ルパン三世を殺せ、という命令がくだった。
噂には聞いたことがある。
大泥棒でふざけた性格、殺しのテクニックは最上級。
殺しがいがありそうな男だと、この男をやれば自分の修行にもなると思った。
興行主を騙ってやってきたルパンに、そ知らぬ振りをして応じる。
やつは、アメリカからきたガンマンと勝負しろ、という話を持ちかけてきた。
凄腕のガンマン。たぶんルパンの相棒の次元大介という男だろう。
この男の噂もルパンほどではないが耳にする。
殺しのテクニックはルパンと同様、最上級と聞く。
面白い。
ルパンの前に、その腕を試してやるか。
そう思い、諾と言った。
「いつでも撃ってこい」と言うと少し戸惑ったあと黒い男は2丁拳銃で攻撃してきた。
銃弾が届く前に剣で弾く。次から次に発射される弾をすべて切り落す。
結局、一弾も拙者まで届かないまま銃弾はやんだ。
この男。手加減しやがった。
全弾、急所を外した場所、それも一定の位置を正確に狙ってきていた。
寸分の狂いもない、同じ場所。
これで防ぎきれなかったら嘘になる。
拙者を殺す意志がなかったとはいえ、随分甘く見られたものだとフツフツと怒りが湧いた。
一度目の対決でルパンのふざけた手管に呆れたものの、一筋縄ではいかない男だと感じた。
不二子に唆された二度目の対決で感情を剥き出しにするルパンをみた。
三度目の対決のとき、ルパンは「おまえってやつがなんとなく気に入っちまったんだ」と言った。
「言うな!」ととっさに答えたものの、その瞬間に自分の中にあった不思議な感覚がなんだったのかに気がついた。
自分にはないものを溢れんばかりに持ち合わせているルパン三世という男。
そうか、拙者はこの男を気に入っていたのか。
・・・だが、だからなんだというのだ。
気に入ろうと気に入らなかろうと何が変わるのだ。何も変わりはしない。
そう思ったから「思い直せ五右エ門」というルパンの言葉を無視してそのまま勝負を続けた。
それにこの男と勝負するのは面白い。
正々堂々という言葉の合わない手をつかってくるが、やり合うのは最高に楽しい。
結局勝負はつかなかったが、こんなに楽しい勝負は久しぶりだと思った。
つまらぬプライドと嫉妬に侵された師匠に殺されそうになった事実は、拙者が「殺し屋」という仕事に嫌気をさすきっかけにはなった。
だが、今更だ。この道から外れてどこに行けるというのだ。
斬鉄剣の秘伝書を持つ示刀流の指南役は殺しの仕事よりマシだと思ったから、引き受けた。
まさかルパンが秘伝書を狙ってくるとは思ってもみなかったが。
会って勝負して気分が高揚する、やっぱり楽しいと面白いと感じる。
しかしこの先、ずっとこの感情を持ち続けていたのではそのうち持て余しそうだと思った。
ならもう一度、真剣勝負を仕掛けて白か黒かきっばり結果を出そうと決心し、ルパンに果たし状を送りつけた。
が、結局つまらぬルパンの手に嵌り、勝負がつかないどころか始まりもしなかった。
わかったのはルパンに拙者を殺す意志がまったくないということだけ。
くそう、とも思ったがこの男を殺さずにすむという安堵感も湧きあがり、拙者はもう諦めることにした。
つまり拙者は勝負せずともルパンに負けているということだ。
ルパンの差し出された手をとって心の中で負けを認める。口に出して言うつもりはサラサラないが。
「俺のところに来い」
かけられた言葉の意味が一瞬わからなかった。
その意味がようやく脳に届いたときには「ふざけるな」と答えていた。
だが、拙者を覗き込んできたルパンの目は本気だった。
この男と手を組む?あの黒い男もいれて三人で?
殺しの仕事ではなく、泥棒をしろというのか、この拙者に。
「考えておけ」と言って去っていくルパンの背中をみつめてやつの言った言葉を反芻する。
断るか?普通ならそれが当然だ。
だが、断らないという選択肢がないわけれはないのだ。
それから何日も考え続けたが答えは出なかった。
遠くからエンジン音が聞こえてくる。聞きなれたあの男の車の音だ。
振り向くと助手席に次元を乗せたルパンの車が拙者の方へ近づいてくる。
答えを聞きに来たのだろうか。
今度断ればこの男との繋がりもここで完璧に切れてしまうのだろう。
どうする?どうする?
自問自答を繰り返しながら、拙者は斬鉄剣に手をかけてルパン達に向かって構えてみせた。
ニヤリと笑ってスピードをあげたルパンの顔をみて、この男はやっぱり面白いと思った。
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