■弱点■
 
 
 
 

 
仏頂面というわけではないが、ほとんど無表情の侍。
勿論、ルパンの所業に耐えかねて怒ったり怒鳴ったりすることは割とある。
哀しそうだったり辛そうだったりすることも。
だが、そんなマイナス的な感情表現でなく、プラス的は感情表現となるとあまりみることはない。
嬉しそうだったり笑ったりということもたまにはあるが、それらは微かな表情の変化であって強く表面に出ることは少ない。
声をあげて大笑いする姿なんてほとんどみたことがないような気もする。

ルパンは次元にそう言ったあと、目を瞑ってウーンとなにやら考え込んだ。
確かに。
と次元も思うが、今さら表情豊かな侍というのも戸惑うかもしれないとも思う。
目の前で唸る赤い男はどうせ、どうしようもないことを考えてるんだろうと思うと少し侍に同情しそうになる。
IQは高いくせに馬鹿なことばかり仕出かすルパンは、今回も例に漏れず五右エ門の怒りを買いそうな予感がする。
こっちまでとばっちりが来ないといいがと、ちょっと眉間に皺を寄せ次元がルパンをみていると、ポンと手を打ってルパンが顔をあげた。
口元には「ニヤリ」という表現が一番あう笑いが浮かんでいる。
そして立ち上がると手を持ち上げ指をワキワキと細かく動かしだした。
「ヘヘ」と次元に悪戯気な流し目をくれて、ルパンは少し離れたソファーで胡坐を組んで瞑想する五右エ門の方へと歩きだした。
気配は消さない。
そんなことして近づいたら一刀の元、斬られてしまう可能性もあるからだ。
普通に何事もないように近づき、五右エ門の前に立つと中屈みになった。
なにをする気だ?と次元が身を乗り出すのと、五右エ門がルパンのよからぬ気配に目を開けるのと、ルパンの行動は同時だった。
「コチョコチョコチョーーー!!!!」
素っ頓狂な叫びをあげて、ルパンは五右エ門を脇腹を擽りだした。
あまりにも単純な方法に次元の頭と肩がガクリと落ちる。
「コチョコチョコチョコチョコチョコチョ・・・」
ルパンのハイテンションな声がだんだん小さくなっていく。
次元が顔をあげてふたりをみると、五右エ門が冷静な表情でルパンをみつめていた。
「・・・で?」
「・・・ごめんなさい」
擽っても無反応、そのうえ冷たくあしらわれて、ルパンは肩をガックリ落としつつ素直に謝った。
「すぐ謝るようなつまらぬことをするなっ」
ガンッと斬鉄剣の鞘部分で頭を殴られて、ルパンは頭から床に沈んだ。



無意味に五右エ門の機嫌を損ねたルパンが逃げるように外出した夜。
さて風呂にでも入るか、と次元が脱衣所のドアをあけると全裸の五右エ門がいた。
「あ、わり。今からか?」
「いや、構わぬ。出たところだ」
五右エ門は慣れた手で褌を身につけていく。
珍しさに次元はその場にとどまって、装着される様子を興味深げに眺めた。
「なんだ」
「いやぁ、面白れえな、と思ってよ。面倒くさくないか?」
「全然。慣れだな」
「そういうもんかねぇ」
そう言いながら五右エ門の全身を眺める。
温泉に一緒に入ることもあるし、目の前で着替えることもあるから見るのは始めてではない。
だが、男の裸なんてじっくり眺めるものじゃないから、しっかりと見たことはなかった。
なんでこんな細っこい体で鉄さえ斬する剣がふるえるのかと不思議に思っていたが、こうしてみるとバランスよく筋肉がついている。ま、それでも細いことにはかわらないが。
特に腰。
日頃余裕のある和服を着ているせいか、こんなに細いとは思わなかった。
東洋系はそこまでないが、西洋系の女は肉付きがいい。
そんな女どもより細いんじゃないか、この腰は。
そう思いながらなにげなく次元はサイズを測るかのように、両手で五右エ門の腰を掴んだ。
「お前ちゃんと喰ってんのか?なんだこの細・・・」
まで言いかけたとき。
ビクンと体を震わせた五右エ門が大声で笑いはじめた。
突然のことに次元は目を見開くも、無意識ながらつい指先に力がこもった。
五右エ門の笑い声が一段と大きくなる。
身を捩るようにして次元から離れようとする。
そこでようやく次元は五右エ門が脇腹を触られて笑っているのだと気がついた。
昼間ルパンが擽ったときは無反応だったのにいったいどうしたんだ、とも思ったがルパンも見たがっていた五右エ門の大笑いの姿をまのあたりにして、次元の悪戯心がピクンを湧きあがる。
そして今度は意識的に指を蠢かし五右エ門の脇腹を擽り出した。
「やめっ!」
五右エ門が膝を折り次元の手から逃れようとするが、逃がさずそのまま追う。
笑い声をあけながらも必死に逃げようとする五右エ門を床に倒し馬乗りになって擽り続ける。
五右エ門のこんな全開の笑い顔と笑い声ははじめて見るしはじめて聞く。
それにつられて次元の顔にも楽しそうな笑いが浮かぶ。

だが、笑いというのは疲れるものでなかなか継続が難しい。
暫くすると五右エ門は息も絶え絶えになって、笑い声に荒い呼吸と悲鳴のような声が交じりだした。
次元を押し返そうとしていた手の力も抜け、弱弱しく服を握り締めるだけ。
仰け反った白い体は湯上りと笑いの相乗効果でピンク色に染まり、目じりからも涙が零れ落ちている。
眉間に皺を寄せ苦しげに瞑られた目。それを縁取る睫に涙が光っている。
薄く開き荒い呼吸を繰り返す唇。その隙間からチラリとみえる紅い舌。
ヒクヒクと敏感に反応する組み敷いた体。
それを一瞬で見取って、次元の体の熱が一気に上昇した。
なにかいけないことをしているような気分、まるで情事に及ぼうとしているような錯覚。
ヤバイ。
なぜかそう思った次元は擽る手をとめて五右エ門の上から飛びのいた。
ようやく解放された五右エ門が荒い息を吐きながら上半身を床から持ち上げた。
腕で体を支え、横に立つ次元を睨みつける。
床に寝そべったまま上目使いで睨まれても色気が増すだけで迫力はない。
い、色気!?
思い浮かんだ単語に次元は慌てた。
これは普通、男に対して使う言葉じゃない!
「おぬし・・・」
地を這うような声にハッと我に返った次元は表面上は冷静さを保った。
内心動揺、心臓がバクバクいっているがそれはグッと理性で押さえ込む。
「わりい、やりすきた」
ポリポリと頭をかきながら、手を差し出すと五右エ門はじっとその手を睨みつけたが
「悪かったって」
次元が再度謝るとしぶしぶながらその手をとって、次元に引き起こされるままに立ち上がった。
「ルパンのようなことをするな!」
次元に背を向け、サラシを腹に巻きつけながら五右エ門は吐き捨てるように言った。
汗に光った白い肌が隠れていくのを残念に思いながら、次元はハタと思い出す。
そういえばルパンに擽られたときは平気そうだったのに、なんで今はこんなに反応したんだ?
サラシを巻き終わった腰をそっと触ってみる。
「次元ッ!」
怒った様子で五右エ門は振り返ったが、さっきのような反応はない。
「お前がサラシしてるのって、それが理由なのか?」
「そんなわけあるか!偶然の産物だ」
実は五右エ門は脇腹が弱いのだ。
だがしっかりと巻かれたサラシがそれをカバーしているということだろう。
それにルパンは服の上から擽っていたし。
サラシと着込んだ和服で完全にブロックされていたのだ。
「侘びの代わりにルパンにはバラさねぇからよ」
ニヤリと笑った次元の顔をみて、五右エ門はグッと詰まった。
ルパンに知られたら、あの手この手を使ってなにをされるかわかったものではない。
こんな楽しい弱点をルパンが見逃すはずはないのだ。
「当たり前だ」
悔しそうに五右エ門は答えながら、次元をジロジロと上から下までをみた。
「おぬしの弱点はどこだ」
自ら探さず、直接本人に聞く侍に次元はブブッと噴出した。
本当にこいつは面白い。
「そうだな、耳かな」
「耳?」
「そう、息を吹きかけられたり舐められたりするとゾクゾクする」
一瞬キョトンとした五右エ門だったが、すぐに言葉の意味を理解して顔を赤く染めた。
恥じらいでなく、からかわれた悔しさで。
「覚えておれよ!!」
悪党が吐くお約束な台詞を言って、五右エ門は脱衣室から出て行った。
ドアがバタンとしまり、廊下にドスドスという足音が響く。
次元はゲラゲラと笑いだし、奥に灯った欲情のような感覚を思いっきり吹き飛ばした。
 
 
 
 
 

■JYAKU TEN■
   

    
 
 
   
 ■あとがき■
侍が仲間になって1年くらいな設定。
恋仲でも片想いでもない普通の仲間状態。
なんだけど・・・ちょっとアレッ?って感じを
チラホラまぶしてみました。(笑)




 
 
 

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