■ルパンの災難■

 
 
 
 
 

「たっだいまーー」
ルパンは明るく元気よくアジトのドアをあけた。
ぐるりと見渡すがリビングには誰もいない。
時刻はもう昼を過ぎている。
いくら疲れ果てて眠っていたとしてももう起きてていい時間だろ。
そう思いつつ、割と広い庭を窓から覗くとサムライの姿がみえた。
いつもと変わらない、修行する姿。
斬鉄剣を構え、設置した鉄筋を一刀の元に切り倒した。
「よぉ、五右エ門」
剣を収めたところで陽気に声をかける。
「ああ、ルパン。帰って来たのか」
「ついでに昼飯も買って来たぜ」
「そうか、そんな時間か。忝い」
五右エ門の動き、歩き方、いつもと変わらない。
痛みを堪えるでもなく、ぎこちないわけでもないその姿をみて、アレッ?とルパンは首を傾げる。
自分が出かけていた2日の間にとあるイベントが行われているはずなのに。
なんで五右エ門は平然としているんだ?
我慢強くプライドの高い侍のこと、やせがまんしているのかもと思ったがどんなに観察してもそういった様子は窺えない。
そんな疑問をおくびにも出さずルパンは買い物袋からガサガサと食べ物を取り出した。
「所用はどうであった?」
「ああ、万事OK、なーんにも問題なしよ。ところで次元は?」
リビングに戻ってきた五右エ門に次元の所在を聞くと、ピクリとコメカミを一瞬引き攣らせ「知らん」と吐き出すように言った。
あっれ〜?どうしたんだ、なんかあったのかな〜?
いや、なんかあるっていうかスルから留守にしてやったんだけどね、でもちょっと予想と違っちゃってるみたい。
そう思っても、ルパンはポーカーフェースを崩さない。
ことがことなだけに迂闊に突っ込んで侍の怒りを買った日にはあっという間に命を落としてしまうこと間違いなし。
「出かけたのか?」
「いや。出かけてはおらん」
「じゃ、まだ寝てんのか?アイツ。俺様がお仕事してきたってのにいいご身分じゃないか。叩き起こしてくるぜ」
一瞬五右エ門が何か言いたげな様子をみせたがルパンは気がつかない振りをしてリビングに出る。
次元の部屋を目指しながらルパンは顎に指をあてウーンと考え込んだ。

五右エ門は元気いっぱい。機嫌は少し悪そうだが体は元気そうだ。
反対に次元は部屋で寝込んでいるってのか。
あっれぇ、おかしいぞ。
次元が五右エ門に惚れて悶々としているのは知っていた。
一時はよくなったが、最近また切羽詰った様子だったからこのままじゃマズイと気を利かせてアジトを留守にしてやったのに。
せっかくの初夜の機会を与えてやったのによ。
あいつらヤらなかったのか?

次元の部屋のノブに手をかけたときルパンはイタイ考えに辿り着いた。

・・・俺はてっきり五右エ門が女役だと思ってたけが、もしかして反対だったとか?
実は次元が女役で、この留守中に五右エ門にヤられちまったということなのか。
ゲエエーー!
いや男同士のセックスなんてゲエって感じに決まってるが、それでもまあ五右エ門がヤられるのならそれはそれで一興かとも思っていたんだが、あの次元がヤられる側ってのは・・・・うげっ、あいつが喘いでいるのを想像しちまった。うええぇぇぇ。
このドアを開けて事後でグッタリした次元が寝てたら・・・ううう、みたくねぇ。
だが、現実から逃げるわけにはいかない。
そうなってたらそうなってたらで今後それなりの対応を取らなければいけないからだ。
ルパンは勇気を奮いたたせ、ドアをあけた。

が、幸運にもそこには誰もいなかった。
無人であることを確認したルパンは、ふーーーと大きく溜息を吐いた。
最悪の事態は免れた。冷汗を手の甲で拭いながらルパンは他の部屋を覗き込む。
「次元?次元ちゃーん?」
沢山はない部屋のどこにも次元の姿はなかった。
五右エ門の部屋を覗き込むときは、次元の部屋のとき同様の嫌な緊張感を持って勇気を奮い立たせたのだが、
やっぱりその部屋にもいなかった。
「どこいったんだ?あいつ」
あと探してないのは・・・ルパンが作業に使っている地下だけだ。
パソコンやコンピュータ、実験道具。
そんなもので満たされた部屋に次元が用があるとは思えないが、もう探していないのはその部屋だけ。
ルパンが首を捻りながら地下へ続く階段を下りると、部屋から明かりが漏れている。
「あれ、やっぱここにいたのか」
ドアをあけるとパソコンに向かっている次元の背中があった。
銃器類の表面的な情報やその他仕事にまあまあ役立つ情報はネットから収集できるこの世の中。
次元が調べものをすることもあるが、ルパンがいるなら滅多にはしない。
どちらかというと足を運んで調べるアナログ派なのだ、次元は。
その次元がパソコンの前に陣取っているのだ、珍しい。
胡坐を組んで椅子に座った次元の様子を後ろからじっと観察する。
クッションもおかず直に椅子に尻を乗せているところをみると、尻にダメージは受けてないようにみえる。
心配が杞憂であったことにホッとしながら、ルパンは後ろからパソコン画面を覗き込んだ。
「たっだいま〜次元ちゃん、なに調べてンの?」
「んー、ちょっとな」
心此処にあらずといった気のない返事。
なんだぁ?と思いながらパソコン画面をしっかりと確認したルパンの体がピキッと硬直する。
『真面目なゲイのための愛の講座』
『優しい愛のレッスン1』
『正しい知識を身につけて恋人と熱い夜を』
ディスプレイに映し出されたものは、ゲイの方々の愛の交わし方を真面目に教えるサイトだった。
真面目なわりに過激な言葉で語られる、アレやコレや。
文章だけで画像がないのが不幸中の幸いだった。
「なに・・・してんの?」
喉仏をゴクリと動かして、震える声で尋ねる。
「ベンキョ」
不機嫌そうな声。
「うまく・・・いかなかったのか?」
五右エ門はどうかは知らないが、次元はルパンが自分達のことを知っていることを知っていた。
悶々と悩んでいた当初は隠そうとしていたが、実際に口説くようになってからは特に隠すことをしなくなった。
そんな余裕がなかった、ということもあるが、聡いルパンが気がつかないはずがない。
それなら隠したって無駄だと開き直ったのだ。
だから、今回ルパンが気を利かせて留守にしてくれたということを次元は知っていた。
でも今のルパンの言葉は次元の傷ついた男のプライドを益々傷つけてしまった。
ムッカーと怒りが湧く。
それはルパンに対してではなく、五右エ門の言葉に対してではあったが。
「ああ、そうだよ、うまくいかなかったよ!チクショー!!」
「じ、次元」
突然の剣幕に及び腰になったルパンに次元が向かい直る。
帽子の下から見える目が八つ当たりの色に染まっているのを気がついて、しまったとルパンが思ったときには既に遅し。
「あいつ、よりにもよってヘタくそって言いやがった!!抱きたければちゃんと勉強しろだと!!
ああ、希望通りしっかりと勉強して減らず口が叩けネェように、アンアンとしか言えねえようにしてやる!!!」
失敗したのだ。
なんせ、ふたりとも元々ノーマルな男同士。
手順が女相手とは違ってて、結局うまくいかなかったのだろう。
それにしても「ヘタくそ」。
男のプライドを粉々に砕く禁止ワードだ。
同じ男である五右エ門にそれがわからぬわけはないだろうに口にしたということは、散々な夜だったのだろう。きっと。
ハハ、と引き攣りながらルパンは一歩後退する。
「五右エ門は勉強しねぇの?」
少しでも八つ当たりの怒りを反らそうと言った言葉に次元の眉の皺が増えた。
「自分はしたいわけじゃない、って言いやがった!」
なんて女王様な台詞。
したいならさせてやるからしっかりと勉強してこい、っていう所だろう。
五右エ門らしいといえば五右エ門らしい。
「しっかり尻にしかれてるなぁ」
苦笑しつつ、ちょっと同情をみせたルパンの様子に少しは怒りが収まったのか次元は頭を帽子ごとガシガシと掻いた。
「その敷いた尻をいつか下からガンガン突き上げてやる」
ボソリといった次元の言葉はしっかりとルパンの耳に届いたが、聞こえなかった振りをする。
ふたりがデキたらデキたでからかって遊べると思っていたのだが、その日が来るのはまだまだ先のようだ。
それまでこの次元の丸出しトークを聞かなければいけないのかと思うと少々ゲンナリする。
「とにかく飯でも食いましょ。腹が減ってはなんとやらだぜ」
この場を離れたいととっとと背を向けたルパンの後ろから、なにか唸りながら次元が立ち上がりついてくる。

こりゃ、先が思いやられるとつい苦笑したルパンであった。
 
 
 
 
 
 

■LUPIN NO SAINAI■

 
 
 
■あとがき■

『現夜』のその後。
ルパン視点のお話デス。
次元受けか!?と誤解して焦るルパンを書きたかっただけだった気がします(笑)



なんで今頃このシリーズの続きかというと
続きというよりタイミング失ってストック化してたのを
5周年だし原点(?)に戻るってことで!
とか言い訳してようやくアップしたのでした。
書いたのは随分前のことです。エヘ

ほんと、今更でスミマセン(^_^)>



 

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