■洗濯日和■
 
 
 
 

 
ガチャリ、とドアが開く。
ソファーに寝転んだ次元が帽子の下から視線をやると背筋をスッと伸ばしたサムライが室内に入って来た。
「よお」
片手をあげて声をかける。
「久しぶりでござるな」
五右エ門がほんの微かに微笑んで応えた。
ドアを閉め、向かいのソファーに座るために次元の横を通り過ぎる。
いや、通り過ぎようとしたときに手首をガシリと掴まれる。
手を振りほどくことはせず足を止めた五右エ門は、ソファーに半身を起こし手首を握る男を見た。
「お前・・・」
「なんだ?」
特別な反応はなにも示さず、ただ冷静に問い返す五右エ門に次元は少しむっとくる。
会うのは随分久しぶりだというのに、なんだこの冷淡な態度は。
会いたくって仕方なかったのは自分だけか。
改めてそう思うと腹が立つより哀しくなってくる。
「ずっと歩いて来ただろう?」
「ん?わかるか?」
「ああ。とにかく風呂に入ってこいや」
「なんだ、気になるほど匂うか?自分ではわからぬが」
袂を握って鼻につけ、くんくんと匂う姿はなんだか子供のようで可愛くみえる。
「そう気にはならないがな。汗を流した方がすっきりするんじゃねぇか」
修行には水修行も多いし日頃から清潔に保っているつもりだが、
気にはならないと言いつつも、風呂を勧めるところをみると意外に汗くさいのかもしれない。
わざわざ指摘されたのにそれを無視するわけにもいかない。
「では、おぬしの言うとおりひとっ風呂浴びてくるでござる」
「そうしろ、そうしろ」
次元は握っていた手首を離し再びソファーに体を沈めた。
その様子を少し眺めたあと、五右エ門はきびすを返してそのまま風呂場へと向かった。

ジャーー。
浴槽にお湯を溜める音が響く。
ルパンや次元ならシャワーで済ませることも多いが、五右エ門は浴槽があれば必ずお湯を溜めて入浴する。
シャワーだとどうも風呂に入ったという気がしないからだ。
久しぶりに会った恋人に匂うと言われた五右エ門は少なからずショックだった。
お互いの汗の匂いには慣れているつもりだったし、仕事中は男三人集まってなかなか男臭い状況も多い。
だからあまり気にしてなかったのだが、次元はどうもそうでなかったようだ。
まあ、ゆっくりと風呂につかるのは久しぶりだから風呂に入れるのははっきり言って嬉しい。
とにかく、次元に文句言われないくらいに隅から隅まで体を洗いまくってやる。
と思った五右エ門であった。

浴室から聞こえる水音。
脱衣所に忍び込んだ次元は、音に引きづられてつい五右エ門の入浴シーンを想像してゴクリと唾液を飲み込んだ。
扉1枚隔てた向こうに全裸の恋人がいるのだ。興奮しない方がおかしい。
出来ればこのまま自分も服を脱ぎ捨てて乱入したいところであるが、それではルパンである。
そう思っても襲い来る誘惑を、グググとどうにか押さえ込む。
なぜなら、それ以上の結果を持つ計画が現在進行しているからである。
煩悩を払うようにブンブンと頭を振った次元は五右エ門が脱いだ着物一式をひっつかんで脱衣所から脱出した。

和服一式と褌とサラシ。
それらを纏めてズボっと洗濯機に押し込む。
「ああ、あれも忘れちゃならねぇな」
五右エ門が持参した風呂敷をあさり、その中から替えの褌を引きずり出して同じく洗濯機に突っ込む。
ピピピッ
指先でボタンを何回か押すと、軽い機械音を発したあと洗濯機は動きだした。

浴室から脱衣所に出た五右エ門は脱いだものが消えていることに気がついた。
「なんだ?」
キョロキョロと辺りを見渡すがどこにも自分の着物がない。
着物どころかサラシさえ残っていないのだ。
少し迷った五右エ門だったが、このままここにいてもどうしようもない。
今、アジトにいるのは自分と次元だけだ。
ということは次元が着物の行方を知っているはず。
五右エ門は眉間に皺をよせ小さく嘆息すると、手拭いを腰に巻き、バスタオルで頭をガシガシと拭きながら脱衣所を出た。

「次元」
名前を呼んでリビングを覗くがそこには誰もいなかった。
とりあえず褌だけでも、と風呂敷を探るがあるはずの褌がない。
「んん?」
結び目を解いて荷物を広げてもどこにも褌がない。
どういうことだ、と外に目をやると窓の向こうの小さい庭にヒラヒラとはためく白い布がみえた。
庭に通じるドアをあけると、五右エ門の着物を干す次元の姿。
「なっ!?」
驚く声に気がついて次元が振り返った。
「おお、随分長風呂だったな」
「おぬし、何をやっているのだ」
「みてわかるだろ?洗濯だよ、洗濯」
着ていたものも、替えの褌もすべて洗われてハタハタと風に靡いて物干しに干されている。
「替えも洗ってどうする!」
「まあ、ついでだったからな」
次元が満足そうに手をパンパンとはたいて、くるりと五右エ門に向き直った。

濡れた緑の黒髪。
湯で温められた肌は上気し、白い肌がほんのりと桃色に色づいている。
その体を覆い隠すものは腰のタオル一枚。
引き締まった腰も、ほどよく筋肉のついた胸板も、深い影を落とす鎖骨も、すらりと伸びた白い足も。
すべて次元の目に晒されている。
興奮に鼻の穴が開くのを感じる。無意識に喉仏がゴクリと動いた。

「・・・そんなに拙者は臭かったのか?」
少し傷ついたように五右エ門が呟いた。
会ってすぐに風呂に入れと言われたうえ、風呂に入っている隙に一切合切洗われてしまった。
これはもう本当に耐えられないくらいどうしようもないくらい臭かったのに違いない。
「違うって」
しょんぼりとした五右エ門の姿に少し罪悪感を感じながら次元は苦笑した。
「だが、」
「まあ、話は後だ。俺の着替えで良ければ俺の部屋に置いてあるぜ。いつまでもその格好じゃ風邪をひく」
こんな格好をするはめになったのは誰のせいだと思うが、確かにこのままでいるわけにもいかない。
着物が乾くまで当分かかるだろうし、とりあえず次元の服でも着ておくかと、五右エ門はじろりと次元を睨んで室内に戻った。

このアジトは部屋数も多く、各自で使っている部屋も決まっている。
五右エ門は次元の部屋に入るとぐるりと部屋を見渡し服を探す。
ベットのうえに放り投げられているシャツをみつけ、それを取るためにベットへ近づいた。
背後でカチャリとノブを回す音がする。
振り向かずともその気配でこの部屋の持ち主であることがわかる。
「これを借りてよいのか?ちゃんと洗濯してあるのであろうな」
シャツを持ち上げ振り向きながら、全部洗濯された腹いせに少し嫌味を込めて問いかける。
「お前に貸す服はねぇよ」
次元がニヤニヤと笑いながら近寄ってくる。
「なっ!?」
意外な言葉に一瞬驚くがすぐに腹が立ってくる。
「次元、どういうことだ?おぬしいったいどういうつもりで・・・」
言葉が終わらないうちに次元の腕が五右エ門に巻きついた。
ぐいっ、と腰を引き寄せ、そのまま指先で腰のタオルをひっぱり床に落とす。
「どういうつもりって、こういうつもりだ」
足の間に膝を割り込ませ、遮る布を失い空気に晒された股間を刷り上げる。
「あっ!?」
直接的な刺激に五右エ門が驚きの声をあげた。
「俺はお前に会いたくって仕方がなかったのによう。なんだってお前は平然としてるんだ?」
「なに、を」
「こうでもしなきゃ、お前はなかなか触れさせてくれねぇんだろ?」
「じ、次元っ」
「もう逃げ場はねぇぜ。とにかく今すぐ俺に抱かれてくれ」
耳たぶを嬲りながら次元は熱い吐息を五右エ門の耳に吹き込んだ。
その間も手は小ぶりな臀部を揉み、太腿で股間を擦りあげる。
「アッ」
官能的な声をあげた五右エ門をそのままベットに押し倒す。
「会いたかったのは、ずっとこんなことをしたかったのは俺だけなのかね」
腰を引き寄せていた腕を解き、その手を脇から胸へとサワサワと移動させ、既にぷっつりと尖った乳首を摘みあげる。
首筋をベロリと舐め上げれば大きく体が反らされ、鼻にかかった吐息が五右エ門の唇から漏れた。
いきなりグイっと後ろ髪を引かれ、伏せていた次元の顔が強制的にあげさせられた。
ジロリと睨みつける五右エ門切れ長の目は、目元が上気しいつもの鋭さはない。
あるのは情欲に染まった色気のある視線。
「馬鹿を言うな、そんなはずなかろう!」
グイッと髭面を引き寄せて、五右エ門は噛み付くように唇を合わせた。
驚いたように丸まった目はすぐに嬉しそうに細められ、与えられた唇の隙間からヌルリと舌を割り込ませた。
「じゃ一丁、久々の逢瀬を愉しもうかね」
深い口付けのあと次元はニヤリと笑って、着ていた服をすべて脱ぎ捨てた。
 
 
 
 
 

■SENTAKUBIYORI■
   

    
 
 
   
 ■あとがき■
策士次元。
五右エ門が拒否れないとこまで追い詰めて
おいしくじっくりとお召し上がり。
 
着物を洗濯機で洗っちゃ駄目だろう!とセルフ突っ込みしてますが
まあその辺はスルーしてやってください(笑)
 
 
 
 

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