「そろそろか・・・」
この頃、相手が何をしようとしているのか、少し分かってきた、と思う。
最近のどこか落ち着かない様子。
部屋でゴソゴソ音がするのは身支度だろう。
いつもの「修行の旅」に出るつもりなのだ。
五右ェ門は何も言わないが、次元はそう確信していた。
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次元はどこかに出かけるらしい。
ここ数日、車のタイヤを替えたり、オイルやエンジンのチェックをしたり。
車を運転しない五右ェ門には分からないが、普段からそれなりの整備はされているはずだ。
次元はまめな男で、そういったメンテナンスは欠かさない。
それがここまで準備しているのだから、今回は遠出になるのだろう。
マグナムの弾を鞄に詰めているのも見かけた。
ならば仕事か。ルパンから呼び出されたのだろうか。
五右ェ門は何も聞いていないから、次元が個人で受けた仕事かもしれない。
知らされていない、というのが何となく面白くなかったが、せっかくだから便乗することに決めた。
旅の途中で立ち寄ったルパンの隠れ家の一つで、次元に会ったのは全くの偶然。
久々に誰かと過ごす日々は心地よく、気付けば1週間が過ぎていた。
そろそろ潮時だ。と、頭の奥では感じていたのだ。
元々たいした荷物は無かったが、いつでも出られるように準備だけは済んでいる。
ちょうど良かったのだ。次元が出かけてしまうなら、自分もまた修行の旅に戻ろう。
行く先も何も決めていないが、どこか適当なところで降ろしてもらえればいい。
そこからまた一人で旅を続けていけばいいのだ。それで元通り。
早速、次元に便乗させてくれるよう頼んでみよう。
仕事の邪魔をしなければ乗せてくれるだろう。
家の中に居ないと思ったら、ガレージで次元の姿を見つけた。
まだ車をいじっているらしい。
汚れるからか暑いからなのか、上着を脱いで腕まくりをして作業している。
それでも帽子と煙草は欠かさないのだから呆れてしまう。
「次元」
「よぉ、五右ェ門。ちょっとばかし待ってくれ」
どうやらトランクに荷物を積み込んでいるらしい。
五右ェ門がのぞき込むと、寝袋や食料、衣類などが結構な量詰め込まれていた。
町から離れての仕事なのだろうか。怪我などしなければいいが。
荷物の中の救急キットが目に入り、急に不安に襲われる。
自分たちの仕事は危険と隣り合わせの稼業だ。事故や怪我の心配は常の事。
だが、一人での仕事と思えば、その心配もなおさらだ。
・・・自分がついて行っては迷惑だろうか?
ルパンも次元も、手を借りたい時は遠慮などせずに「手を貸してくれ」という人間だ。
声をかけないという事は、助けなど要らないという事だろう。
それとも、誰か別に仕事仲間がいるのかもしれない・・・。
そんな事をぐるぐると考え込んでいた五右ェ門は、バタン!という音で我に返った。
荷物を積み終わった次元が、勢いよくトランクを閉めたのだ。
「これくらいで良いか。待たせたな、五右ェ門」
手に付いた埃を払いながら、次元が振り返る。
「いや、大した用事ではないが拙者こそ作業中にすまぬ。ところで・・・」
「で、五右ェ門。いつ出発する?」
「は?」
一瞬、何を言われたか分からず、ぽかんと次元を見返す。
「なーに間抜け面してるんだ。お前また修行の旅に出るつもりなんだろう?
今回は俺も一緒に行ってやるよ」
椅子の背に投げ掛けていた上着に袖を通しながら、どうせ暇だしなー、と次元は笑う。
「いや、しかし・・・次元、お主仕事だったのではないのか?」
「いや別に?俺は暇だって言ったぜ?それに仕事ならお前にも声をかけるさ」
「む・・・」
何か言おうとするのだが、上手く言葉が出てこない。
そんな五右ェ門の頭を、次元はポンポンとなでる。
子供扱いするな、と言う隙を、次元は与えてくれない。
「・・・仮に仕事があったとしてもだ。
お前の旅のお供ができるなら、キャンセルしたって構わないんだぜ、五右ェ門」
「なっ・・・次元、お主・・・」
肩を抱かれ耳元で囁く声に、体が震える。
頬が熱い。きっと顔は真っ赤になっているだろう。
それを見られるのが恥ずかしくて、顔をそらす。
「し、しかし、拙者は旅に出るなんて一言も・・・」
「行かねえのか?じゃあ俺の一人旅ってわけだな」
やれやれ、肩をすくめて運転席に向かう次元の目元が笑っている。
こっちがどう出るか分かっているのだ。
「・・・・・・行く」
相手の思うとおり動くのが少し悔しい。簡単に心を動かされるのは未熟な証だ。
「そうこないとな。準備はできてるんだろう?」
「ああ。取ってくるから少し待ってくれ」
それでも、すっかり心は軽くなっていた。
荷物を取りに行く足取りも軽い。
自分が未熟でも、次元も付き合ってくれるというのなら。
「この旅は実りが多そうだな」
いつの間にか、五右ェ門の口元には笑みが浮かんでいた。
「・・・で、今回はどこへ行くんだ?」
「まだ決まっておらぬ」
「へぇ?」
「・・・次元が出かけるなら、途中で適当に降ろしてもらおうと思っていたのだ」
「オーケイ。じゃあ風の向くまま気の向くままに行くとするか。二人で、な。
最後まで降ろしてやらねえからな、五右ェ門」
「うむ。最後まで付き合ってもらうぞ、次元」
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