■秘め事■


ミナス・ティリスに滞在して随分経つ。
フロドの怪我もすっかりと良くなって、最近ではよく笑うようになった。
ひとりひとり個室を与えられてはいたがそれではメンタル面で不都合があるだろうと、
それとは別に広々とした一室が一同に与えられていた。

パリパチと暖炉の炎が燃えている。
座り心地の良いクッションと大きな椅子。
テーブルのうえには食欲旺盛なホビットのために果物やお菓子が常備されている。
歓談したり読書したり窓の外の風景を眺めたり。
していることは各々違い、己の好きなように振舞っていたが、
やはり自室にひとりでいるよりは人の気配を感じていた方が安心するのか、
ホビットは勿論ドワーフやエルフは(たまにではあるが人間の王まで)夕食後のひとときをこの部屋で過ごすことが多い。

「そろそろ寝ようかな」
「あ、僕も」
「じゃ、おやすみ〜」
ふあぁ、と大きな欠伸をしつつメリーとピピンがヒラヒラと手を振って退出したのをきっかけに、
「ああ、もうこんな時間か」
「明日も早いからな」
ひとりひとり挨拶をして自室に戻っていく。
残るのはフロドと、旅の間のくせが抜けないのかフロドに行動を合わせるサム、そしてレゴラスの3人になった。
会話をするでもなく安らぎさえ感じる静寂のときを過ごしていたが、しばらくするとレゴラスも椅子から立ちあがり窓辺のカウチに座るフロドに近寄り、そっと声をかけた。
「ねぇ、フロド」
レゴラスの声にフロドは読んでいた本から目をあげた。
上から覗き込んでくるレゴラスのサラサラした髪かフロドの頬にサラっと触れた。
「私はもう部屋に戻るけど?」
「僕はあと少しこれを読んでます。おやすみなさい、レゴラス」
しかし、レゴラスからのおやすみの返事はない。
フロドが訝しげにちょっと小首を傾げると、レゴラスが悠然と微笑んでいった。
「今日も自分の部屋に帰っちゃうの?」
「・・・え?」
「ねぇ、今日は久々に一緒に寝ましょう。フロド」
一瞬何を言われたかわからなかったが、すぐに意味を悟ってフロドの顔が真赤に染まる。
レゴラスの言う「寝る」が単なる「就寝」を意味しているはずはなく。
甘い夜への誘いであることは一目瞭然。
「部屋で待ってますから。それを読み終わったら来てくださいね?」
耳元でこっそりと囁いて、レゴラスは躯を起すと「おやすみ」とサムに挨拶して広間を出て行った。
「え・・・?」
ふたり甘い夜を何度も過ごして来たけれど、いつもレゴラスがフロドの部屋を訪ねて来ていたのだ。
フロドから行ったことはまだ一度もない。
今夜、レゴラスの部屋に行くということは躯を重ねるということ。
まるで自分がそれを望むかのようで、自ら部屋の扉を叩くのはなんとも恥かしいことではないだろうか。
そう思い至って、羞恥のあまりフロドの体はピキリと固まってしまった。
視線は本の上に落ちている。
だが、目は文字を追わず一点をみつめるだけ。
頭の中はただ「どうしよう」という言葉がぐるぐると回っているだけだった。
嫌なわけではない。したくないといえば嘘になる。
だが、抱かれるためにレゴラスの寝台に行く、という事実はフロドの思考力をすっかりと奪ってしまっていた。

「・・ド様」
「・・ロド様?」
「フロド様!!」
自分の名を呼ぶサムの大きな声でようやくフロドは我に返った。
「え?」
「え、じゃないですよ、そんなにその本は面白いんですかい?呼んでも全然気がつかれねぇから」
いつの間にか横に立ったサムが苦笑しながら言った。
「あ、あぁ、うん。面白いよ」
全然頭に入っていなかったが、サムの目には読書に夢中なようにしか見えなかったらしい。
ホッとしながら、フロドは少し笑ってみせた。
「もうそろそろ寝ませんか?」
よくみるとサムの目がシパシパしている。
時間をみると、レゴラスが出て行ってから大分時間が経っていた。
そのことにフロドはとても驚いたがサムの手前、その驚きを表情には出さないことに成功した。
「あと、もう少しだから読んでしまうよ・・・だから先に寝ていいよ、サム」
別にサムがフロドを待つ必要はないのだ。
だが、彼はフロド中心にする生活からまだ抜け出ていないうえ、フロドの怪我もあり保護欲は衰えることはないらしい。
「僕もすぐ寝るから。おやすみ」
「そうですかぃ?」
サムの眠気もピークに達していたのだろう、今日は素直にフロドの言葉を受け入れた。
おやすみの挨拶をして部屋を出て行くサムの背中を見送り、扉が閉まると共にフロドはふうと小さく溜息を吐いた。

レゴラスは部屋でフロドがくるのを待っているのだろう。
そう改めて思った瞬間、顔がどんどん火照ってくるのがわかる。
心臓も今更ながらバクバクと自己主張を強くしていく。
どうしよう、と思う。
このままいつまでもここにいるわけにはいかないこともわかっている。
だけど、体は固まったままで動くことができない。
もし動けたとしてもレゴラスの部屋まで辿り着けそうにない。
顔を真っ赤に染めたフロドはそのまま硬直し続ける。




フロドにとっても、レゴラスにとっても、夜はまだまだ長そうである。
 
 
 
 

 

   
  
 ■あとがき■
テーマは『秘め事』というか『ナイショのお誘い』(笑)


   

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