「レゴラスってさ・・・エルフのくせにHだよね」



■Hな理由(ワケ)U■



何度も続いた性交にフロドは意識を飛ばし、深い眠りについた。
レゴラスはその寝顔を眺めながら、最中にフロドの言われた言葉を思い出す。

「レゴラスってHだよね」

激しい行為に対して、少し厭味を含んでいたのだろう。
あのときはサラリと流してしまったが。
それは事実で、自分なりに驚いている一因でもあった。

元々エルフは淡白で性欲の薄い種族のはずなのに。
どうしてもフロドの前だと、自分がエルフでないような気分になる。
愛しさと一緒に込み上げてくる欲望を抑えきれないのだ。
それと同時に込み上げてくるもうひとつのもの。
不安。
なぜだかわからない。
満たされているのに時々、それも突然、不安が襲い掛かってくるのだ。

汗で頬にはりついた髪をそっと摘んで黒髪の中に戻しながら眠ったフロドにそっと語りかける。

「愛しているよ、フロド。私は未来永劫貴方を手放すつもりはない。」
「でも何年か経って、貴方がやぱり女性がいい、子供が欲しい、と言い出したら私には止められないし・・・第一女性には敵わない。」
「だから・・・私から絶対離れられないような躯にしてしまおう、と思ったんだよ。私なしではいられないイヤらしい躯にね。」
「それなのに・・・結局溺れたのは私の方。貴方がいないと生きていけないのは私の方。」
「なんでだろう・・・何度躯を重ねても、もっともっと欲しくなる。心も躯も全部取り込みたい。」

優しいが切なさが篭った小さな声。

「・・・僕は貴方に不安を与えていますか?」

返ってきた答えに驚いてレゴラスがフロドをみると、大きな蒼い瞳が開かれてレゴラスをみつめていた。
いつの間に起きていたのか。レゴラスの独白を聞いていたようだ。

「僕の愛は貴方に伝わってない?」
「そんなことはない!」

フロドが自分を心より愛してくれていることは知っている。
躯さえ男の自分に与えてくれるほど愛してくれている。
それなのに、どうしても貪欲になってしまうのだ。
従来のエルフの性質のように、精神だけが繋がっていればいいとは決して思えない。
精神と同様に躯の繋がりも欲しいのだ。

「僕も・・・不安です。いつか貴方が僕に飽きて、同族の女性がいいと言ったらどうしよう・・・と思うときがある。」
「フロドッ」
「でも貴方の愛を疑っているわけではないのです。ただ時々・・・不安になる。だから貴方の気持ちは痛いほどよくわかります。」

愛、というのは綺麗で幸せの象徴なように思われがちだが。
実際は裏では不安と嫉妬が同居する危ういものなのだ。
愛すればこそ、すべてが欲しくなる。
しかし、己と異なる固体である他人のすべてを理解し手に入れることは不可能だ。
だから、不安が生じる。
一点の曇りもないはずの幸せの中に、一点の不安が滲みでてくるのだ。
反対にいえば、嫉妬も不安もない愛は愛でなく、愛に擬似した無関心に近い感情となる。
嫉妬と猜疑と不安が愛に勝り、それらに負けてしまえば愛は終わってしまう。
消し去りようのない陰の部分を、愛し合い理解しあうことで凌駕してしまえば、愛はいつまでも続くのだ。

だから。
言葉と態度で愛を伝える。
心と躯をひとつにして愛を確かめあう。
同族であればここまで不安はなかったかもしれない。
しかし、エルフ同士でさえこの不安はきっと付きまとう。だからそれを確かめあうために彼らは躯を重ねあうのだ。
生殖行為でなく、純粋な愛の確認。

「だから・・・僕は貴方に・・・抱かれることが、好きです。」

ぷい、と顔を背けて恥ずかしそうにフロドは呟いた。
通常なら聞き取れないくらいの小ささだが、エルフの耳には問題ない大きさだった。
はじめて聞くフロドの言葉にレゴラスは多いに驚かされた。
しかし、それ以上にじわじわと喜びが湧き上がってくる。

「フロド」

小さい躯に覆いかぶさり、その唇を奪う。
動きは突然で乱暴だったが、その口付けは深いものでなく啄ばむような優しいものだった。

躯を繋げて。
相手の反応と快楽の深さを知って。
愛されていることを確認できる。
言葉では伝わらないものも肌を通して伝わってくるのだ。

「でもね、レゴラス」

レゴラスの頬に手を添え動かし、顔をずらして唇から逃れると。
フロドはじろりとレゴラスを下から睨みあげた。

「イヤらしい躯、って・・・何?」

どうも独白すべてを聞かれていたようで。
レゴラスは背筋に冷や汗が流れるのを感じた。

「別に躯で縛ろうとしたわけじゃ・・・」
「へえ、そうは聞こえなかったけど?」

睨みつける蒼い瞳は色っぽく。
腕の中にある躯の温かさと柔らかさにレゴラスは、ゆるりと欲望を刺激されたのを感じた。

「でも結局、いやらしい躯にされたのは私だし・・・いいじゃない。」
「え?」
「フロドなしじゃいられない、こんな躯にした責任・・・ちゃんととってね?」

するりと躯を滑る手の動きにフロドは敏感に反応する。
レゴラスの台詞になんて自分勝手なんだと思うよりも、これ以上の行為は耐えられない、と顔色が変わる。
そんなフロドの反応にレゴラスはくすりと笑った。

「大丈夫。今日は満足しているからもうしないよ。でも・・・一生かけて責任をとってもらうからv」

ちゅっ、と音を立てて口付けして、レゴラスは花が咲くように笑った。
毒気を抜かれてフロドは唖然とする。
でも、レゴラスの、好きな人の嬉しそうな笑顔を見ていたらもうどうでもよくなってくる。
それに。
レゴラスの計画通り、自分もイヤらしい躯にされてしまっているし。

「レゴラスも一生かけて責任とってね?」

くすくす笑いながら抱きついてきたフロドをレゴラスは抱きしめ返す。

「もちろん!毎日でも!!」
「・・・そんなには・・・いいよ。もたないから。10日に1回くらいで。」
「10日に1回!?」

レゴラスがガバリと起き上がりフロドに抗議する。
10日に1回なんてあまりにも少くな過ぎると。
そんなレゴラスを呆れた表情で見上げながら、はいはいと軽くあしらっていたフロドだったが。
暫くすると、疲労と他人の体温の気持ちよさにゆるゆると眠りに引き込まれていった。

「・・・まだまだ開発の余地はありそうだね。」

妖しい微笑みを浮かべ呟いた言葉はきっちりと眠り込む寸前のフロドに届き。
フロドは言ったことを後悔しながら引きつった笑いを浮かべた。

 
 
 
 
 

2004/05/05 writing
 

   
  
 ■あとがき■
「Hな理由」の続きデス。
レゴラスの独白系から始まり、少々シリアスちっく?
・・・じゃないですねぇ(笑)
まあ、恋する不安、みたいな感じがテーマかな。
人を好きになるのは
嬉しかったり楽しかったりするばかりじゃないからですね〜
まあ、結局はオバカな感じのオチになってますが。

シリアスを貫き通せない私がある意味オバカですネ(笑)


  
   

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