■帰宅■
 
 
 
 

「はぁぁぁ」
深い溜息を吐き出しながらルパンはハンドルに額をコツンと当てた。
大きなヤマが終わって手に入れた数点の宝石。
その中の一点は前々から不二子が欲しがっていたものだったので、アジトにも戻らず、それどころか途中で次元と五右エ門を車から放り出し嬉々としてプレゼントしに行ったのだ。
不二子はとても喜んでくれた。望んだ通り、いい雰囲気にもなった。
これはイケる!!と内心ガッツポーズをとって確信してしまったのがいけなかった。
確信は油断へと変わり、結果はいつも通りのお約束通り。
勧められたワインを迂闊に飲んでしまった。油断大敵。
気がついたときには部屋は真っ暗、勿論不二子もおらず、時計をみたらゆうに2時間は経っていた。
「くっそー、不二子のやつーーー!!」
不二子相手に油断した自分が悪かったとはいえ、悔しさは募る。
どんなに悔やんでも後悔先に立たず。
仕方がないので、酒でもかっくらって不貞寝してやろうとアジトに辿りついたのは深夜を越えていた。
仕事の疲れと不二子に袖にされたショックで疲労感はピークに達している。
「はぁぁぁ」
また、無意識に深い溜息が漏れる。
見上げるとアジトの窓はすべて真っ暗だ。次元も五右エ門もとっくに寝てしまったのだろう。
ヤケ酒にはつきあって貰えそうにないなぁ、とぼんやりと考えながら玄関へと向かう。
玄関まであと数歩というところで、ゾゾゾゾゾと嫌な寒気が全身を貫いた。
覚えのある感覚に袖をまくりあげ腕をみるとプツプツとジンマシンが浮き出てくる。
「な、なんだ!?」
バッと後ろに飛びのいて玄関先をみると、なんとそこにはタコがぶら下がっていた。
凧ではない、海の生物、ルパンの天敵、ジンマシンの元。
『蛸』である。
ルパンは訳もわからず大慌てでアジトからダッシュで離れる。
そして改めてアジトをみあげると。
玄関に限らず、窓という窓、つまりアジト内に入ることのできるすべての場所に『蛸』がぶら下がっている。
五右エ門すら知らないルパンの弱点。
そのルパンの蛸嫌いを知っているのは次元だけである。
ということは、これは次元の仕出かしたことということだ。
途中で車から放り出して不二子のところに行ったことを怒ってるのか?
やっとゲットしたお宝を不二子に貢いだことを怒っているのか?
それにしても、これはやりすぎだ、とフツフツと怒りが湧いてくる。
「なに考えてるんだ、次元のヤツ!!!」
叩き起こして文句のひとつでも言ってやって蛸を撤去させてやる、と携帯を取り出し迷わず次元へと電話をかける。
呼び出し音は一度も鳴らず、すぐに留守電のメッセージが流れてきた。
『ルパン、今夜は帰ってくんな。久々なんだからな・・・邪魔したら殺す』
低いドスの効いた声が繰返し二度流れて、プツリと電話は切れた。
ガックリとルパンの肩が落ちる。
この時間帯、絶対行為の真っ最中、それどころが最高潮の真っ只中だろう。
そんなときに邪魔したら・・・他のときならいざ知らず、冗談にもならない。
次元は迷わずルパンに殺気を向けるだろうし、五右エ門に至っては羞恥のあまり切腹しようとする可能性大。
勿論切腹時にルパンは既に斬鉄剣の錆になっているはず。
「はぁぁぁ」
肩を落とし背中を曲げ、まるでオラウータンのような格好でルパンは車に戻る。
今更、街に繰り出す気力はまったくない。
とにかく夜が明けるまでの数時間の我慢だ我慢と自分に言い聞かせながら、ルパンはシートに体を横たえて寂しい夜をひとりで過ごしたのだった。
 
 
 
 
 

■KITAKU■
   

    
 
 
   
 ■あとがき■
『帰り道』の続き、ルパンのその後デス。
結局、次元は楽しい夜を過ごせたようです。
で、自分の欲に走って相棒を置いてけぼりしたルパンは罰を受けちゃったと!(笑)
まあ、そんなお話ですv
 
 

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