エルフの耳がいいことは知っている。
どんなにどんなに小さな呟きでも聞き取られてしまう。
だから決して声には出さないけど。
(綺麗だなぁ)
何度目になるかわからない言葉を、フロドは心の中で呟いた。
 
 
 
■美女と野獣■
 
 
 
テラスに置かれた大きな椅子にフロドはちょこんと腰掛けていた。
今日はとても天気がよく、空も突き抜けるように青い。
微かな風が頬をなでるのが気持ちがよく。
花や草木の瑞々しい香りが一面に漂っている。

こんな天気の良い日に家のなかにいたら腐ってしまうよ。
美味しいお菓子を貰ってきたんだ。テラスでお茶にしよう。

そう言ってレゴラスは窓を大きく開けて、広々したテラスにテーブルや椅子を設置した。
手伝おうとするフロドを制して大きな椅子に座らせると、いそいそとお茶の準備をはじめたのだった。

レゴラスが働いているのに自分は何もせず座っていることに小さな罪悪感を感じるが。
楽しそうなその姿に、なにもしないでいる方が彼のためなのかな、という気分になる。
はじめは手持ちぶたさでモジモジしていたフロドだったが、そのうち無意識にレゴラスを眺めだした。

唄を口ずさみながら動きまわるレゴラスは上機嫌でとても楽しそうだ。
エルフ語の唄は心地よく耳を擽る。
甘い匂いがする焼き菓子を皿に盛る指の動きも優美で。
陶磁器をテーブルに並べるしぐさも優雅だ。
日の光を受ける金髪は太陽よりも輝いていて。
優しさを乗せた新緑の瞳も綺羅綺羅としている。

いつの間にかレゴラスに見とれていたことに気がついてフロドはちょっと笑った。
エルフは美しい種族だけど。
レゴラスはその中でも特に美しいのではないかとフロドは思う。
王子という身分だけあって動作は流れるようで、戦うときですら例外ではない。
本人は見た目を気にしないタイプみたいで、機能性重視の衣装を選ぶあまり
配色や形にいまいちセンスが伺えない服を身に着けることも多いけど
そんな服でも彼が着るとそこまでセンスが悪くないように見える。
正式な衣装を身に着けた姿なんて吃驚するほど綺麗だったし。
男にしておくのは勿体ない、と思ってしまったくらいだ。

女性的な容姿だというわけではない。
綺麗でスラリとしているけどちゃんと男性的で、女性には決してみえない。
でも、もしレゴラスが女性だったら。
それはもう絶世の美女だっただろう。


絶世の美女、レゴラス。


透き通るような白い肌と紅い唇。
金色の髪を腰よりも長く垂らし、花を形どった髪飾りをさしている。
大きく開かれた胸元から豊かで形のよいバストがこぼれんばかりで。
女性的な曲線を描いた体はぴたりとした白いロングドレスで包まれている。

ゆっくりと近づいてくる動作も洗練されていて美しく。
ふんわりと花のような香りがして。
名前を呼ぶ声も柔らかく優しい。

誰よりも美しく誰よりも気高く誰よりも優しい。
絶世の美女のレゴラス。



「フロド?」



見た目に合う高い女性の声ではなく、低く響く男性的な声で名を呼ばれて。
フロドはハッと現実に戻った。
目の前にいるのは絶世の美女でなくいつもの男のレゴラスだ。
レゴラスが女性だったらいい、なんて一度も思ったことないのに。
妖艶で魅惑的な女性のレゴラスを想像していた自分に気がついてフロドは顔を赤らめた。

「フロド、何を考えてたの?」

いつの間にか目の前に膝まづいたレゴラスが悪戯気にフロドを覗きこんでいた。
まさか女性になったレゴラスを妄想していたなんて言えなくって、フロドは答えに詰まった。

「ふふ、私に見惚れていたでしょう?」

くすくすと満足そうに笑いながら立ち上がり、レゴラスはヒョイとフロドを抱き上げた。

「ちょっ、レゴラス!」
「何を考えていたか一目瞭然だよ。フロドが何を考えているか凄く伝わってきた。」

腕から逃げようとしていたフロドの体がカッチリと硬直してしまった。
エルフにはいろいろな能力があると聞くけど。
レゴラスは他人の頭の中が覗けるというのだろうか。
吃驚した表情でまじまじと見つめるフロドをみてレゴラスは益々楽しそうに笑った。

「いくらエルフでも人の考えていることは読めないよ?安心して。」

発しなかった心の中の問いに答えられては、その言葉に真実味がない。
人の心が読めるなんて通常は絶対信じられないことだけど。
少しばかり心にやましさを持つフロドは正常な判断がつかなくなっていた。

「私はフロドの恋人だよ?顔をみれば充分わかるよ。」
「・・・・怒って・・・ないの?」

女性だったら、なんて想像されて。
自分だったら耐えられないしきっと哀しい気持ちになってしまうだろう。

「怒る?とんでもない!嬉しいくらいだよ。」
「え?!嬉しい?」
「そう。フロドが私をそういう風に見てくれて。凄く嬉しい。」
「で、でも!」
「それに男なら当たり前のことでしょう?」

レゴラスは幸せそうな表情を浮かべフロドの顔にキスの雨を降らせた。

レゴラスの言葉と行動に、フロドは少しパニックっていた。
そういうものなのだろうか?
男同士の恋人というのは、相手を女性のように想像することが普通なのだろうか。
哀しいとか嫌だとか思う自分が変っていて、そう思われることは嬉しいことなのだろうか。
レゴラスの腕のなかでフロドはぐるぐると考え込んでしまった。
 
 
 
 
気がつくと。
背中には柔らかい感触がして。
目の前には覆いかぶさっているレゴラス。

「え?」
「嬉しいよ、フロドが自分からその気になってくれるなんて。」

いつの間にか室内に戻っていて。
レゴラスに寝台へ押し倒されていた。

「えぇ!?」
「まだ明るいけどいいよね。大丈夫、明るさなんてすぐ気にならなくなるよ。
 いつも以上に満足させてあげるから・・・期待して♪」

ここに来て。
ようやくフロドはレゴラスの勘違いに気がついた。

確かにレゴラスを見つめていたけど!!
確かにレゴラスに見惚れていたけど!
そういう気分になったんじゃない!!!
全然違う!!!!

フロドのそんな抗議や声は、恋人の視線や表情に煽られてすっかりと野獣と化したレゴラスにはまったく通じなかった。
そして。
レゴラスの宣言通り。
いつも以上に激しい行為は夜遅くまで続いたのだった。
 
 
 
 
 
 
 
題名誤り。【美女は野獣】
 
 
 
 
 
 
 

   
  
 ■あとがき■
「美女は野獣」
という題名から書いたレゴフロ小説デス。
題名から入るのは私的にとても珍しいので
阿呆な内容になってしまいました(エヘ♪)
(阿呆はいつもだろうという突っ込みは不可)

珍しくフロドが色ボケ気味になっております。
変な妄想もしてるし(笑)
そしてレゴラスもいつもの通り暴走中。
でも、まあ
うちの王子は美女だけと野獣ですから仕方ない!(爆)


   

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