■続・よいびと(後編)■



(さて、と♪)

レゴラスはもうヤル気満々である。<コラ
この絶好のチャンスを逃す手はない。邪魔者は誰一人としていないのだ。
そのうえフロドはまったく抵抗をしない。
それどころが反対に積極的であるように思える。
エルフにあるまじき邪な微笑を浮かべてレゴラスが視線をおろすと。
なんと。
フロドは目をしっかりと閉じて寝息すら立てている状態だった。

「え?」

拍子抜け、といった小さな叫びを発して軽く躯を起す。
少し離れてみると、フロドの今の状態を再認識してしまう。
乱れた衣服とその下から覗く肌。
酒とキスの効果なのか顔だけでなく躯全体がピンク色に染まっている。
子供のように無邪気に眠る姿はなんともいえないイケない気分を与えてきて、ますますレゴラスを煽ってくるのだが。
眠る相手に悪さをすることに少々の罪悪感を感じてしまう。
でも、盛り上がった気持ちと躯の熱はそう簡単には引かない。
どうしようか、と戸惑い視線をさまよわせていたレゴラスの目に飛び込んできたのは。
フロドの胸の、ピンク色のふたつの飾り。
ぷっくらと美味しそうなそれを見た瞬間、レゴラスの迷いは欠片も残さず四散した。

「・・・まあ、いいか。びっくりして目を覚ましてしまうくらい気持ちよくしてあげるからね。フロド♪」

ゆっくりとフロドに圧し掛かっていく。
一番最初に目指すはレゴラスを誘ってやまない可愛い飾り。
顔を近づけてそっと唇に含もうとした途端。
ガキッ!
いきなり頬に打撃をくらってレゴラスの躯が横へ倒れた。

「くっ・・・」

頬を擦りながらフロドをみると。
殴った張本人は未だ気持ち良さそうに寝息を立てている。
どうも寝返りを打とうとして、その手がレゴラスにクリティカルヒットしたようだった。
起きて抵抗をはじめた訳ではないと知ってレゴラスは安堵する。
深呼吸を数度繰り返したあと、気を取り直して再度フロドに圧し掛かろうとすると。

ドカッ。

腹部に一発フロドのキックが炸裂した。
いくら躯を鍛えていてオーク相手でも怯まないレゴラスといえ、油断している所に攻撃を加えられればダメージはそれなりに大きい。
ゴホゴホ、と激しく咳き込みながら眦に涙を浮かべてフロドをみると。
やはり、フロドはぐっすりと眠っていた。
とても狸眠りのようにはみえない。正真正銘夢の中だ。

それなのに。
レゴラスがイケナイことを仕掛けようとする度に、拳だの足だの肘だのが飛んでくる。
ここで負けるものか、この難関を突破してこそ真の悦びを得られるのだ!
とばかりに変な対抗意識を燃やして勢いよくフロドに襲い掛かったそのとき。
フロドがまるで夢遊病者のようにガバリと躯を起した。もちろん眠ったままで。
そして生憎にもその頭にレゴラスは思いっきり頭突きをかましてしまった。
散々殴る蹴るの暴行を加えられていて今度は留めとばかりに頭だ。そのうえ当たり所が悪かったらしく。
無念にもレゴラスそのまま意識を失ってベットの下へと転がり落ちたのだった。




明朝。
何が起こったか一切覚えていないフロドがきょとんとしているその横で。
レゴラスがアラゴルンにガミガミと怒られていた。
だが、アラゴルンが一息ついたとき。
「私があんな酔って前後不覚のフロドに悪さするとでも本当に思ってるのかい?」
それまで黙っていたレゴラスが不満げに言った。
確かに。
その言葉通り、昨夜はふたりの間には何もなかったようだった。
レゴラスはアラゴルンを見つめた後、その後ろにいる他の者たちをぐるりと見渡した。
一晩中ふたりを探し回っていたらしく、かなり疲れた様子だ。
「自分達がするからと言って、私も同じことをするとは思わないで欲しいね。」
ニッコリと妖しく笑いながらそう言うと。
レゴラスはふん、と小さく鼻で笑って皆に背を向けた。
「そんなつもりじゃ」
と口々に慌てた様子でごちゃごちゃ言い出した者達に囲まれながら、ギムリはレゴラスの背を見送った。
親友の不機嫌さをひしひしと肌で感じてギムリは大きく溜息を吐いた。
その脳裏に昨夜のガンダルフとの会話が蘇ってくる。



「メリー達は知らないのだがの。フロドにはもうひとつ酒癖があるのだ。」
「もうひとつの酒癖?」
「そうだ。起きているときはあの通り。だが一度眠ってしまえば・・・」
ガンダルフは言葉を止めて何かを思い出したかのように、痛そうに表情を歪めた。
「ガンダルフ?」
ギムリが名を呼び先を促すと、ガンダルフは軽く苦笑した。
「寝相がな・・・とにかく凄いのだ。」
「ね・・・寝相だと?」
「あの小さな躯のどこにそれだけの力があるのかと思うくらい、暴力的な拳やら蹴りが飛んでくる。」
「ということは・・・」
「特に油断しているときにやられたら一発じゃよ。あれには誰も勝てん。
 ビルボに前もって聞いていたわしですら、酔ったフロドを介抱しているときやられたからの。」
魔法使いですら、手こずるフロドの酒癖。
フロドにキスされて不埒な行為に及ぼうとした者はすべて撃沈されたよ、と
ガンダルフは楽しそうに高らかに笑ったのだった。



一晩中ふたりを探しまくって疲れているうえに、頭に血が上った連中は気がつかなかったようだが。
ギムリはレゴラスの額や頬に残る、微かなハレに気がついていた。
ガンダルフの言葉に嘘はないらしかった。
ふう、ともう一度大きく溜息を吐いたあと、ガンダルフをみると。
彼も気がついていたのか、笑いをかみ殺して悪戯気な瞳でギムリを見返してきた。

笑い事じゃない。
レゴラスの自業自得とはいえ、あの不機嫌さ。
とりあえず自分は当分レゴラスに近づきまい、と決心したギムリであった。
  
 
 
 
 
 

   
  
 ■あとがき■
フロレゴではなかったようですが
レゴラスちょっぴり悲惨な目に(笑)
よっぱらい相手に悪いことしてはいけませんヨ
それにしても、寝相の悪いフロド・・・
自分で書いたけどあまり見たくないカモ?(^^;) 
  どうでしょ、微妙。
    
 

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