ヒート
  
BY むぎ様
 
 


春のみぞれは細く長く、雨にも雪にもならずにただぐずぐずと続く。
濡れたアジトのドアは凍りつくように冷たいはずなのに、かじかんだ手にはもうその感覚がない。犬のように身震いして室内に飛び込んだ次元を迎えたのはしかし、待ち焦がれた温かい空気だけではなかった。その匂いに鼻をうごめかす。

「・・・・・・なんだぁ?」

クンクンと追いながら進むと、リビングに辿り着いた。一歩足を踏み入れた途端、とろんと甘い酒の香りが次元を頭から浸してしまう。

「・・・・・・帰ったのか。」

うたた寝からはっと顔を上げたのは、意外なことに五右ェ門だった。重そうな瞼をこじ開けて、抱き抱えた酒瓶の蓋をキュポン、と抜く。へべれけといっていい状態に見えた。

「なんだ、1人で飲んでるのか。」
「・・・・・・うむ。」
「ルパンは。」
「今日は帰れぬそうだ。」
「ふーん。」
「お主の方は。どうだったのだ。」
「ああ下見か、ま、ちっと苦労しそうだが、やってやれねえことはなさそうだ。」
「・・・・・・そうか。」

真っ赤な喉元を見せて、くっと侍が杯を煽る。濡れたジャケットを脱ぎながら、次元は問うた。

「・・・・・・何かあったのか、お前。」
「・・・・・・何がだ。」
「いや、1人でそんな風に飲むなんざ、珍しいじゃねえか。」
「・・・・・・別に。」

言ったきり、ぐびぐびと飲んでいる。しばらく眺めてから、とりあえずシャワーでも、と次元が去りかけた瞬間、

「・・・・・・次元。」

背中に声がかかった。

「何だ?」

言いにくいことらしい。人を呼び止めておいてこの侍は、赤い顔で何やらごそごそしている。

「・・・・・・何だよ。」
「・・・・・・ちょっと、ここに座らぬか。」

いよいよもって何だか分からない。

「ま、いいけどよ。」

端に寄りソファを空ける男の隣に、腰を落ち着ける。猪口にまた酒を注ぎ、ちらりとこちらを見て、「お主もやるか」と侍が聞いた。

「いや、シャワー浴びるからよ。」
「・・・・・・そうか。」

少し危なげな長い指が、猪口を唇へ持っていく。湿って朱い唇が器の端を挟むようにして、ついと酒を吸い入れるのを、次元はじっと見ていた。視線に気づいた五右ェ門が目を伏せる。少し笑って、聞いてやった。

「・・・・・・何だ? 五右ェ門。」
「・・・・・・。」

たん、と侍が猪口を置いた。
何か言おうとして息を吸い込む。袷から覗くほの赤い胸が、ぐうっと膨らんだ。

10秒たった。
はあああ、と息が漏れた。

肩も胸もみるみるうちに萎んでいく。ほんの少し縮んだ侍の、視線がなぜか悔しそうに揺れて、脇へ流れた。

「・・・・・・何でも、ない。」

俯いたまま、蚊の鳴くような声で呟く。

「・・・・・・呼び止めてすまなかった。」

膝に置いた手が、袴の布を握っている。俯いて割れた黒髪の間から、紅く染まった首が見えた。

頬も首も胸もゆでだこのようにして、この侍がいま何を考えているのか、いつものことながらさっぱり分からない。しかし次元の頭はもう正直、別のことでいっぱいだった。

「・・・・・・まあとりあえず、話は済んだんだな。」
「・・・・・・うむ。悪かった。」
「構わねえさ。じゃあ次、俺の用事いいか。」

なに?と顔を上げた侍に、後ろからがば、と襲い掛かった。

「なッ・・・・・・、次元!?」
「・・・・・・あったけえええ・・・・・・。」

熱いうなじに顔を埋め、ぎゅうう、と抱きしめる。侍がじたばたともがいた。

「何をする! こら!」
「いや・・・・・・、なんかお前めちゃくちゃあったかそうだと思ってよ。ここなんか・・・・・・、」
「・・・・・・!」

袷の中に突然両手を突っ込まれ、五右ェ門がその冷たさに息を飲む。

「ああああああ〜・・・・・・、生き返る・・・・・・。」

ぴったり手を当てた裸の胸から、じんじんと燃えるような熱が伝わってくる。熱い体に全身を委ねて、次元は湯に浸かった時のような声を出した。

「・・・・・・冷たい。」

侍が抗議の声を上げる。黒髪に押し付けた唇で、「悪ぃな」と伝えた。

「ちっとの間、辛抱してくれ。なんせこのみぞれだ、もう指なんか動かなくてよ。」
「・・・・・・みぞれが降っているのか。」
「宵の口からずっとじゃねえか。お前一体いつから飲んでやがんだ。」
「・・・・・・。」

痛い所を突かれたらしい。侍は急に腕をほどきにかかった。

「もうどけ、拙者は湯たんぽではないぞ。」
「・・・・・・そうだな。」

笑って、うなじをちゅうう、と吸った。

「こんな酒くさい湯たんぽ見たことねえよ。」
「・・・・・・!」

侍の顎が跳ね上がる。ぞろりと舐め上げ、丁寧に丁寧に吸ってやると、吐息が1度、はっきり聞こえた。

「そんな息荒げたりしねえしよ、湯たんぽは。」

胸をまさぐり、両の突起を突いてやった。

「ふっ!」
「こんなものも付いてねえしな。」

くりくりと乳首をいじる。息が乱れ、激しくなってゆく。

「気持ちいいか?」
「・・・・・・。」
「五右ェ門、・・・・・・なあ、こっち向けよ。」

酔ってぐにゃぐにゃの体を苦労して反転させた。味見するようにちゅっと掠め取った唇が、少し開く。何か言い出す前に深く口付け、ソファに押し倒した。

「・・・・・・ほんと赤ぇな、お前。」

前を大きくはだけさせて、朱に染まった全身を眺めた。どこか思い詰めたような上ずった目で、侍がこちらを見ている。見つめ合ったまま乳首をそっと口に含むと、侍の唇が大きく開いた。

「っ次元、」

はっきりと、侍が呼ぶ。
目に意志がある。
言いたいことを抱えている。
ぐいと体を伸ばし、熱い額に額をつけた。

「うん?」
「・・・・・・・・・・・・、」

急に近づいた距離に対応しきれず、侍がふいと顔を反らす。なんだよ、まったく。笑って、目の前に現れた赤い耳を噛んだ。

「ッ!」
「・・・・・・言いたくなったら、いつでも言いな。」

囁いて、熱いものを握る。声を上げない侍の体だけが、びくんびくんびくんと3回跳ねた。

「おい、大丈夫か?」
「知らん・・・・・・!」

うそぶく侍の燃えるような頬をついばみ、握ったものを優しくしごいてやる。うわごとのような音が、向こうを向いたままの口から漏れてきた。
酔った体と頭は侍を敏感にさせるだけで、なかなか果てさせようとはしないらしい。達する直前まで勃起させたものをいたぶられ、長い快感に五右ェ門はのたうち回った。

「イケねえのか。」
「・・・・・・!」

息を荒げて侍が天を仰ぐ。潤んだ瞳が、助けを求めるようにさまよっている。
脚を大きく開いてやった。内腿にキスして、ゆっくりほぐすように指を押し込んでゆく。侍の吐く息がぴたりと止まった。

次元には分かる。
いま侍は一番感じている。
この顔を見るのが好きだった。
中でうごめく指と、しごき上げ先端をほじる指に応えるように、先走りだけがとめどなく溢れ続ける。
名を呼ぶと3度目で、ようやく侍がこちらを見た。

「もう・・・・・・、挿れていいか・・・・・・?」

一瞬、何を言っているのか分からない、という顔をする。唇が開いた。

「・・・・・・早く・・・・・・!」

俺を殺す気か、と次元は思った。

太腿を引き上げ、痛いくらいに疼くものを埋めてゆく。途中でもう我慢できなくなった。一気に突っ込んだ。侍が喘ぎ、脚を絡めてくる。

「次元・・・・・・!」

なんだ。いまちょっと余裕がねえんだ。
貪るように激しく突きまくる次元の頭を抱え、侍が突然、言った。

「あいして、いる。」
「・・・・・・!」

意味を飲み込む前に、次元は果てた。



     *




やっと全部繋がった。

先日のことだった。
いつものように睦み合い、いつものように「愛してるぜ」と囁いた後、次元は五右ェ門にもその言葉をねだったのだった。どんなに頑張っても「あ」までしか出て来ない侍を、愛おしいと思いこそすれ、気分を害するようなことは全くなかったのだが。

向こうを向き、肩を上下させている侍を引き寄せた。

「ずっと気にしてたのか。」
「・・・・・・何の話だ。」

背を向けたまま、侍が掠れた声で言う。

「このために、あんな酒かっくらったのか。」
「だから、何の話だ。」

ぐるん、と振り返った侍の頭をきつく抱いた。

「・・・・・・なんでもねえよ。」

見えなくても、声で分かるらしい。次元の胸に顔を押し付けられたまま、「笑うな」と侍が凄む。

「笑っちゃいないぜ。」
「嘘をつけ。」
「・・・・・・なあ、もう1回言ってくれよ。」
「断る。」
「なんで!」

想わず侍を引きはがした。

「俺は今までに1万、いや10万回は言ってんじゃねえか。お前まだたった1回・・・・・・、ふ・・・・・・、む・・・・・・、」

突然絡みついてきた侍の唇が、すべての言葉を吸い取った。次元の髪に両手を差し入れ、掻き撫でるようにして、侍が激情を流し込んでくる。
唇を離し、呆けたような次元の額にごち、と額を当て、侍は笑った。

「・・・・・・もう10万回言ったら、また言ってやる。」

繋いだ額が、まだ熱かった。






    

 ■むぎさま■
 
拙宅の10万打祝いに頂きました!


酒の力を借りてでも次元に応えようとする五右エ門!
たった一言がどうしても言えない姿がかわいいですv

10万:1の愛の言葉。
でもきっと言葉にせずとも、態度の端々に愛が滲み出てるんじゃないかと。
たった一言の言葉にここまで一生懸命になってくれるなんて
次元ってば堪らんでしょうなぁvv(羨)
そのうえ「あいしてる」の言葉と一緒に絶頂を迎えるとは
最高の快感だったことでしょうvv

つうか、10万回って・・・揶揄だとしても
次元ってば言い過ぎ!?(笑)
いつまでもラブアマな関係でいてくださいvv


むぎさま、素敵小説をありがとうございました!
 
 
 

戻る


 

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!