面白い。
そう思った。
凄腕と噂の男の鼻をへし折ってやろうと思い、ただの気まぐれで接触をはかったんだが、実際会っての感想は「面白い」だった。
次元も暇だったのか、意外とノリノリで剣豪ボウヤに勝負を挑んでくれた。
殺すつもりはなかった。この世界はそんな簡単なものじゃないと教え込んでやるつもりだったのに。
あいつ、石川五右エ門の剣は銃弾をすべて弾き飛ばした。
この俺が珍しく驚いてポカンとしてしまったほどだった。
取材と称して話してみると、更に面白さがつのった。
時代錯誤も甚だしい、口調、態度、思考回路、そして生き様。
その後、何度か勝負をして益々面白さに磨きがかかった。
とにかく腕は凄腕。神業としか思えない剣技、殺しのテクニック。
それなのに根は真っ直ぐで何事にも真剣でたぶん生きベタ。
面白い、面白い、面白い、面白い。
こんな面白いやつは初めてかもしれない。
いや、こんなに風に面白さを感じた男は過去にもう一人いる。
今は俺の相棒になっているあいつだ。
これはなんだ、次元と異にして同の感覚を俺に与える五右エ門が、俺の前に現れたというのは何か意味があるのか。
命をかけた勝負を仕掛けられて嫌だと思った。
こいつを殺したくない、そう思った。
「おまえってやつがなんとなく気に入っちまったんだ」それを正直に口に出した途端、五右エ門は「言うな!」と言った。
「うるさい」でも「何を言っている」でも、せせら笑うでもなく。
俺の言葉を否定するように「言うな」と言ったんだ。
そうか、お前も俺を気に入ったか。
そう思った瞬間、勝負の最中だというのに腹の底から笑いが込み上げてきた。
流石に表情には出さなかったが、「面白い」という言葉が頭の中をぐるぐると廻りだした。
そんな気分で勝負したせいなのか、引き分けにはなったが俺はちょっとばかり恥ずかしいヤケドを負ってしまった。
ルパン二世が奪われた秘伝書を、守っているのが五右エ門だと聞いて俺はチャンスだと思った。
勿論秘伝書を取り戻すことが目的で探っていたのだが、それが別の目的に一瞬で摩り替わった。
次元もあいつを気に入っているらしい。
俺と違ってほとんど接触していないのに、なにかを感じるんだろうか。
口説き落とせれば連れてきていいと、次元は言った。
秘伝書と仲間、それを一度にゲットできるこのチャンス。最大限に生かさなきゃ、ルパン様の名が泣くぜ。
秘伝書を守り通そうとする律儀さ。
盗品と知ったからには守ることは出来ないという公平さ。
会う度に話す度に勝負する度に面白さは増していく。
お約束のように果し合いを挑んできた五右エ門を、落とし穴に落として勝負をあっけなく終了させる。
ふざけるなと怒り出すかと思ったが、差し伸べた俺の手を五右エ門は無言で掴んだ。
「なぜあの男を連れ来ぬ」
落とし穴から這い出した五右エ門がボソリと言った。
「あの男?」
「おぬしの相棒だという黒い男だ」
「次元?」
小さく頷く五右エ門をみて、俺は目を丸くする。
五右エ門が次元に会ったのは一番最初に勝負したときだけだ。
それなのになんでこいつは次元を気にしてるんだ?
「なんで?」
「・・・あの男、勝負のとき手を抜いた」
眉間に皺を寄せ吐き出すようにそう言うのを聞いて、ピクリとした笑いが湧き上がる。
こいつどこまで負けず嫌いなんだ。
ということは、こいつも次元の腕を認めてるってことか。
「お前、俺のとこ来ねぇか?」
「・・・なに?」
「俺と次元とお前。超一流の俺たち三人が揃えば殺しなんかより愉しいことが沢山できるぜ?」
「・・・・ふざけるな」
「ふざけてるようにみえるってのか?」
じっと目を覗き込んでやると、強い眼差しで睨み返してくる。
まだ駄目か?こいつは頑固っぽいもんなぁ。すぐにYESなんていうはずないけど。
ムッと不機嫌な表情だが、瞳の奥が揺らいでる。
あまりしつこいと頑なになっちまうだろうなぁ、このお侍さんは。
「ま、考えておけよ」
俺はそう言ってヒラリと車に飛び乗った。
「じゃあ、またな」
手をヒラヒラと振りながら俺はその場から立ち去る。
バックミラーに映る侍はじっとその場に佇んでいる。
「今度は次元も連れて、ふたりで落としに来るか」
五右エ門を加えて三人になれば、きっと今まで以上に面白くなるはずだ。
抑えきれない笑いを俺は今度は我慢せず、気持ちのままに大声で笑った。
|