凄腕の剣士がいるらしい。時代錯誤でまるで侍のような男だという。
そんな噂を聞きつけて、暇を持て余していたルパンが
「見栄っ張りの剣豪ボウヤにお灸をそえてやろうぜ。世の中上には上がいるってことを思い知らせてやるのさ」
と愉しそうに俺を誘い、その件の「剣豪ボウヤ」に会いに行った。
俺たちより年下であることはあきらかで青臭さが残っているその男は「見栄っ張り」などではなかった。
噂通りの凄腕で、俺の銃弾をすべて剣で弾き返しやがった。
あのルパンでさえ驚いて呆然としていたから相当なものだ。
殺すつもりはなかったから手を抜いたとはいえ、銃が効かねぇってのは俺も驚いた。
飛び道具に勝るとも劣らない剣術。いや違う、ヤツの腕前。
対等に渡り合える男だと認識した瞬間、俺の中でヤツは「剣豪ボウヤ」から「石川五右エ門」という一人の人間になった。
ルパンはその後、何度か五右エ門と対峙した。
その度、引き分け。決着はつかず。
腕が互角という理由もあるだろうが、一番の原因は途中からルパンの殺気が消えたからだろう。
いや、はじめからないも同然だったのか。
どうもルパンは五右エ門が気に入ったらしい。
勝負をするからには勝つ。殺気には殺気で応えるから命のやりとりになるが出来る限り五右エ門を殺したくない。
そう思っているのは明らかだった。
その気持ちは俺もわかるような気がする。
俺はほとんど五右エ門と接触してないが、あの男の清廉な雰囲気。
殺しを生業にしているくせに、変に真っ直ぐですれてない精神。
なんだか殺すのはもったいない気にさせる男だと思う。
「なぁ、次元」
「なんだ?」
死傷者がいなかったことが不思議なくらいの何十台もの車を巻き込んだ五右エ門との勝負から戻ったルパン。
やっぱり勝負は引き分けだったらしいが、無傷ではいられずみっともなく尻に包帯を巻いている。
「俺とお前さ、組んで随分経つけどよ」
ソファーに寝転んだ俺は帽子をすこしあげてルパンをみることで先を促す。
「仲間、欲しくない?」
そのうち言い出すと思っていた。
だが俺は気がづかない振りをして「あの女はごめんだぞ」と返したやった。
「不二子ちゃんは別よ、別。じゃなくてよ・・・」
「足手まといはいらねぇ」
「凄腕だったら?仕事の幅も増えて愉しいと思わねぇか?今までよりもっとスリルを楽しめるぜ」
ルパンが伺うように俺をみている。
俺の許可なんてなくっても好き放題勝手放題しやがるくせに、なんで今回に限って俺の意見を聞くんだ。
「お前が欲しいんならいいんじゃねぇか」
「今までみたいな一仕事のスケット仲間じゃねぇ。三人で組むことになるんだ、俺ひとりじゃ決められない」
・・・びっくりした。
こいつ本気の本気であの侍を仲間に加えたいらしい。
そしてその許可を俺にとりたがっている。
あの男のあの性格。
色々問題はありそうだが、刺激的で面白いことにもなりそうだ。
それにもう一人、背中を預けることが出来るヤツがいればもっとでかいヤマも踏める。
今まで以上のスリルが味わえる。
「お前が口説き落とすことが出来たらな」
そう言ってやるとルパンのヤツ、すごく嬉しそうな顔をしたあと意地悪そうにニヤリと笑って「任せてろ」と言った。
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