川岸の向こうからレゴラスの視線を背中に痛いほど感じた。


■別離■


彼が僕のことを見ている。
僕は振り向きたい衝動を抑えるのに全精力を使わなければいけなかった。

後ろにはレゴラスがいる。
あの綺羅綺羅とした金糸の髪。
深い新緑を映したグリーンの瞳。
エルフ特有の愁眉さをもつ美しく整った白い顔。
振り返れば、それをもう一度見ることが出来る。

でも。
見た瞬間に、この決心は崩れてしまうような気がするから。
もう一度彼の元に戻りたいと思ってしまから。
だから、振り向かない。振り向けない。

これから本当に始まる指輪を捨てる旅。
もう二度と会えないかもしれないけど。
面影や彼の言葉は心深くに刻んだから。
もう一度会いたいと思えば。
どんな辛い旅も乗り越えていけるかもしれない。


彼のことは僕の大きな支えになる。


身の危険を感じたとき呼んだ名前は彼の名ではなかった。
僕を抱き上げていつも危険から遠避けてくれたのも彼ではなかった。
いつもアラゴルンに頼ってアラゴルンに守られていたのに。
こうして別れが辛いのは彼との方だった。
きっと僕は彼に精神的に守られていたのだ。
彼から安らぎや安堵を与えられていたのだ。


離れようとして、ようやくそのことに気がついた。


川岸を走り抜けて森へと駆け込む。
この決心が崩れてしまわないうちに。
衝動に負けて振り返ってしまわないうちに。
彼の視界から僕を消し去ってしまわなくては。



この旅の終着で。
もう一度彼に会うことが出来たら。
きっとこの思いを伝えようと思う。



ありがとうの言葉と一緒に。
 
 
 
 
 
 

   
  
 ■あとがき■
微妙に「夢先案内人」から繋がっているという感じで。
  
   

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