彼が私達の元へ還ってきた。
ガンダルフに助け出された彼を見て涙が出そうになった。
痩せてひとまわり小さくなった傷だらけの体。
指の欠けた血まみれの小さな手。

旅の壮絶さが伝わってくる。
あの恐ろしい指輪の重荷をすべて引き受けて彼は旅を続けたのだ。
今ここに生きて還ってきたことが奇跡に近い。
深い深い感謝の念が心の奥底から湧き上がってくる。
誰への感謝なのかはわからない。
還ってきてくれた彼へ。
彼を還してくれた何かへ。
私は感謝せずにいられなかった。
 
 
 
■フロドの帰還U−君を待つ−■
 
 
 
昏々と眠るフロドの枕元に佇む。
彼が還って来てくれて何日過ぎたことだろう。
未だ目覚める気配はなかった。

綺麗に清められて大きな寝台に沈み込んで眠り続けるフロド。
窓から差し込む白い光を受けたその姿には神々しささえ感じる。

貴方が生きていてくれて本当によかった。
温かい体と小さな寝息。
貴方が生きていることが実感できる。
でも。
はやく目覚めてその蒼い瞳に私を映して。
小さな唇で私の名前を呼んで欲しい。

疲労困憊で傷ついたフロドの体はそれらを癒すために深い眠りを必要としている。
それはわかっている。
でも、幾日経っても目覚めないフロドを見ていると。
このまま彼が目覚めなかったらどうしよう、と不安が湧き上がってくるのだ。

「フロド・・・」

彼の名前を呼ぶ。
指の欠けた手を両手で包み込み、何度も何度も呼ぶ。

私の声が届いたら、早く還ってきてフロド。
ずっと待っているから。貴方をずっと待っているから。
私の元に、私の腕の中に。少しでも早く還ってきて。

寝顔が安らかで穏やかなのがせめてもの救いだ。
開かれることのない瞼に口付ける。
早く還ってくるように、早く目覚めるように、と祈りを込めて。





幾日過ぎたのだろうか。
相変わらずフロドは眠り続けているが、怪我も大分よくなり顔色にも血の気が戻ってきていた。
あと一息だと思う。
フロドが完全に還ってくるまであともう一息。

いつものようにフロドの手を握り名前を呼んでいると。
フロドの意識がこちら側へ近づいて来ていることを感じた。
今までと何がどう違うのか、なぜわかるのか、と問われても答えられない。
でも、わかるんだ。フロドが私の元へ還ってこようとしているということが。

喜びに胸が震える。
握る手に力が篭る。
彼を呼ぶ声が自然と大きくなる。

今すぐというわけではない。
だか確実にフロドは覚醒しようとしている。
あと数時間、長くて1日といったところだろうか。

そこまで考えて、私はある事に気がついた。
フロドが此処に帰ってきて今まで、私は私自身を省みることなくフロドに付き添っていた。
胸元に流れる髪を指先で掴み観察してみると、色艶がなくなっているように思える。
そういえば肌にも張りがないような気がする。
体力的な疲労は感じないが、精神的な圧迫はあった。
そしてそういうものは体に現れるのだ。

フロドが目を覚ましたとき。
容色の落ちた私の姿をみせるわけにはいかない。
いつもよりも、そして誰よりも美しい姿をフロドにみせたい。
フロドから一時も離れたくはないが。とりあえず身支度は整えなくてはいけない。

柔らかい頬を撫でながら額に口付ける。
そして私はガンダルフを呼び、フロドの様子を伝えると急いで自室へと戻った。





湯殿の準備をしてもらい、私は湯にゆっくりとつかる。
エルフ特製の香油を入れた湯を肌や髪に擦りこむ。
やはり肌も髪もかなり荒れているようだ。
よく考えると無理ないことだと思う。
指輪を捨てる旅のあとは、戦いに続く戦いの日々だった。
フロドと別れてから随分見目が悪くなっていることだろう。
香油を手に取ると丹念に顔や髪に塗りつける。
こうしている間もフロドのことが意識から離れることはない。

「おまえさんがフロドを人に任せるとは珍しい」

ガンダルフは少し驚きながらも笑ってそう言った。
勿論任せたくなどないけど、今はそうも言ってられない。
煩いホビット達を安静が必要なフロドの傍には寄らせたくないし
アラゴルンに至ってはとんでもない!という感がひとしおだ。
まあガンダルフならいいだろう、との選任だった。

湯殿から上がり、体や髪を乾かす。
もちろん新しい香油を擦りこむことは忘れない。
秘伝の香油をいくつも使ったせいか、張り艶がよくなったような気がする。
衣装棚をあけて日頃は着ることのない衣装をとりだす。
エルフ特有の優雅なデザインの服だ。
デザイン重視なせいか幾分機能性が劣る。
だから滅多に着ることはないのだが、見栄えを考えるのならこの方がいい。

身支度を整え、鏡に向かって最終チェックにはいる。
髪よし。
肌よし。
服もよし。
角度をかえ上から下まで隅々と確認する。
完璧だ。
時間をかけて手入れしただけはある。
これならフロドも私に惚れ直すかもしれない、と満足気に笑った、そのとき。

気配というかオーラというか。
フロド放つ生命力が強くなったのを感じた。
これはフロドが目を覚ましたことを意味する。


私は部屋を飛び出し、フロドの部屋へ全力疾走した。
誰よりも早くフロドと会いたかったのに。
あの部屋には既にガンダルフがいるのだ。
自分の計算ミスに舌打ちをしつつ、廊下の角を曲がると。
数フィート先のフロドの部屋から、ホビット達の高らかな笑い声が聞こえた。
そして今、目の前でギムリがフロドの名前を呼びながら部屋へ入っていくところだった。

なんということだ。
私としたことが。
ガンダルフのみならずほとんどの者に遅れをとるとは!
ギリリと唇をかみ締める。
この室内から響く音や気配から、メリーやピピン達はフロドに抱きついて、再会を喜びあっているのだろう。

それは私がしたかったことなのに!!

腹立たしいし心底悔しいが。
ホビット達と同じことをするなんて私のプライドが許さない。
こうなれば手法を変えるだけだ。

扉の前で足を止めると服と髪を撫でて整えなおす。
大きく深呼吸してこの不愉快感を心の奥に閉じ込める。
そして、私は。
これ以上ないというほどの微笑みを浮かべ、フロドの待つ室内へと踏み込んだ。

 
 
 
  
 
 

   
  
 ■あとがき■
フロドが目覚めるまでのレゴラスの行動を勝手に妄想。
なんでうちの王子はこんなに阿呆なんでしょうかね(爆)
  
   

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