■その瞳に映るもの■
遠い遠い西方の地。
故郷を離れて幾年月が過ぎたのか、彼にはもうわからなかった。
ただ毎日。
海の見える丘に立ちまだ来ぬ人を想う。
突き抜けるような高く高く、蒼い空。
その空を毎日見上げる。
便りを届けてくれる鳥たちが飛んで来ないかと。
鳥たちのように翼があれば今すぐにでも跳びたてるのにと。
蒼い空を見上げて思う。
沈んでいくような深く深く、蒼い海。
その海を毎日見続ける。
遥か彼方水平線に白い帆が現れないかと。
大海原を走る波になれば彼方の地へ辿り着けるのにと。
蒼い海を見つめて思う。
海と空は水平線で交わって。
蒼と蒼が溶け合ってひとつになる。
目の前に広がるのは蒼い蒼い世界。
彼が見つめるのは、空の蒼。
彼が見つめるのは、海の蒼。
空の蒼さを映し。
海の蒼さを映し。
彼の瞳の濃さが増す。
沈んだように深く深い蒼色に。
澄んだように高く高い蒼色に。
彩られた瞳はただただ心を打つような蒼さだった。
遠い遠い西方の地。
故郷を離れて幾年月が過ぎたのか、彼にはもうわからなかった。
ただ毎日。
海の見える丘に立ちまだ来ぬ人を想っていた。
霞んで何も見えなくなった視界。
鮮明な世界を取り戻すために瞳を閉じる。
眦から幾筋の雫が流れたあと。
ゆっくりとゆっくりと目を開いた。
彼の瞳に映ったものは。
海でもなく、空でもない。
白い顔、新緑の瞳、金糸の髪。
永く永く待ち望んだもの。
今、フロドの瞳の蒼は。
海の蒼さでもなく、空の蒼さでもない。
優しさと愛しさと幸せに彩られた、遠い昔のままの美しい蒼。
■あとがき■
「再会」がテーマ。
「08 いい子いい子」の続編です。
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