■除夜の鐘■
 
 
 

 
大晦日。
一般的に日本の大晦日は掃除だの御節だのと色々と忙しい。
そんな年の瀬に、次元と五右衛門は温泉宿に来ていた。

「なかなか良い宿だな?高いのではないか?」
部屋に通された五右エ門が窓をあけながら次元に問う。
今回の宿泊は次元の誘いで奢りだった。
「仕事を終えたあとで懐はあったかいからな。高かろうがなんだろうが関係ないさ」
洋風を好む次元が珍しく五右衛門をこの温泉宿に誘ったのだ。
山間の有名な温泉街であるが、この宿はそこから少し外れている。
だがかなりの老舗で、少々値は張るが湯の質も景観もよく人気のある宿だ。
窓から見える風景はいかにも『日本』といった風情があって、五右エ門はいたく気に入った。
「さて、温泉に入ろうぜ。ここの自慢は露天風呂らしいぜ」
次元がニッコリと笑って露天風呂に誘う。
珍しく帽子もとって浴衣にも袖を通した姿は新鮮で、つい五右エ門は見入ってしまった。
「おい、五右エ門?」
「あ、あぁ、露天風呂!楽しみでござるな」
ふい、と視線を逸らし手早く浴衣に着替える。
次元に見入ってしまった自分が恥かしくなる五右エ門である。
そんな様子に気がついたのか気がつかなかったのか。
特にからかうでもなく突っ込むでもなく、次元は機嫌よくふたり分のタオルの準備をしていた。
そう、次元は機嫌がいい。
いつも以上に、とてつもなく機嫌がいいのだ。
「よし、準備できたぞ」
「じゃ、行こうぜ。戻ってきたら馳走が用意されてるってさ」
部屋を出て並んで廊下を歩く。
ルパンも不二子もいないふたりっきりの温泉。
もちろん夜も同室でふたりきり。
きっと肌を合わすことになるのだろうということはわかっている。
次元が機嫌がいいのも、それが原因のひとつであるのだろう。
五右エ門だって、次元と肌を合わせたいと思う。
だがそれをはっきりと表に出すことはできない。羞恥心が邪魔をする。
だからいつも仕掛けてくるのは次元。
五右エ門はそれを受けて流される、それがふたりの常だった。
今日はいつ、どんなときに、仕掛けてくるのか。
邪魔者のいないふたりっきりの時間。
いつそういう雰囲気になってもおかしくない。
そう思うと、ドキドキと鼓動が激しくなっていく。
別に期待しているわけではない、シテ欲しいわけでもない。
そう自分に言い訳しながら首をブンブンと横に振っていると
「なにやってんだ?」
訝しげに次元が問うてきた。
「いや、なんでもない!着いたぞ、ここだな」
『男湯』とかかれたノレンを払い、五右エ門はカラリと扉をあけた。


広々とした大浴場で体を洗ってから外に出る。
小さい日本庭園を象った庭にいくつかの露天風呂がある。
その中のひとつに肩まで浸かって、五右エ門は気持ち良さそうに溜息をついた。
冬の冷たい空気に交じる、湯気の暖かさ。
このふたつが交じり合って独特な空気を作る露天風呂は、のぼせることもなくゆっくりと湯を楽しむことが出来る。
岩に体を寄りかからせ手足を伸ばした五右エ門に
「気持ち良さそうだな」
と楽しげな声がかかる。
「ああ、気持ちよい」
閉じていた目をうっすらとあけて横に座る男をみる。
「色っぽい目でみるなよ」
次元が小さく囁きながら、足を絡ませてくる。
「なっ!」
言われた言葉と行動に顔を赤く染めて、五右エ門は岩に寄りかからせた体を起した。
「そんなに警戒するなよ、温泉が楽しめないぜ」
くすくすと次元が笑う。
ここでむきになったら自分の負けのような気がして、五右エ門はまた体の力を抜いた。
今、この露天にいるのはふたりだけだ。
だがいつ誰が来るともわからない。
不埒な真似をしたらそのときは叩きのめしてやる。
そう決心して五右エ門は再び目を閉じる。
何気なさを装って、気はピリリと張り詰めたままの五右エ門をみて次元がまたクスリと笑う。
「なにがおかしい」
「なにもしねぇから安心して温泉を楽しみな」
絡んだ足はそのままだが、その言葉の通り次元はそれ以上仕掛けてこなかった。
その代わり、強い視線を五右エ門は感じた。
湯から出ている顔だけでない。
湯の下の首、胸、腹、下肢、足とじっくりと見られている感覚。
濁り湯でなく、普通の湯だから、体はどこも隠れていない。
まるで視線で犯されているようで落ち着かない。
それどころかイヤらしい視線に体が反応しそうになる。
だが、今さら隠すのも意識しているようで悔しいので、五右エ門は心の中でお経を唱え平常心を保ちつつ、ぐっとその視線に耐えた。


部屋に戻ると豪勢な食事が用意されていた。
「おお、凄いな」
日本料理好きの五右エ門には嬉しい限りである。
小鉢や大皿に盛られた様々な料理に舌鼓をうつ。旨い料理に誘われて酒も進む。
対面に座った次元は五右エ門の嬉しげな様子を、同じく嬉しそうに眺める。
無表情で滅多に感情を表にださない五右エ門は次元とふたりきりだと意外と表情豊かになる。
それは次元が出すちょっかいに反応してのことではあるが、そんな五右エ門をみるのは非常に楽しい。
そして今、五右エ門は表情豊かにジロリと次元を睨みつけてきた。
「なんだよ?」
胡坐をといた次元の足が伸び、指先で五右エ門の膝をつついている。
「なんだよ、ではない!」
睨む視線も気にせず、次元の足は膝を撫でそのまま内側へと流れていく。
胡坐をかいた五右エ門の無防備な股間に滑り込む。
指先がその中心に触れようとしたとき、バチンと大きな音が鳴った。
「いてぇ」
「食事中に何を考えておるのだ!」
「へいへい。食事中じゃなけりゃいいのね」
悪びれもなく笑いながら、次元はあっさりと足を引いた。
ギロリと親の仇みたく睨みつけてくる視線を気にするでもなく、「さあ、飲めよ」と次元は徳利を五右エ門に差し出した。


山のようにあった料理を平らげたころ、仲居が片付けに来た。
呼んだわけでもないのに素晴らしいタイミングである。
ふたり分の布団を敷いた仲居にチップを渡し、次元は酒を持ってくるように頼んだ。
ビールなら冷蔵庫に入っているが、五右エ門が好むのは日本酒だ。
冷酒でもいいので瓶ごと頼むと、仲居は少し驚いた顔をしたがすぐに笑って気持ちよく引き受けてくれた。
なかなか良い銘柄の日本酒を手に入れた五右エ門は喜んだ。
手酌でチビリチビリと酒を飲む。
だが、次元はあまり飲んでいない。
「どうした飲まぬのか?」
「うーん。今日はちょっとな」
胡坐をかいた五右エ門の横に寝そべっていた次元がズリズリと近づいてくる。
「洋酒を頼むか?」
温泉宿、日本料理、日本酒。
すべて五右エ門の好みだ。
西洋かぶれな次元の好みではない。
今日は五右エ門にあわせてくれている次元の心遣いを思って、そう提案してみたのだが
「いや、いい。俺はこれで」
と、次元はポズンと五右エ門の膝に頭を乗せた。
いわゆる『膝枕』である。
突然のことに驚き、そしてこんな甘ったるい体勢に恥かしくなるが、五右エ門は文句を言わず、そのまま膝の上にある頭を軽く撫でてやった。
既に乾いた髪は意外とサラリとした手触りだ。
「くすぐってえ」
笑いならが次元が体を反転させ、五右エ門の体の方に顔を向ける。
「あったかくっていい匂いだぜ」
五右エ門の脇腹に顔をグリグリと擦り付ける。
「こら、こっちがくすぐったいぞ」
次元の頭を片手で抑えて動けなくする。
そしてもう片手で酒をぐいっと飲んだ。
暫くおとなしくしていた次元だが、少しすると悪戯を開始した。
動かない頭はそのままに、自由な手で五右エ門の体を撫でる。
ビクリと小さく反応したことに気をよくしたのか指先で背骨をなぞったり、脇腹を掌で撫で回したあと、臀部に手を伸ばした。
小ぶりな尻を揉もうとした瞬間、ガンッと頭に衝撃。
殴られたわけではない。
体を引いた五右エ門の膝から頭が床に落ちたのだ。
「いってぇ」
「いらぬことばらりするからだっ」
五右エ門は顔を赤くしながらリモコンに手を伸ばし、テレビのスイッチを入れた。
毎年恒例の男女に分けた歌合戦が映しだされる。
「いらぬことじゃなくって、イイコトだろ?」
「ば、馬鹿者っ」
ニヤリと笑いながら体を起しふてぶてしく言う次元に、益々赤面した五右エ門は叱咤しながら視線をテレビに移した。


五右エ門が酒を呑みながらテレビをみている最中も、次元はちょっかいをかけてきた。
あしらわれても、軽くではあるがぶたれてもヘコたれず、その場は引くがすぐに性的接触を図ってくるのだ。
続く刺激に煽られて次第に体が熱くなってきたことを感じる五右エ門だったが、そこまできてハタリとあることに気がついた。
次元は中途半端な刺激を与えてくるだけで、それ以上の行為に及ぼうとしていなかったのだ。
体を撫でたり触ったりしてくるが直接的な場所には触れてこない。
試しに抵抗をやめて次元の好きなようにさせると、それが勘違いでないことがわかる。
だが、繰り返される悪戯に五右エ門の体は欲情し始めてしまった。
ムズムズとしか感覚が体中を這い回っているような気がして、吐く息がつい荒く、熱くなる。
次元がふいに何かに気がついたように時計に目をやった。
「あ、そろそろか」
そう呟くと立ち上がりテレビを消して、窓辺に寄るとほんの少し窓をあけた。
暖かい室内に冷たい外気が隙間風として流れ込んでくる。
「なぜ消すのだ」
歌番組はそろそろ終盤に差し掛かっていて、勝敗が決するという場面だったのだ。
五右エ門が再びテレビをつけようと伸ばした手を次元の手が掴んだ。
「なんだ」
「いいから」
次元はぐいっと引いて五右エ門を立ち上がらせると、そのまま横に敷いてある布団の方へと引っ張った。
なんの前触れもない、突然の行動。
「なっ」
驚く五右エ門に次元はニヤリと笑いかけた。
「もうその気だろ?」
その言葉にカッと顔が熱くなるのがわかる。
くっそうと思うが既に体は火照っている。
抵抗は、もう出来ない。
そのまま引き摺られ、ポスンと布団に転がされた五右エ門の上に、さも当然といわんばかりに次元が圧し掛かってきた。
男の重みと体温を感じて、五右エ門の体は益々熱くなる。
「電気を消せ」
ふい、と視線を外しながらの要求に次元は
「はいよ」
と返事して、ティッシュボックスを電気のスイッチに向けて放り投げた。
物が壁に当たる音と共に電気が消え部屋が暗くなる。
だが、襖の向こうや窓の外から入り込む仄かな光で完全な暗闇にはならない。
すぐにお互いが確認できるくらいに目が慣れるだろうが、それを待たずに次元は行為を開始した。

五右エ門の浴衣緩めながら、薄い唇を自分の唇で塞ぐ。
口内を舐め、舌を絡ませると、五右エ門は積極的に応えてきた。
唇と貪りながら抱き合い、お互いの肌を撫で回す。
腰帯一本で止められている浴衣はあっという間に肌蹴た。
次元は浴衣を脱がすことなく乱れたままにして、褌を解いた。
反射的に抵抗する体を押さえつけながら差し出された舌を噛むと
「んっ」
と鼻にかかった声を漏らし、五右エ門の体から力が抜けた。
唇を放し顔を覗きこむ。
目元を紅く染め、トロンとした目が次元を見返してきた。
本人には自覚はないだろうが、欲情を煽る表情である。
次元は湧き上がる欲望を抑えながら、五右エ門の肌を唇と舌で愛撫する。
耳を齧り、首筋を舐め、鎖骨に軽く歯をたて、乳首を吸い上げた。
「あっ!」
小さい悲鳴のような声があがり、白い体が仰け反る。
突き出されたようになった乳首を次元はしつこく愛す。
歯を立て根元を刺激し、先端を舌で舐め転がす。ぷっくりとたちあがったそれが苺のように赤味を増す。
次元の体に当たる五右エ門の性器はどんどん堅さを増してくる。
手を伸ばし軽く握るとそれは既に半勃ち状態だった。
軽く上下に擦ってやると、ビクビクと震えながら育っていく。
「次・・・元」
五右エ門の手が次元の下肢に伸びる。
同じく性器を握り込もうと、浴衣の中に手を差し込まれる。
が、その部分にたどり着く前に、次元の手によって侵入が止められてしまった。
「ちょっと焦らし過ぎた。もう時間がない」
次元はそう言うと愛撫の手を止めた。
 
 
 
 
 

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■JOYA NO KANE■
   

    
 
 
   
 ■なかがき■
2007年の年始に連載したジゲゴエの再録です。
思ってたよりも長くって、編集が間に合いませんでした。(^^;)
続きは近々UPします。




 
 

 

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