「誕生日おめでとう!」
扉を開けたフロドの目に入ったのは両手を広げて満面の笑顔で立つレゴラスだった。



■贈り物■



日も暮れフロドのバースディパーティーが一番盛り上がっていた時刻。
招待客はすべて来訪済みで、今夜はもう誰も来ないはずなのに扉が叩かれた。
誰だろう、と少し戸惑いながら扉を開くと、思いもかけぬ人物がいたのだ。

一瞬夢ではないかと目を疑ったが、目の前にいるエルフは間違えなく本物で。
フロドは大喜びで彼を室内へ迎えいれた。

「あ、レゴラスだ!!どうしたのーー?」

ジョッキを片手に既に出来上がっているホビット達が目を丸くして、エルフを迎えた。
訪問したがる沢山の人をやんわりと断って旅の仲間の、身内だけの小さなパーティーが行われていたのだ。

「フロドのバースディだからね。今日中にお祝いの言葉を贈りたかったんだ」

にこにこと柔和な笑顔。いつも通りのレゴラスだ。
だが、きっと。
保護地として立ち入り禁止となったこの土地へ来るのを、旧知の友たちは止めたに違いない。
それを軽々と振り切って何事もなかったかのように悠々と訪れたのだ、このエルフは。
随分会っていない旅の仲間達の苦悩を思って、ホビット達は少し苦笑した。
だが、レゴラスに会えるのは嬉しい。
再会の喜びに、沸きあがった同情はあっという間に四散した。

「フロド、誕生日おめでとう。これからも貴方に幸あれ。」

レゴラスが跪き、フロドの手をとりその甲へ優しくキスをした。
優雅な動きと思いもよらない扱いにフロドの頬が真っ赤に染まる。
そんな様子を満足そうに見つめるレゴラスをフロドから引き剥がそうとホビット達は立ち上がった。

「レゴラス、席を用意しましただ。」
「旅で疲れたでしょう?さあ、座って座って!」
「料理もビールもまだまだあるよ。ビールはどう?」

レゴラスはにっこり微笑むと、用意された椅子をフロドの横に置き当たり前のようにその場に座った。
そうだった、レゴラスは手強かったんだ。
と、ホビット達がしみじみ思い出す。

「あ、フロド、さっきの続き!今年は何をくれるの?」

ピピンがパッと顔を明るくして期待を込めた目でフロドをみた。
フロドは困ったような表情でレゴラスをチラリとみた後に、
部屋の奥へ行き両手に綺麗な紙に包まれた品々を持って来た。

「はい、これはメリー。これはピピン。これはサム。みんな今日はありがとう」

名前を呼びながらひとつひとつを手渡す。
そして、レゴラスの前に立つと困ったように微笑んだ。

「すみません、レゴラス。来てくださるとは思っていなかったから・・・貴方の分は用意していないんです。」

レゴラスは興味深げに、嬉しそうに包みをあけるホビット達を眺めた。

「あれは何?」
「僕達、ホビットは誕生日を祝ってくれた人達に、祝ってもらった者が感謝の気持ちを込めて贈り物をするのです。」
「へえ・・・私達エルフにはそんな習慣はないけど・・・ミナス・ティリスでは、祝ってもらう人が貰っていたよ。」
「ええ、僕達の場合も同じですよ。でもお返しもするのです。」

遠い地からわざわざ祝いに訪れて来てくれたというのに。
お礼の贈り物を渡せずに、フロドはひたすら恐縮していた。

レゴラスが突然約束もなく来訪したのだ。
それにエルフにとってホビットの習慣は慣れないものだ。
だから、フロドはそんなに気にする必要はないのだ。
フロドの様子をレゴラスは愛しげにみつめた。

「贈り物は何を渡すものなの?」
「え、っと・・・相手が何が欲しいか考えて、一番いいと思うものを選ぶのです。」
「相手が喜ぶならなんでもいいの?歌とか詩を朗読するとかでも?」

レゴラスの言葉にフロドの顔がパッと明るくなった。
何も品物を贈らなければならないわけではない。
相手が喜ぶのなら、それこそレゴラスの言った通りなんでもいいのだ。

「レゴラスは何か欲しいもの、ありますか?」

キラキラと期待に満ちた蒼い瞳に見つめられて、レゴラスは満面の笑みを浮かべた。

「ええ。なんでもいいの?」
「はい、僕に出来ることだったら!」
「じゃあ・・・・・・キスして?フロド」

フロドの手をとり両手で包むと、優しく甘く囁く。
一瞬何を言われたのかわからなかったフロドだが、レゴラスの言葉が脳内に届くと
音がするのではないかと思うほど、真っ赤になった。

「あ・・・」
「さあ、フロド、プリーズ」

目を閉じて軽く唇を差し出すレゴラス。
唇以外の場所へのキスは贈り物としては問題外らしい。
思いもよらない展開に、自分の贈り物を手にしたまま、ホビット達は凍り付いてしまった。
フロドが意を決したように、ゴクリと喉を鳴らすと、そっと顔を近づける。
しかし、唇が触れ合う前にレゴラスの瞳がパチリと開いた。

「ねえ、フロド?」
「あ、なに・・・?」

顔を寄せたままの状態でレゴラスが妖しく微笑んだ。

「品物に込められた気持ちはなかなか見えないけど、キスだと一目瞭然だよね?」
「え?」
「私へのキスの深さで、みんなへの贈り物の気持ちの重さもわかると思わない?」

唇を薄く開くと誘うように、舌をチラリと蠢かせてみせた。
紅い色とその存在に、何を言われているか察したフロドは今まで以上に顔を紅く染めた。
フレンチキスなら簡単。
だが、それではみんなへの感謝の気持ちが薄いと思われるよ?
と、レゴラスはディープなキスを要求しているのだ。

硬直してしまったフロドを眺めながらレゴラスはヒョイと小さい体を持ち上げた。

「じゃあ、"月明かりの下で"というオプションもつけようかな?」

フロドを抱きかかえたまま、近くの窓を大きく開くと軽々と外へ飛び出した。
驚くフロドに優しく笑いかけ耳元でこう囁いた。

「それに皆の前じゃ遠慮して思いっきり出来ないでしょう?」

いきなりフロドを拉致されたホビット達が我に返って窓際に駆けつけたときにはふたりの姿はどこにもない。
しかし、遠くから楽しげなエルフの声が響いてきた。

「フロドの感謝の気持ちがどんなに深いか、あとからゆっくり教えてあげるから。暫く留守番しておいで」

夜の闇の中にエルフの笑い声がこだまするのを、3人は悔しげに地団駄踏みながら聞いているしかなかった。





10分もしないうちに帰って来たフロドとレゴラス。
フロドの服装に乱れた様子がないのと、時間の短さに悪さをする余裕はなかっただろうと胸を撫で下ろす。
それでも疑いの目を向けたホビット達に、レゴラスはフロドからのキスのことを詳細に語りだすのだった。


もちろん、すぐにフロドの不興を買い、話は中途半端に終わるのだが。
自分達へのフロドの感謝の気持ちが相当深いことが理解できたホビット達であった。
 
 
 
 
 
 
 

   
  
 ■あとがき■
フロド誕生日小説第二段。

フロドからのディープなキスをゲットするレゴラスのお話デス。(笑)
レゴラス、自分のいいようにフロドを丸め込んでますねぇ。
でも、いくらホビットとはいえ大の大人がこんなので丸め込まれるか〜?
って感はあるのですが・・・
まあそこら辺は目を瞑ってやってくださいv


   

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