気持ちを隠すことも出来ず心底落胆している悪魔を見て、僕は可笑しくって堪らなかった。

 
 

The last game



 
「僕が目的を果たすまで殺さずに生かし続ける」
「契約が完了したあかつきには魂を喰らう」

それが僕と悪魔との契約だった。
悪魔は人の心を理解することが出来ない、悪意に満ちた忌むべき存在だ。
己の美学を貫くためには獲物の下僕に成り下がることも厭わない、なんとも理解しがたい存在である。
人間と悪魔。お互い理解し合えないのは当然の事だろう。
その美学とやらのお陰で僕は強大な力を使う権利を与えられた。
とはいえ、毎日がまるで綱渡りのようだった。いや、スリルのあるゲームといったところか。
気を抜けば足元を掬われる。油断すれば手玉に取られる。
信用はしているが信頼はしていない。あくまで悪魔は僕の駒に過ぎないのだ。

「嘘をつくな」

僕が最初から最後まで求めた、最低限の命令。

「私は嘘はつきません」

悪魔はそう云った。
人間のように複雑な思考を持たない悪魔は「嘘をつく」という情緒を持ち合わせていないのだ。黙っている、隠している、ことはあっても嘘をつかない。悪魔と共に在って僕はそう思ったのだけど。
最後の最後に悪魔は僕に嘘をついた。
僕の殺すべき敵を新たに作り上げ、嘘の情報を持ってして目的を果たさせようとした。
殺すべき虐殺の天使も、それを使役する女王もとっくに亡いというのに。
僕と同じく悪魔を下僕とする子供を討たせ、もう一度僕の魂を熟成させようとした。
結局、契約は終了していたのだ。随分と前に。
だから悪魔が僕の執事をしていたのは、おまけのゲームのようなものだったのだから「嘘をつくな」という命令を聞かなかったとしても仕方がないことだとは思う。
思うが。
僕の意思を無視して、僕を蚊帳の外の置いて、欲望の赴くまま好き勝手している悪魔に腹が立ったのは事実だ。相手は悪魔だ。それらは悪魔として当然の行動とは理解できるが、やぱり感情が憤るのは止められない。

もともと魂はくれてやるつもりだった。
生を重ねていくつもりなど更々なかった。
悪魔に食われて輪廻転生からもはずれ完全に消え去るのが僕の望みだったし、理由はどうであれ契約を遂行してくれた悪魔に褒美をやらぬような狭量ではないつもりだ。

だが、僕は意図せず永遠の命を手に入れてしまった。
人間ではなく悪魔としての生。
なんという皮肉なことか。僕の望みとは正反対の結果になってしまったのだ。
それもこれも好き勝手した悪魔のせいだと忌々しく思い、この悪魔をどうしてやろうかと思ったのだけど。

悪魔として復活した僕の前にいる悪魔を見て、心の奥底から可笑しさが湧き上がってくるのを感じた。
前と変わらず一見慇懃風に跪く悪魔の、心底落ち込んだ姿。
死んだ魚のような目をして、皮肉な微笑を浮かべる余裕もなく、無表情で僕を見上げてくる、今まで一度も見たことがないその姿が。
面白くって哀れで可笑しくって仕方がない。
僕はずっとこの執事が困ったりしてやられたるする姿を見るのが大好きだった。
あまりの面白さに「嘘をつかれて振り回された挙句悪魔に身を落とすはめになった」ことに対する恨みなと一気に吹き飛んでしまった。
ああ、なんて面白可笑しいんだ。
決して遂げることが出来ない契約に伴う命令を盾に、悪魔を僕の「悪魔の執事」にした。
こんな命令なんてあってないようなもの。
本当はいつでも破棄できるだろうに、晩餐にあぶれガッカリしている悪魔は反抗する気力もないらしい。
今までのように僕の傍に在り、僕の面倒を見続けている。
表情だけは虚ろでまるで人形のようではあるが。

まあいい。
僕は呪縛から解き放たれたような爽快な気分になっている。
悪魔になりたかったわけではないがなってしまったのなら仕方がない。
この悪魔で遊ぶだけ遊んだら。
僕はちゃんと終わりへの道を探しに行こうと思う。
人間も悪魔も行き着く先は同じだ。たとえ其処までの道のりが違っていようとも。


時間はたっぷりある。
きっといつか必ず何かが見つかるはずだ。

 
 

最後の遊び

 








■あとがき

一番かわいそうな結果になったのはシエルだと思うんですよね。
永遠の命なんかいらなかったのに、悪魔に魂を喰わせて終りたかったのに、あの結果。
でも、シエルならいつまでもどうしようもないことをウダウダと悩んだり落ち込んだりするより開き直るんじゃないかなーと。
それにいじめっこ気質のシエルのこと。セバスチャンが目の前でしょんぼりがっかりしてるのを見たら楽しくって楽しくってしょうがなくなるんじゃないですかね(笑)





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