最近、とても怖いのに。
なんだか懐かしくって幸せな感じの夢を見る。



■夢先案内人U■



指輪を捨てる旅に出て。
もう幾日が過ぎたか覚えていない。
でも、日に日に指輪の存在が大きくなっていく。
心と精神が何かに引きずられていくような感覚。
震える程恐ろしいのに誰にも告げることは出来ない。
いや、誰にも告げてはいけない。
決して誰にも告げてはいけないんだ。

そして僕は夢を見るようになった。





気がつくと暗闇の中に一人佇んでいる。
周りには誰もいなくって、みんなの名前を呼んでもどこからも返事はない。
広がるのは闇と静寂だけ。

視線を感じて振り向くと。
そこに在るのは、あの大きくて恐ろしい僕を凝視する炎の目。
闇の中に在るのは指輪を持つ僕と、赤々と燃え盛る炎の目。
僕達を遮るものはなにもなくって。
僕を引き止める人も助けてくれる人も誰もいない。
近づきたくないのに意思に従わない足が歩み始める。
頭の中で指輪を求める恐ろしい声が響く。
全身汗を流し鳥肌をたて逃げようとするのにそれは叶わない。

近づく。
指輪が真の持ち主の元へ還ろうと僕を操る。
近づく。
あの悪しき者に。

捨てなくてはいけないのに。
原子に戻さなければいけないのに。
そのためにここまで旅をして来たのに。

全てが無駄になるということなのだろうか。
炎の目と指輪の意思に逆らえない。
意識が朦朧とする。
僕を襲うのは恐怖と焦燥感と、諦め。

もう駄目だと思う。
僕は使命を達成できなかった。
この世界は闇に沈む。
恐怖と死の支配する世界に変わり果てる。
誰も幸せになれない。
懐かしいホビット庄の景色も。
風にそよぐ草木や小川のせせらぎ。
それらすべてがこの世界から消滅する。

哀しくって、辛くって、悔しくって。
ぎゅ、っと瞑った目から。
涙が、ひとつぶ流れ落ちた。





ふんわりと。
暖かいものに包まれる。
ふんわりと。
風や草木の香りに包まれる。
ふんわりと。
流れる涙をぬぐわれる。
ふんわりと。
優しい歌声が聞こえてくる。

瞑った目を開けてみると。
そこは白い、真白い世界。
手には指輪を握っているのに。
指輪の意思はもう感じない。
炎の目もいつの間にか消え失せている。

恐怖も、焦燥感も、哀しみも、僕の中から消えている。

ホビット庄にいるような。
懐かしい故郷にいるような。
嬉しい、幸せな感情がわきあがってくる。

体が暖かくって、草木の薫りがして、優しい歌が流れていて。
すべてが癒されていく。

僕は自分がふんわりと。
笑ったことに気がつく。

そしてゆっくりと目を閉じる。
夢のない夢の中へ心と体が沈んでいくのを感じる。






最近、よく夢をみる。
とても怖いのに、なんだか懐かしくって幸せな感じのする夢を。
  
 
 
 
 
 

  
 
 

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