に怒りをとかねぇとな」
ルパンと次元は顔を見合わせて、ふうと溜息を吐きながら苦笑した。
 
 
 
 
 

■OTOKO NO NAYAMI■
   

    
 
 
   
 ■あとがき■
次元の昔の仲間は私の会社がネタ。
薄くなった人は大抵、短髪というか坊主に近くしています。(笑)

公式というかアニメの五右エ門は
女の私が羨ましがるほど体毛が少ない!
お手入れなしでアレなんて良いな〜と思うのですが
男としては絶対コンプレックスですよね。

というころで、
そのコンプレックスを解消しようとする
健気な(?)五右エ門のお話でした♪
 
 

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