もういい加減にしろ、と心底思う。
いったい何回、いや何十回、考えたくないが3桁は行くかもしれねぇ。
どれだけあの女にしてやられれば気が済むんだ。
今回は特に時間と手間をかけたヤマだったのに、結局手元にお宝は残ってない。
あの女に対して、というより元凶のルパンに腹が立って仕方がねぇ。殺気すら覚えるくらいだ。
流石に五右エ門も俺と同じ心境なようで、ルパンを責める語調がいつもよりも荒い。
「おぬしは不二子に振り回されすぎでござるっ」
「そうそう、いい加減騙されすぎだぜ、とっとと手を切れよ」
ルパンに詰め寄る五右エ門の後ろで斜に構えて俺も相槌を打つ。
「なに言ってんの、お前ら」
俺たちが本気で怒っていることがわかるのだろう。奴にいつもの調子のよさがない。
「おぬしが騙されるだけなら仕方がないが、拙者まで巻き込まれるのはゴメンでござる」
「今回みたいに苦労して手に入れたお宝を掠め取られたことが何度あったと思ってんだ?」
ホント、そうだぜ。あんなに苦労したのによ、なんで根こそぎあの女の手に渡るんだ?
そう思うと一層ムカムカしてくるぜ。
「裏切りは女のアクセサリーだぜ?不二子ちゃんのチャームポイントよ?」
いつもと同じ台詞をふざけた調子で嘯くが、今回はそれは通用しねぇ。
「そんなチャームポイントはいらねぇんだよ!!」
「ただ単に都合がいい男と思われているのではないか?」
「そうそう、お前はただの駒、いや狗なんだよッ」
五右エ門の援護を受けて、思ったままに言葉を吐き出す。
流石にルパンも猿顔を不愉快そうに歪めた。
「ムッカーー!そこまで言うか!?」
地団太を踏んでブンブンと腕を振り回し怒りを表現するルパン。
お前は子供かっ!
だいたいなんで逆ギレしてんだよ、反省してねぇのか。
「お前に怒る資格はねぇ。なんで此処にお宝がないのか胸に手を当ててよーく考えてみるんだな!」
「その通りでござる」
俺は歩を進め、ズズィと詰め寄ってやるとルパンが悔しそうに歯軋りした。
自分が悪いことはわかっているんだろう、ルパンもそこまで馬鹿じゃねぇ。
だが、それをふたりがかりで責め立てられて反撃できない状況にムカついてるんだろうが、そんなこと俺達は知ったことじゃない。
ルパンのムカムカ感が伝わってくる。
だが、こっちだってムカついてるんだ。お前に負けるかよ。
「・・・じゃあ、もし手を切ったら」
ルパンがぶすくれながらもボソリと呟いた。
「ん?やっとその気になったか?」
なんだ、どうしたんだ。随分な進歩じゃねぇか。
のれんに腕押し、ぬかに釘。それがお前の代名詞だったのによ。
ジロリとルパンが俺を睨み、その視線をそのまま俺の後ろの五右エ門に送った。
「五右エ門、お前が相手してくれるってーの?」
「なんの相手だ?」
意味のわからない問いかけに五右エ門が怒りを少し引っ込め、怪訝そうに聞いた。
俺もルパンの言っている意味がわかんねぇ。
と、思ったときにルパンはとんでもない返事をしやがった。
「セックス、だよ、セックス!!」
「な、なに言ってんだ、ルパン!」
なんでそうなるんだ。
五右エ門よりも早く反応した俺をルパンが再び睨みつけてきた。
「だって、そうだろ?ふーじこちゃんと手を切れってことはそういうことでもあるんだよ」
「はぁあ!?」
「手を切れって言ったのはお前達だろ?なら代わりにそのくらいシテもらわねぇと」
ふざけんじゃねぇ。
なんで五右エ門が猿の相手をしなくっちゃいけねぇんだ。
「アホ言ってんじゃねぇ。なんで五右エ門がそんなこと」
「だって次元じゃ嫌だもん」
ツーンと顔を背けたルパンはおどけた調子でこう言いやがった。
「はぁ?」
「髭面のムサイ男より、綺麗どころがイイ」
「そんなこたあ聞いてねぇ!」
こいつわかってて言ってやがるな。反論が出来ねぇから嫌がらせに出やがったんだ。
こう言えば、五右エ門に対してだけじゃなく、俺に対しても充分、いや充分以上な嫌がらせになる。
「・・・拙者に不二子の代わりをしろと?」
黙って俺達の会話を聞いていた五右エ門がボソリと言った。
こいつはこういう冗談を心底嫌う。抜刀してルパンに切りつけるかもしれない。
ま、それなら別に構わないが、変に真面目な五右エ門のこと。
このルパンの戯言を本気で受け取ったりしたら俺が困る。
慌てて振り返えると怒りもなく無表情な五右エ門の顔が目に入った。
「そうそう、あーんなことやこーんなことなんか、ムフフ」
手をワキワキさせながら、ルパンが俺の横をすり抜けて五右エ門に近づいていく。
いやらしい目つきとニヤケタ口元。
ムカッときてルパンの肩を掴もうと手を伸ばした先で、五右エ門がふっと笑った。
なんでこんなときに笑うんだ?
俺もルパンも動きがとまったが、五右エ門は気にした様子もなくこう言った。
「なら、セックスなどする必要はなかろう」
「え?」
ルパンが間抜けな声をあげた。
俺は俺で五右エ門の口から『セックス』なんて言葉を聞いてなんだがドキマギしてしまい、ルパンに対する憤りが幾分か収まった。
五右エ門はしっかりとルパンをみすえて、しっかりはっきりと断言した。
「おぬしと不二子はそんな仲ではないでござる」
・・・確かに!!
言われた意味がわからなかったんだろう、ルパンが間抜け面を晒す。
五右エ門が言った事実とルパンの様子。
それが俺の笑いのツボをついた。
「ハッッハッハ、違いねぇ!!」
ゲラゲラ笑う俺につられて、五右エ門も声をあげて笑いはじめる。
お前なかなか言うじゃねぇか!五右エ門!!
笑っちまって言葉には出せねぇ代わりに、侍の肩をバンバンと叩いてやった。
笑い転げる俺達をポカンとみつめていたルパンだったが、ようやくその意味がつかめたんだろう。
猿顔を歪めて、また地団太踏み始めた。
「くっそーーーーー!!!」
ルパンの悔しそうな叫びを聞いて、俺はすっかりと機嫌をよくしたのだった。
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